「神様、仏様、アルトゥール様」と崇められた男がもたらした日本の武器|元日本代表・渡邉知晃レポート
スターティング5に名を連ね、多くの時間をピッチで過ごしたアルトゥールは、フィクソとしてゲームをコントロールするだけでなく、圧巻の4ゴールを奪ってみせた。
彼の存在感が、彼の力が、日本代表に勝利をもたらしたと言っても過言ではなかった。日本代表に多くのものをもたらした「アルトゥールのすごさ」を僕なりの視点で伝える。
文=渡邉知晃(元フットサル日本代表)
FIFA フットサル ワールドカップ 2021
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日本代表にもたらした最大の武器
彼のすごさは、世界基準のフィジカルと技術、試合をコントロールする戦術眼、決定機をつくり出す正確なパス、鋭い読みとボール奪取……。挙げればキリがないほど、ストロングポイントが多い選手だ。
この試合でも、自身初のW杯とは思えないほど落ち着いたプレーぶりだった。
アルトゥールが日本代表にもたらした最大の武器。それは、セットプレーにおける「シューター」の役割だ。多くのシュートバリエーションを持ち、距離がある位置からでもシュートを決め切る力が、日本代表の新たな武器になったことは間違いない。
キックインからのミドルシュート、直接フリーキック、コーナーキックからのボレーシュートと、この試合でもセットプレーから3つのゴールを奪った。
フットサルの得点におけるセットプレーの割合は非常に高い。どんなに難しい試合でも、試合の流れが悪くても、一つのセットプレーで得点を奪って流れが変わる、その結果、勝利へとつながることは、驚くほど多い。自分も何度もそんな試合を経験してきた。
さらに、レベルが上がり、拮抗した試合ほどセットプレーの重要性は高まる。
セットプレーの際、アルトゥールのような強力なシューターがいることで、相手にとっては非常に脅威となる。当然、いいパスが通ればシュートが決まる確率は高くなり、セットプレーによる得点の可能性が高まる。なおかつ、技術そのものではなく、彼の「存在」自体が武器になる。アルトゥールがいることで相手は彼を警戒しなければならず、その分、他の選手がフリーな状態になりやすいため、チャンスが生まれるのだ。
この試合、アンゴラのコーナーキックの守備はゾーンディフェンスであり、日本はディフェンスの守備網の外からのミドルシュートやボレーシュートを何度も打つことができていた。これを決められるかどうかは、勝敗を左右する上で大きなポイントとなる。
結果的に、セットプレーからアルトゥールが奪った3ゴールは、この試合の勝利の鍵だった。
圧巻だったのは2点目だ。
ペナルティエリア付近から直接フリーキックを決めたシーンで彼は、まさに“アルトゥールらしい”駆け引きを見せた。
■1分15秒の得点シーン(引用:J SPORTS 日本vsアンゴラハイライト)
蹴る直前、あたかも「パスを出すよ」というジェスチャーや声がけをし、体の向きも右にいる加藤未渚実の方向を向けながら、体を内側に捻るような体勢からのシュートで直接ゴールにたたき込んだ。事実、彼の軸足(左足)はゴールより右にズレた方を向いている。
前半残り1秒だったため、パスをすればシュートを打つ前に第1ピリオド終了のブザーが鳴ってしまう可能性も高かったが、アルトゥールのこの「演技」によって、相手は惑わされたのかもしれない。ゴレイロが触れない、肩口から上に突き上げるようにコントロールして蹴った技術は、やはり“すごい”としか言いようがない。さすがアルトゥールだ。
そんなわけで僕も、彼に最大の敬意を表して「アルトゥール様」と呼びたい。
フィクソでありながら高いシュート技術と得点力を併せ持ち、セットプレー時に相手の脅威となる。まさに「アルトゥール様の脅威性」こそ、日本代表の大きな武器だ。
この先のスペイン、パラグアイといった強豪国との試合は、アンゴラ戦以上にセットプレーが日本の勝利に不可欠なカギとなる可能性が高い。すなわち、アルトゥール様の出来が、今大会の日本の成績を左右すると言っても過言ではない。
彼のゴールが日本を勝利へ、高みへと導いてくれるはずだ。
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