
農業×バスケ×政治!? 3x3チームの25歳マネージャーが“町議会議員”になった理由
「チームでここまで町の政治に絡めるんだ」──選挙が生んだもうひとりの主役
── これまで以上に実践的な形で町に貢献できそうですね。選手への影響は何かあるのでしょうか。
近藤: 今回、選手みんながこの選挙活動に参加してくれました。その中でも、この選挙活動に参加してすごく刺激を受けた人間が出てきて、それは個人的には嬉しかったですね。
若林行宗(わかばやしゆきもと)という選手なんですけど。


写真:若林行宗選手/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
── チーム在籍が長い選手ですか。
近藤: いや、入って3ヶ月です。チームに入った瞬間に選挙があって、及川と同い年の25歳で、「チームでここまで町の政治に絡めるんだ」と衝撃を受けていました。選挙も完全に自分ごととして捉え、本気で戦ってくれました。
彼がいなかったら、この結果はなかったと思います。バスケにしろ、町のことにしろ、地域の活動に積極的にコミットしてくれています。今では、子ども向けの大会を自ら企画・運営するなど、リーダーシップも発揮していますね。
── 事業マインドが高い人にとっては、面白い環境ですよね。
近藤: おっしゃる通りですね。農業に限らず、ここはなんでもできる。なんでもできるから面白い。そう思える人が向いていると思います。


写真:若林行宗選手/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
実は銀座まで車で1時間半


写真:大多喜町の風景/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
── 大多喜町の良いところを教えてください。
近藤: 住みやすいですよ。町にはスーパー1軒だけですが、車で30分行けば他のスーパーもあります。
amazonは、千葉に配送センターがある関係なのか、夜中の2時くらいまでだったら当日に届きます(笑)。
── 確かに、離島じゃなくて千葉ですもんね。
近藤: 車で銀座まで1時間半です。
── 思ったより近いですよね。
近藤: 意外と便利です。町は全員ほぼ知り合いのような感じで、まあ、それは良いのか悪いのかわかりませんが(笑)。
若い人にとっては、新しい風を吹き込める、やりがいがある場所だなと思います。
8,000人の町に、最初20代の選手6人が移住してきたとき、(“こんなに一度に20代が移住してくるのは)ここ50年無かった”と感謝されましたから。


写真:大多喜町で地元の人たちと/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
催し事を作る──サンタと呼ばれる選手たち
── 突っ込んだ質門ですが、バスケットボールも農業も、事業としては決して儲かる分野ではないと思うんです。
近藤: おっしゃる通りで、どちらも収益性は厳しいです。
だからこそ、新たな事業を手掛けるスタッフが育ってきたのが嬉しい。今年は施設の指定管理を請け負ったけれど、来年、再来年は何をどうする、とスタッフたち自身が考えてトライしてくれています。
── 逆に、それでもバスケット事業を続けていく理由は。
近藤: やっぱりスポーツの力は大きいんです。
先週も小学校に選手がボールの投げ方の指導に行くと、また来てほしい、学童でもやってほしいという声をもらいます。


写真:子どもたちを指導する選手たち/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
── 確かに、子供の数が減ると、そこに割ける大人の労力も減ってしまいますよね。
近藤: 大多喜町には小学校が2つありますが、ひとつは学年10人を割っています。学童は2つ。中学、高校は1つずつです。
その学校に、毎年クリスマスには選手が赤い電飾をつけたトラックで回ってプレゼントを配ります。
── ああ、それはとても良い話ですね。
近藤: 子供たちから選手は“サンタの人だ”と言われています(笑)。夏には花火大会もできないかと企画しています。


写真:荷台を飾った“電飾トラック”/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
── かつて青年団など町の若者が担っていた役割を、「ESDGZ OTAKI.EXE」が果たしているんですね。
近藤: 町に若者が減ると、催し事が少なくなるんです。子どもたちが楽しんで過ごせる時間、場所を作ることも私たちの存在意義なのかなと思います。


写真:子どもたちと触れ合う選手たち/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
自らの存在意義を問いつづけるチーム
農業だけに注目して取材を始めたが、少子高齢化の進む大多喜町で「ESDGZ OTAKI.EXE」は、名付けられない多くの“町にあったほうが嬉しいこと”を引き受けていた。
一般的なプロスポーツチームの興行は逆だ。余暇時間を奪い合うエンターテインメント競争で選ばれるためには、即効性のある成果や数字で、スポンサーや観客の支持を得なければならない。


写真:大多喜町で農業を営む選手/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
「ESDGZ OTAKI.EXE」の挑戦の革新性と、その日常の地道な活動。
現時点では、その環境は、バスケットを第一に考える選手にとっては魅力的な選択肢ではないのかもしれない。ビジネスの視点でも、経済合理性のない地域で大胆すぎる勝負をしているのかもしれない。
しかし真剣に、この国の「地域とスポーツのこれからのあり方」のひとつを提示している。
インタビュー中、“存在意義”という言葉が、近藤さんの口からたびたび出た。町議会議員まで生み出した、人口8,000人の大多喜町で暮らす小さな3人制バスケチームの、大きな挑戦である。


写真:大多喜町で地元の人たちと/提供:ESDGZ OTAKI.EXE
▶︎【前編】勝利か地域貢献か。農業に取り組む3x3バスケチームが問いかける「プロの存在価値」
取材・文:槌谷昭人
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