
2023年のメジャーリーグは4月が終わり、各チームや選手がそれぞれの船出を見せている。3月にはワールド・ベースボール・クラシックも開催され、盛り上がりとともに始まったシーズン。そんなアメリカの舞台に今季日本から新たに足を踏み入れたのが、千賀滉大、吉田正尚、藤浪晋太郎の3選手。三者三様のルーキーイヤーを過ごす3人のサムライたちの序盤戦を振り返っていきたい。(文・井本佳孝)
千賀滉大(ニューヨーク・メッツ)
写真:千賀滉大 提供:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ
4月成績:5試合(5先発)3勝1敗 防御率4.15 26回 32奪三振
福岡ソフトバンク・ホークスから5年総額7500万ドル(約102億円)でメッツに迎えられた千賀は、移籍初年度で新チームでの調整に専念するために3月のWBC侍ジャパン入りを辞退。オープン戦で実績を積むと、期待通りにローテーション投手として開幕を迎えた。デビュー戦となった4月2日(日本時間4月3日)のマイアミ・マーリンズ戦では初回にタイムリーを浴びいきなり1点を失うが、その後は落ち着きを取り戻し、6回途中まで3安打8奪三振1失点で堂々の白星スタートを飾った。
さらに千賀の快進撃は続き、8日(同9日)にも再びマーリンズ相手にマウンドに上がると6回を投げ3安打6奪三振1失点の安定感で2連勝。続く14日(同15日)のオークランド・アスレチックス戦は乱打戦となり、大量リードを得ていたものの4回2/3、4失点で降板を言い渡された。それでも、20日(同21日)のサンフランコ・ジャイアンツ戦では再び味方の援護に助けられ、4失点ながら3勝目を挙げた。4月最後の登板となったワシントン・ナショナルズ戦で初黒星を喫したものの、悪くないスタートを切ったと言える。
千賀の持ち味である“お化けフォーク”は、海を渡っても輝きはそのまま。26回の投球イニングを上回る32奪三振を挙げており、落ちる球が苦手とされるメジャーリーグのバッターに通用することを示している。強力メッツ打線の安定した援護にも支えられる千賀には、このままローテーションを守り続け、2桁勝利を挙げることがノルマとなる。少ない球数でイニングを重ね、メジャーのタイトなスケジュールを乗り切っていけるかが当面のテーマとなるだろう。
藤浪晋太郎(オークランド・アスレチックス)
写真:藤浪 晋太郎(提供:AP/アフロ)
4月成績:6試合(4先発)0勝4敗 防御率13.00 18回 16奪三振
阪神タイガースからポスティングシステムを利用し、1年契約でアスレチックスに加わった藤浪は、オープン戦からアピールを続けると、先発ローテーション2番手に指名され、期待とともに開幕を迎えた。しかし、デビュー登板で大谷翔平との同学年対決にも注目が集まった1日(同2日)のロサンゼルス・エンゼルス戦では立ち上がりこそ上々だったものの、3回に突如崩れ、衝撃の8失点KO。続く8日(9日)のタンパレイ・レイズ戦でも5回途中までに5点を失い、連敗スタートと躓いてしまう。
3度目の先発となった15日(同16日)のニューヨーク・メッツ戦では敗れたものの6回を投げて3失点とクオリティ・スタートを初めて達成し、持ち直したかに見えた。しかし、22日(同23日)のテキサス・レンジャーズ戦では3回途中までに8失点と再び打ち込まれ悪夢の4連敗。開幕から藤浪を擁護するコメントを残していた指揮官のマーク・コッツェイにも苦言を呈されると、早くも中継ぎへ配置転換。ここまで先発で4試合、中継ぎで2試合に登板し防御率は13.00と、厳しいスタートとなった。
1年契約の藤浪には序盤からインパクトのある活躍で実力を認めさせることが求められた。しかし、阪神時代から危惧されていた制球面と、試合中に突如崩れ出す“悪癖”がアメリカでも顔を覗かせ、ここまでの悪循環に繋がっている。このままの投球が続くようであればシーズン途中でのマイナー降格を言い渡される可能性も十分ある。まずは、与えられた中継ぎのポジションで1試合1試合結果を積み重ね信頼を取り戻していく必要がある。
吉田正尚(ボストン・レッドソックス)
写真:吉田正尚(提供:写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
3・4月成績:22試合 打率.274 4本塁打 16打点
今季のメジャー移籍組では唯一3月のWBCに参戦した吉田は、大会打点王に輝く活躍で3大会ぶりの世界一奪還に貢献。シーズンを前に評価が高まると、侍ジャパンと同様にレッドソックスでも4番に指名され、大きな期待とともに開幕を迎えた。デビュー戦となった3月30日(同31日)のボルチモア・オリオールズ戦で2安打を放ち、開幕4試合目となった3日(同4日)のピッツバーグ・パイレーツ戦では左中間にそびえ立つ「グリーンモンスター」を越える衝撃の一発を放ち、上々の滑り出しを見せる。
ところが、メジャーのストライクゾーンへの適応に苦しむと、一時期は打率が1割台まで急降下し、これまで先輩日本人メジャーリーガーたちが苦しんできたルーキーイヤーの壁にぶつかったかに見えた。しかし、日本で首位打者2回の実績を誇り、国内最高クラスのバットマンとして海を渡った吉田はここから適応を見せる。4月終盤にかけては9試合連続安打で打率を急上昇させ、23日(同24日)のミルウォーキー・ブルワーズ戦の8回に1イニングに2号ソロ、3号満塁弾の離れ業で逆転劇に貢献。打順も上位の2番で起用され始めており、ポジティブな形で5月に突入した。
吉田がオリックス・バファローズや侍ジャパンで見せたような安定した活躍がメジャーでも見せられれば日本人野手としてはオリックスの先輩イチロー氏(当時シアトル・マリナーズ)以来のデビューイヤーでの打率3割越えも期待できる。懸念されるのがWBCから蓄積していく疲労面で、162試合に渡る長丁場が続くメジャーの日程をこなしていけるかどうか。千賀と同じく悪くないスタートを切っただけに、後は健康体で1年を過ごせるかがポイントとなる。
藤浪は速球で活路を見出せるか
強打のメッツ打線と“お化けフォーク”を武器にいきなり無傷の3勝を飾り、前評判通りのスタートを見せた千賀と、“WBC打点王”のタイトルを手土産に参戦し、壁にぶつかりながら適応力を見せ始めた吉田。一方の藤浪は期待とともに先発ローテに指名されたものの、懸念された不安定さを露呈し、それぞれ日本での実績が反映された序盤戦の成績となっている。
しかし、まだシーズンは始まったばかりで5月からそれぞれの流れが変わっていく可能性は十分にある。千賀や吉田は先発ローテや主軸としてメッツ、レッドソックスを勝利に導く活躍が期待され、藤浪は一度下がった信用を心機一転し、中継ぎとして最速160キロ超えのスピードボールを活かし結果を出したい。三者三様、それぞれの船出を切った3人のサムライたちの挑戦は始まったばかりだ。
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