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異色のプロ野球人生を歩む「赤沼淳平」という男。コロナ禍による“空白の2年間”で沸いた渇望「チャンスですよ」

米独立リーグで腕を磨いている赤沼。そのひたむきな視線の先にあるものとは。写真:西田泰輔
メジャーリーガーを目指し、今季の開幕を誰より待ちわびる日本人投手がいる。

赤沼淳平が舞台とするアメリカ独立リーグのフロンティアリーグは2020年、新型コロナウイルスの影響で中止された。不可抗力だから仕方ないと割り切り、翌年こそはと準備を進めたが、ビザを取得できずに渡米できなかった。今年27歳になる右腕は野球人生のピークとされるタイミングを前に、あまりにも酷な状況に置かれた。

「みんなから、『俺だったら、やめるわ。すごいな』って言われます」

自身の不遇を笑った赤沼のもとに3月中旬、吉報が届いた。2022年シーズンを戦うために必要なビザが発行されるという知らせだった。

「実戦機会が1、2年抜けることは、そんなに不安に思っていなくて。この2年間で、明らかに球が強くなっていますしね」

“普通”の日本人投手ならうそぶいているように聞こえるが、赤沼の考え方は国内の主流派とは異なっている。

「たくさん投げても、うまくならないですよ。投げれば投げるほど、投げることに頭が行きすぎて、投げることでしか修正できなくないですか。でも、肘って無限ではないじゃないですか。だから、投げ過ぎたら壊れますよね」

赤沼が投手として成長するうえで、重視するのがトレーニングだ。打者相手にほとんど投げなかったこの2年間は、自身のスケールアップ期間にあてた。

セルフ・トミー・ジョン手術――。
過去2年を冗談めかしてそう位置づけ、トレーニングに励んだ。2019年にフロンティアリーグで最速150キロを出したときは体重85キロだったが、現在は97キロ。見るからにたくましさを増した。赤沼が拠点としてきた広島のトレーニングジム「Mac’s Trainer Room」で捕手役を務める刎田康太朗トレーナーも、「球が強くなった」と証言する。

同ジムを主宰する高島誠トレーナーは、オリックスの山岡泰輔やソフトバンクの松本裕樹らを自主トレで指導している。昨季のパ・リーグ本塁打王、“ラオウ”こと杉本裕太郎の飛躍にも力を貸した。赤沼はシーズンオフになるとNPBの選手たちと一緒にトレーニングを行ない、自身の現在地を測ってきた。

「2年間の成果はバッターに投げてみないとわからないですね。でも、ラオウさんから『山岡より出どころが見づらい』と言ってもらったので。結構いい方向に来ているということじゃないですか。出どころが見づらいことで有名な山岡より見づらいと言ってもらったから、やっぱり自分は見づらいんやと思って」

2年間投げていないなかで、フロンティアリーグのシャンバーグ・ブーマーズと契約更新してもらえた理由のひとつに、「deception」への評価がある。球の出どころが見にくいのだ。

もともと赤沼はオーソドックスな右投手だった。立命館高校に進学してから投手を始め、球速130キロ台だったが強豪校との試合でも好投し、「プロに行けると勘違いした」。
付属校ながら立命館大学に進学する気はなく、レベルの高い東京の大学に入りたいと考えた。しかし高校最後の夏は2回戦で敗退し、無名投手に声がかかるはずもなかった。

「そんなにプロになりたいんだったら、アメリカに行ってこい」

当時の監督にあしらう感じで言われたが、赤沼は選択肢として考え始めた。入学までのルートを自分で調べ、英語を勉強し、親をプレゼンで説得する。駒澤大学附属苫小牧高校時代に2006年夏の甲子園準優勝メンバーだった鷲谷修也が進学し、ワシントン・ナショナルズから指名を受けたことから同じデザート短大に入学した。

アメリカで待っていたのは、大きな出会いだった。大学1年秋学期(9~12月)を終えた後の春学期(1~5月)になり、元ニューヨーク・ヤンキースのアンソニー・クラゲットが投手コーチとしてやって来た。

「お前はプロに行けるから、野球を頑張って続けろよ」

元大リーガーに多くを学ぶなか、とりわけ響いた言葉だった。デザート短大のレベルは決して高くなく、入学直後から主力として投げ始め、トレーニングの成果で最速148キロを計測した。

夏休みに帰国すると、立命館高校時代の恩師で現在広島の武田高校を率いる岡嵜雄介監督から「いいトレーナーがいる」と前述の高島を紹介された。

「上から投げることにこだわらず、強く投げることが一番大事だよ」
高島は<右足・左足><右手・左手><腹筋・背筋>のどちらが使いやすいかで選手をタイプ別に分類できるという「パフォーマンスライン」を持論に持っている。赤沼は実用書の影響で「軸足にためる」という“野球の基本”に則っていたが、高島の助言で「左足を使う」ように意識を変えた。さらにトレーニングと野球の動きを連動させて考えるようになり、飛躍のきっかけをつかんでいく。

以前は肘を抜くような投げ方だったが、身体を動かしやすいように使うと自然に腕の位置が下がり、スリークオータよりさらに低いアングルに落ち着いた。ボールが動くようになり、球威も増していった。

「アメリカで『フラット』と表現されるストレートはあまりよくなくて、逆にいいのが『tail』とか『run』と言われるボール。僕はその辺が評価されています」

“尻尾”(tail)や“走る”(run)は、日本で言われる“動く球”のことだ。赤沼は日本で過ごした夏休みの3か月間で10キロ増量、トレーニングの成果もあって身体は大きくなり、柔軟性と操作性にも磨きをかけた。

「お前は運動センスがあるから俺と同じフィールドでやれる。もう少し野球をうまくなったら絶対上に行ける」

大学2年時に野手コーチとしてやって来たメキシコ人のヘクター・サンチェスからそう言われた。トロント・ブルージェイズのコンディショニングコーチを経て、今はメキシコのプロ球団でコーチをしている。

渡米以降、赤沼はさまざまな出会いを通じて自身を成長させた。2年でデザート短大を卒業し、3年からリー大学に編入する。4年時にMLBのドラフトで指名はかからず、独立リーグ経由で夢を追いかけることにした。
2019年途中にアメリカン・アソシエーションという独立リーグのゲーリー・サウスショア・レイルキャッツから、現所属のブーマーズに移籍。シーズン終盤はチームの主力格となり、さあこれから……というタイミングで世界がコロナ禍に包まれた。

「次の年はビザでダメで。ここまで長かった」

底抜けに明るい赤沼は笑い飛ばすが、心中は計り知れない。ただし一つ言えるのは、異国で生き抜くために不可欠なタフネスを備えているということだ。

「アメリカの独立リーグで100マイル(約160キロ)投げるヤツをいっぱい見て、僕の身体では100マイル出えへんわと思ってトレーニングをたくさんしました」

野球が再びできるときを見据え、一人で汗を流した。一緒に自主トレをするNPBの選手たちからは「日本のプロ野球でできる」と太鼓判を押されている。アメリカの大学でトレーニングを専攻し、プロ選手にアドバイスを送るほどだ。

今季のブーマーズでは、先発で準備するように監督から伝えられている。

「やたら評価が高いんですよ。2年も投げてないのに(笑)。どこでも行けるし、ストライクを取れるから『work fast』、仕事が早いと言われています」

フォーシームは平均145、6キロで動かし、カットボール、ツーシーム、チェンジアップ、スライダー、ナックルカーブなどを織り交ぜていく。たとえるなら、コーリー・クルーバー(ヤンキース)やジョー・マスグローブ(サンディエゴ・パドレス)みたいなタイプだと言う。
「彼らもスライダーとか真っすぐを動かして、どんどんカウントを埋めていく。仕事が早いですよね。今の時代、豪球タイプは後ろに回るので、イニングを食える僕らみたいなタイプが意外と重宝されるんですよ」

フロンティアリーグはMLBと“距離が近い”点が特徴で、特にブーマーズは先発投手を中心に毎年5、6人がオファーを受けるという。赤沼が今季スターターを任されるのも、先にMLBへ旅立った投手がいるからだ。

「チャンスですよ。今年マイナーリーグに行って、メジャーに上がりたい。いろんな球団に行きたいですね。NPBもKBO(韓国)も経験したい。カリビアン・ワールドシリーズも出てみたい。メキシコも行ってみたい」

空白の2年を経て、野球への渇望は強まるばかりだ。

「メキシコに行くチャンスは1回あったけど、さすがにプレーしなすぎてなくなりました。素材がいいだけではきついですね。マイナーに行くとか、メジャーに1回上がるとか、そういうキャリアがいるんですよ。世界には選手があふれているので。その中でも2年越しで契約してもらって、先発をやらせてもらうのは結構ありがたいことだと思っています」

一般的な日本人選手たちと極端に異なるプロ野球人生を歩む男は、今後のキャリアをどのように切り開いていくのか。無名右腕がインパクトを残したとき、日本球界に新たな道が示されるはずだ。

まずは、5月にフロンティアリーグで迎える開幕を楽しみに待ちたい。

取材・文●中島大輔
【著者プロフィール】
なかじまだいすけ。スポーツライター。1979年埼玉県生まれ。2005年から当時セルティックの中村俊輔を4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材している。『中南米野球はなぜ強いのか』(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞を受賞した。その他著書に『プロ野球 FA宣言の闇』(亜紀書房)、『野球消滅』(新潮新書)など。

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