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関東対決を分けた“強攻策”。山梨学院の指揮官は絶体絶命の窮地でなぜ動いたのか?「厳しい場面の采配が多くなった」

同じ関東勢である強敵との対決で、臆せずに積極的な采配を振るった山梨学院の吉田監督。なぜ指揮官は土壇場でも動いたのか。写真:滝川敏之
昨年のデジャブを見ているようだった。

関東対決となった第3日の第1試合は、関東No1右腕の越井颯一郎を擁する木更津総合が山梨学院との投手戦を演じ、タイブレークの末に2-1で勝利した。

「練習試合をしている相手との対戦は、お互いに嫌なんですけども、コロナの影響があって、ここ最近は(山梨学院と)練習試合をしていなかったので、同じ関東勢というやりにくさはありませんでした。全国の舞台では、なるべく西の方とやりたいというのはありますが、山梨学院さんのユニホームが変わっていたこともあって新鮮な気持ちで臨めました。この1勝は大きいと思いますので、なんとか勢いに乗っていきたい」

木更津総合の五島卓道監督は1勝の重みを噛み締めた。

昨年のセンバツ大会では、同じように1回戦から関東対決が実現した。東海大甲府対東海大相模の対決で、こちらも投手戦となって延長戦に突入。後者が3-1で競り勝っていた。

その後、東海大相模は勢いに乗った。2回戦で鳥取城北、準々決勝では福岡大大濠、準決勝で天理を破って決勝進出。最後は、サヨナラ勝ちで明豊を破って頂点に立ったのだった。その進撃は、1回戦の死闘を制した時に始まっていたとも言える。

もっとも、関東対決を制すれば、センバツ制覇ができるというデータがあるわけではないが、近年は夏も含めると関東のチームの健闘ぶりは見逃せない。軒並み関東地区の強豪校が全国の頂点に立っているなかでの対決は意味があった。

とはいえ、試合は1点を争う僅差の競り合いだった。
延長タイブレーク。まさに試合が決まる場面でものをいってくるのが、指揮官の采配だった。オーソドックスにセオリー通りに立ち回るのが木更津総合の五島監督で、山梨学院の吉田洸二監督はむしろ、さまざまな策を講じるタイプの指揮官だ。

五島監督は3度もあった先頭打者の出塁を確実に犠打で送った。バントのうまさも際立ったが、セオリーに徹する戦いに終始した形だった。

一方、2009年に前任の清峰で今村猛(元広島)を擁してセンバツの頂点に立った経験を持つ吉田監督は、この試合も積極的に動いた。犠打はひとつのみ、エンドランも積極的に仕掛け、守備においても果敢に動かした。

試合が決したのは、延長13回裏だった。表の攻撃を無得点に終えていた山梨学院が動いた。 まず、タイブレークによって無死1、2塁からスタートの場面で、3番・菊地弘樹を迎えると外野手を一人削って内野手につかせた。菊地がバントの構えをしていなかっただけに、リスキーな戦略だったが、「私たちの攻撃がゼロでしたので、1点を取られると試合が決してしまうということで相手の作戦をバントから強攻策に変えたいという思いでやりました」と吉田監督は、この作戦を振り返っている。

菊地は左翼フライ。作戦の狙いは悪くなかったが、これがやや大きめの飛球になり、二塁走者が三塁へ進み、結局、走者の進塁を許してしまったのだ。

1死、1、3塁となると、またも吉田監督は動く。4番打者の水野岳斗を申告敬遠で歩かせ、満塁策を取ったのだ。

しかし、これが裏目となる。それまで奮闘してきた山梨学院のエース・榎谷礼央の制球が乱れた。3球続けてボールを投じると1ストライクの後、5球目が高めにうわずり、押し出し四球となった。

吉田監督の積極的な采配はどれも相手を封じにかかるためのものだったと理解はできる。ただ、それが秋以来の公式戦であることなどを鑑みると選手たちにとって容易ではなかったのかもしれない。とくに満塁の場面での制球の乱れはそれまででは考えられないものだった。実際、榎谷は「1、3塁でも勝負するつもりでした。申告敬遠で満塁となって抑えなきゃ行けないと思って力んでしまった」と振り返っている。

ただ、吉田監督は、それも認めている。

「相手投手をなかなか打てなかったので、ちょっとゲームを動かそうと思いすぎて、選手に厳しい場面の采配がちょっと多くなったという反省があります。満塁策については打順がひとつ下がっていきますし、野手が守りやすいかなとベンチは判断したんですけど、投手にとっては負担になる作戦を私が使いすぎたのかなと思います」
セオリー通りの策を講じた木更津総合と、積極的に動いた山梨学院。指揮官の気持ちが前に出過ぎてしまった分、タイブレークにおいてはそれが雌雄を分けた形となった。

「(山梨学院は)昨秋の関東大会準優勝ということで、自分たちよりも1勝多く勝っている。そういう面で自分たちの方が下と周りから見られたと思うんです。そこでしっかり勝てたのは非常に大きいことかなと思います。関東地区の強豪校である一つに勝って勢いに乗れると試合前から思っていましたので。これから乗っていけると思います」

注目されるなかで、好投を見せた木更津総合のエース・越井はそう振り返る。

166球の完投で疲労が心配されるが、“関東対決”を制した千葉の雄は、昨年の東海大相模に続くような快進撃を見せられるだろうか。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

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【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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