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「クビになることも覚悟してるんで」――阪神・江越大賀の決意。“12球団で一番もったいない選手”はこのまま終わるのか

厳しい競争の中で、強い覚悟を示している江越。彼は苦闘が続いてきたキャリアをどう捉えているのか。写真:産経新聞社
 やっぱり諦めきれない。どれだけ打ち砕かれても「江越大賀」という男の背中に見る“夢”の大きさはずっと変わらないのだろう。
【動画】虎党が待ち焦がれるロマン! 江越大賀がヤクルト戦で放った弾丸アーチをチェック

 それは甲子園の記者席にいれば、よく分かる。開幕が迫る3月のオープン戦。スタメン落ちをしても、試合終盤の代打でその名がコールされると“待ってました”とばかりにスタンドから大きな拍手がわき起こる。これほど長い間、「幻想」を抱かせてきた選手は近年いなかったかもしれない。

 低迷が続いても、忘れた頃に目の当たりにするプレーヤーとしての「凄み」。バットの芯で捉えた際に描かれる放物線、外野で見せる人間離れした跳躍力を生かしたダイビングキャッチ、野生動物を思わせる次の塁への疾走……。すべてがスペシャルだ。だからこそ、もどかしい。兼ね備えるスペックはいまだ「潜在」のままと言っていい。「次代のスター候補」の肩書きは、いつしか「12球団で一番もったいない選手」に変わってしまった。

 将来を嘱望されてきた江越が「危機感」を露わにしたのは、昨年12月の契約更改の場。若手というカテゴリーを外れ、中堅の年齢になってきたことをふまえて、言葉を吐き出す表情は一層、険しくなった。

「(チームにも)若い選手が多くて、外野手で言うと糸井さんの次が僕なので。(厳しい立場だという)自覚もありますし、(クビになることも)覚悟してるんで。ホントにダメだったら最後だと思うので。それぐらいの覚悟を持ってやりたい。(キャリアの中でも)今、一番持っています」
 昨年までの2年間は、それぞれ1軍で30試合以上に出場も、打率はともに.000と本塁打どころか、ヒットすら打てていない。貴重なベンチ要員として存在感を高めてはいるものの、近年は試合途中での守備固めや代走での出場が増加。それはスタメンの機会が限りなく低いのと同意だ。

 誰もが描いた未来図とは違うところにいる現実。レギュラーへの道を切り開けるのか、このままベンチウォーマーにとどまってしまうのか。今年は、「江越大賀」というロマンへの最後の挑戦になるのかもしれない。

 今春は、その覚悟を快音に変えている。

 2月27日のヤクルトとのオープン戦。2点を追う7回1死一塁で、育成右腕の丸山翔大が投じた内角への直球を振り抜き、左翼スタンドへオープン戦チーム1号の同点2ランを叩き込んだ。試合後に「ちょっと詰まった」と振り返る一発に、確かな手応えがうかがえた。「何かを変えないといけない」。そう決意を新たにし、今年1月には、昨年のパ・リーグ本塁打王の杉本裕太郎(オリックス)と合同自主トレを敢行した。昨年まで同僚だったジェリー・サンズから「杉本が良いスイングをしている」と助言を受けたことがきっかけで、弟子入りを志願した。

 自身と同様に、確実性が低く自慢の長打力を生かせていなかった未完の大砲が打率.301、32本塁打と大化けした秘けつを約2週間の限られた自主トレ期間で必死に吸収した。見えてきたのは、「バットの面をボールの軌道に長く入れるイメージ」とギリギリまでヘッドを返さず、捕手寄りにポイントを近づける“ラオウ打法”の基礎。

 外角の変化球に我慢できずバットを振り回していた江越にも合致するフォームで、「飛距離よりも確率というところで、この打撃フォームをやっている」と意図を明確にし、1月から打撃改造に着手してきた。

 インコースに詰まりながらもスタンドインさせたヤクルト戦のアーチは、「詰まってOKだと思っている。良い打撃ができた。(確実性も上がって)飛距離が落ちないということは、自分にはすごいプラスなので」と自己分析したように、新打撃フォームがなせる究極の打球なのかもしれない。

 ただ、現時点でレギュラー争いという視点で見れば、厳しい立場に立たされている。左翼の候補としてメル・ロハスJr.や糸井嘉男、若手の島田海吏らとオープン戦では出場機会を分け合っている。
 開幕が近づくにつれ、直近のスタメンを見ていけば、基本はロハスと糸井が併用される形で先発するプランが見えてくる。江越は、16日時点でオープン戦での打率は.200。途中出場から巡ってくる1打席でインパクトある結果が求められる。

 開幕1軍入りを決めても、おそらくシーズン当初も、起用法に大差はない。限られた機会で結果を積み上げていき、レギュラー選手が不振に陥った時に取って代わる1番手になっていられるか。首脳陣は両打ちのロハスの左打席を評価しており、島田、糸井も左打者。右打ちの“強み”も生かしたいところだろう。

「守備、走塁はできて当たり前。そういう風に見られていると思う」と言うように、新打法の成果が命運を握る。矢野燿弘監督は、江越を含めたレギュラー争いを繰り広げる外野手に対して、「もっと突き上げが欲しいなかで、出てくるのをこっちも待っている」と期待する。江越の覚醒は、17年ぶりのリーグ優勝を目指すチームにとって何よりの打線強化、補強になることは間違いない。

 2年目までに計12本塁打を放ち、プロの世界で頭角を現したものの、そこから立ちはだかり続ける大きな壁。一時はスイッチヒッターへの転向を模索するなど歩んできた7年間のキャリアは苦闘の軌跡と言っていい。

 それでも、やっぱり諦められない。一度、見たら忘れられないスケール感。プレーボールからゲームセットまで虎の背番号25が躍動する毎日は、夢のまま終わってしまうのか。

取材・文●チャリコ遠藤

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