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【MLBロックアウト解説】ほぼ望み通りの成果を得た選手会。タンキング抑止策導入はファンのメリットにも<SLUGGER>

99日間に及ぶロックアウトが集結。2022年シーズンがいよいよ幕を開ける。(C)Getty Images
まさに急転直下の決着だった。ニューヨークでの深夜にまで及んだ交渉がまたも決裂し、ロブ・マンフレッド・コミッショナーが開幕再延期を発表した翌日、選手会とオーナー側が新たな労使協定に合意。4月7日のシーズン開幕が決まり、99日間に及んだロックアウトがようやく終結した。

今回のロックアウトは、25年以上に及んだ労使の蜜月が終わり、両者が再び激しく対立姿勢に転じた出来事として歴史に記憶されるだろう。昨年12月のロックアウト突入から6週間近くにわたりまったく交渉が行われず、キャンプインが近くなってようやく話し合いが始まってからも、しばらくはオーナー側と選手会の主張は平行線をたどった。

それが、2月28日~3月1日にかけての交渉を機に一気に協議が本格化し、その後も双方が譲歩を重ねながら最終的に合意に達した。一時は「4月中の開幕はない」と悲観する関係者が少なくなかったことを思えば、1週間延期で済んだのはむしろ不幸中の幸いと言えるかもしれない。
結論から言えば、今回のロックアウトは(少なくとも現時点では)「選手会の勝利」と考えていいと思う。過去2回の労使協定で安易な譲歩を重ねた結果、選手年俸は低下、意図的にチームを低迷させるタンキングや、若手選手のFA権取得を遅らせるサービスタイム操作が横行した。選手会にとっては、こうした現状を改善することこそが、今回の労使交渉における唯一にして最大の目標だった。

そして、その目標はかなりの部分で達成された。戦力均衡税の課税ラインが引き上げられ、若手選手向けのボーナスプール制度創設も決定。ドラフトには新たにロッタリー制度(指名抽選制)が導入されることになった。これまでのように、30球団最低の成績を残せば自動的に全体1位指名権を得られるわけではなくなるので、タンキングに一定の歯止めがかかることが期待される。

一方、ロックアウトを仕掛けたオーナー側はどうか。戦力均衡税について、エンジェルスを含む一部のオーナーは「1ペニーも上げさせない」と強硬に主張していたが、結果は2000万ドルの引き上げに同意。最後に持ち出したインターナショナル・ドラフト導入も、とりあずは継続協議となった。 SNS全盛時代とあって、かつてのように子飼いの記者を通じて選手会を悪者扱いする構図を作り出すことも成功しなかった。開幕延期について、「オーナー側に責任がある」と考えるファンが「選手会に責任がある」と考えるファンの約2倍に達するという調査結果も出ていた。“戦争”を仕掛けた側としては、収穫は少なかったように見える。

言うまでもないが、より多くのチームが優勝を目指して戦力強化に励むことは、ファンにとってもメリットが大きい。その意味で、タンキング抑止策の導入は選手会だけでなく、「ファンの勝利」と言ってもいいだろう。 何より大きいのは、最終的に従来通りの162試合シーズンが守られたことだ。2度にわたる開幕延期発表で、ファンは改めて「ベースボールがある日常」の貴重さを改めて実感することもできた。紆余曲折を経て始まる2022年が、よりエキサイティングで熱狂的なシーズンとなることを期待したい。

文●久保田市郎(SLUGGER編集長)

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