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「父超えを目指して」逆輸入スラッガー・大塚虎之介が茨城アストロプラネッツに入団。独立リーグから始まる新たなドラマ

虎之介は「茨城アストロプラネッツからドラフト指名されるよう頑張ります!」と意気込みを語った。写真:岩国誠
日本ではほとんど無名だった155キロ右腕・松田康甫のMLBロサンゼルス・ドジャース入り。1月中旬、突然球界に舞い降りた明るい話題は、野球ファンの心を大いに踊らせた。

その松田をMLBへ送り出したのが独立リーグ・茨城アストロプラネッツだ。『茨城から世界へ』を掲げる異色の球団が1月30日、茨城県笠間市で新入団選手発表イベントを開催。茨城から新たな高みを目指す20名の選手たちが集結し、集まったファンの前で初お披露目を行なった。

壇上で挨拶に立ったのは茨城球団・色川冬馬GM。松田のドジャース入りに尽力した人物は、新入団選手たちへ、こんな言葉を送った。

「間違いなく次のステージに上がれる存在、逸材であるというところは、自信を持って言えるメンバーが揃っております。選手たちには常に話していますが、独立リーグのこの仕組みは、野球界の中で、彼らの人生のゴールではない。それを前提に彼ら一人ひとりが、1シーズンでしっかりと次のステージをつかんでもらいたい」
高卒から社会人、独立リーグなど集まった原石たちの経歴も様々。その中には、今年から中日ドラゴンズの一軍投手コーチに就任した大塚晶文氏の息子・大塚虎之介の姿もあった。

虎之介が6歳の時、父・晶文氏がサンディエゴ・パドレスに移籍。それに伴い、生活の拠点はアメリカに。そのまま進学し、高校、大学では俊足巧打の外野手としてプレー。残念ながら指名には至らなかったものの、大学3年時には、MLBのドラフト候補にも名前が挙がっていた。

そんな、虎之介が茨城入りすることになったのは、昨年受けたNPBのプロテストがきっかけだった。

「昨年9月から日本に戻ってきて、NPB何球団かのプロテストを受けました。その中で巨人のテストのとき、(当時茨城所属の)大橋選手、山中選手と一緒にプレーすることになり、色川GMと松坂監督とお会いしました。それで、いろいろ話をする中で『ちょっとアメリカに似ている環境だな』って。ずっとアメリカでプレーしていたので『こういう環境でスタートした方が僕にとってはいいかな』と思いました」
他の独立球団からの話もあったというが、虎之介は自分の感じた直感に従って、茨城でプレーすることを決めた。

「父には『すごく考えろ』とは言われました。『どこに住むのか』とか、給料面も大切なことなので、『暮らしていけるのか』とか、そういう心配はしてくれました。でも、僕にとっては自分の意思がすごく大事で、自分の気持ちに正直でいようと思っているので、自分に合った環境だと思いましたし、球団もたくさんサポートをしてくれる。ここが自分にとっては一番、NPB入りのチャンスがあると思ったので、茨城に決めました」

「自分がいいと信じられるなら、いいんじゃないか」。勝負の世界で結果を残してきた父も、新たな一歩を踏み出す息子の決断を、静かに見守ることにした。

自ら決めた道でのNPB入りへ。爆発的なパワーが武器だと自負するように、近くでその体つきを見ると、ユニフォームの上からでもわかるほど、がっしりとした体格なのが窺い知れる。しかし大学時代には、俊足を活かした起用もあって、あまりホームランを打つタイプではなかった。
「ボールへのアプローチが、全部シングルやダブル(二塁打)を打つ形だったので、そんなに打てるチャンスはなかったんです。意識していたのは『打球速度』。打球速度が上がれば、野手の間を抜け、ヒットになる確率も上がると思って、ずっとやっていました。ただ、今は長打力も高めたいので、松坂監督やチームの方のサポートをもらいながら、ホームランを打てる選手になれるよう、頑張っています」

6歳からアメリカにいた虎之介には、MLB選手たちプレーの方が馴染みが深い。にも関わらず、目標とする選手として名を挙げたのは、日本で存在感を示しているあのスラッガーだった。

「僕は4年くらい前から、吉田正尚さんをずっと見てきました。打撃スキルの高さとスイングの力強さ。身長はあまり高くないですが力強い。吉田選手みたいになりたいです。アメリカにも小さいのに長打を打てる選手はいるんですが、そういう選手はホームラン数を増やすけれども、アベレージ(打率)は下げていく選手が多いです。でも、吉田さんはアベレージも高いし、ホームランも打っているので、僕もそういう選手になりたい。長打だけの選手にはなりたくないですね」
昨年のプロフィールを見ると、吉田は身長173センチ・体重85キロ。そして、虎之介は175センチ・83キロと体型的にも近い。小さいながらも、鎧を纏っているかのような厚みのある肉体。そして、そこから生み出される力強いスイング。虎之介が吉田と同じスタイルを目指すのは必然だったのかもしれない。しかし、その吉田は、ルーキーイヤーの春季キャンプでは、故障して出遅れてしまった。

「僕も大学時代に怪我をしてしまったので、体のケアは今年1番重要視しています。スキルアップもしながら、怪我をせず、シーズンを送りたいですね」

力強いスイングを支える強靭な体づくりもしっかり意識しながら目指す『NPBの舞台』。その先に見据えているのは、MLBでも結果を残した父の背中なのだろうか。
「父はメジャーでもプレーして、NPBでも結果を残しているので、みんなから『すごいお父さんだね』と言われます。ただ、自分は自分の人生を生きているので、いつも目標は高く持ちたいと思っています。父を目指すのではなく、父を超えることを目指して、やって行こうと思っています」

追いつくのではなく、追い越すために。茨城から今年もまた、新たなドラマが始まろうとしている。

取材・文●岩国誠

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