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「プロ野球は難しいな」——大不振で漏れた“偽らざる本音”。新人の肩書きが外れる佐藤輝明に首脳陣が期待するもの

待望のルーキーイヤーは、山あり谷ありだった。シーズン後半戦に極度のスランプに陥った佐藤は、何を考えていたのか。写真:産経新聞社
 猛虎の、そして球界の未来を担う男の2年目が幕を開けた。阪神の佐藤輝明は、年明けから母校・近畿大学の生駒グラウンドで練習を開始。4球団が競合したドラフト1位にまで成長を遂げた原点の地で、2022年シーズンを始動させた。
【動画】打った瞬間にそれと分かる圧巻弾! 佐藤輝明が放った虎党の度肝を抜いた逆転満塁ホームラン

「初心を思い出して、1年間これから頑張っていきたいと思います。もちろん日本一はチームとして目指していくところですし、個人としても全部去年以上を上回る成績を残したいと思います」

 振り返ればまさに紆余曲折、山あり谷ありのルーキーイヤーだった。

 春季キャンプから持ち味の長打力をいかんなく発揮し、その勢いを保って迎えたオープン戦では12球団最多の6本塁打を記録。見事に開幕スタメンを掴むと、2戦目にはヤクルトの田口麗斗からプロ初安打となるバックスクリーンへの1号本塁打を放った。ドラフト制以降の球団新人では1969年の田淵幸一らのチーム3試合目を抜く史上最速アーチは、阪神ファンのみならず、プロ野球ファンの度肝を抜いた。

 その後も横浜スタジアムでの場外弾や4番初出場試合での満塁弾、メットライフドームでの1試合3発など規格外の一発など着実に本数を重ね、前半戦だけで20本塁打をマーク。地元・西宮から彗星のごとく現れた背番号8に導かれるように、チームも首位を快走した。
 
 だが、後半戦は一転して大きなプロの壁に直面した。

 8月21日の中日戦の第4打席目に放ったセンター前ヒットを最後にHランプから遠ざかり、プロ野球野手ワースト記録に並ぶ59打席連続無安打を記録。「打てないところをどんどん攻めてくる。対応に苦しんだ感じはありましたね」と執拗な内角高めの直球と低めの変化球攻めの対応に苦しみ、一度崩れたフォームをなかなか修正できないまま長く険しいトンネルをさまよった。

 さらにシーズン終盤は左膝痛を背負いながらプレーをした佐藤に限らず、主力打者の相次ぐ打撃不振に苦しんだチームは、結果的にわずか5厘差でヤクルトに王者の座を譲った。

 不振に喘いだ後半戦はベンチスタートの試合も増えた。悩める大器の起用法については、評論家や球団OB、そしてファンたちの間で議論がメディアやネット上を通して広がった。スタメンか、代打出場か、2軍調整か——。矢野燿大監督もシーズン終了後に「(起用法は)やっぱり悩みましたね。テルを見たくて甲子園に来てくれたりテレビを見てくれている人もいる。何が1番チームのため、テルのためになるのかなと考えながら決断したつもりですけど。1人だけのことでもダメですし、全体のことも考えていかないとダメなんで」と当時の悩める胸中を明かしていた。
  この時、当人は何を思っていたのか。マイペースで新人らしからぬ堂々とした振る舞いを見せていた怪物新人も、9月9日のヤクルト戦後に初の2軍降格を告げられた際には、「しばらく眠れなかったというのはありました。すごく不思議な気持ちというか、残念な気持ちとこれからファームで結果残すぞという2つの気持ちが入り交じっていました」と苦悩を振り返った。

 試行錯誤を続けて1軍に再昇格してもなかなか待望の一打は生まれず。60打席ぶりの安打となるタイムリーヒットが飛び出した10月5日の横浜戦後に語った「使ってもらっている中でチームに全然貢献できていなかったので……。必死だったので、すごく嬉しい。色々(状態の)維持だったり、長いシーズンでプロ野球は難しいなとすごく思った」という言葉は、偽らざる本音だろう。

 苦しみ抜いた期間を過ごしたからこそ、改めて身に染みた思いがある。

「もちろん後半とかは苦しい時期がありましたけど、そういうのもあってやっぱり打ったときは余計に嬉しくて、野球は面白いなと思える。そういう苦しい時期も腐らずに頑張ることが大事なんじゃないかと思いましたね」
  個人記録よりも、何よりも自らの一打で勝利をもたらすことを一番の楽しみとしてきた佐藤は、プロでの不振期を経てその思いを更に強くした。後半戦から増えた代打出場に関しても「今でも難しいですし、途中から(試合に出ること)の難しさもすごく感じた」と振り返りつつ、「準備の仕方だったり、試合の流れの中でそろそろ(出番が)来るなというのを考えて。そういうのはいい経験になった」と前向きに語る。誰しもが通るわけではない貴重な経験を積んだルーキーイヤーを終え、2年目に誓うのはフルシーズンを通しての活躍だ。

「後半戦は怪我とかもあったりしたので、まずは怪我をしないように。トレーニングとかも去年以上にしっかりやって、後半不調になることがないようにやっていきたいと考えています」

 もちろん首脳陣も佐藤のさらなる爆発に期待をかける。だからこそ矢野監督は、「1年目だったし、身体のこともあるから俺らもめちゃくちゃに追い込むわけにはいかなかった。その追い込む練習ももっと必要なわけだから」と力を込め、井上一樹ヘッドコーチも体力面の強化を促していく狙いを明かす。

「(佐藤に)言ったのは、『今年は2年目。去年はお客さん扱いをしたところがあったけど、分かってんだろ?』と。『後半はあんだけバテて体力がないことが実証されたやろ』って。去年は“まあ、まあ”というところがあったけど、(今年は)早く球場に出てきてバットを振るとか、守備を受けるとか。体力がないという自覚を持ってほしい。(中野)拓夢もだけど、『お前ら2人は俺は厳しくいくぞ』というのは言った」
  技術面においては、新たに1、2軍巡回打撃コーチに就任した藤井康雄氏の指導にも期待がかかる。打者それぞれが生まれながらに持つ重心に合わせて指導する「4スタンス理論」を基に、T-岡田(オリックス)、柳田悠岐(ソフトバンク)らを育て上げた実績を持つ同氏は、佐藤について「すごい選手なのは間違いない。柳田タイプで、飛距離は大谷クラス。能力はあるから、そこに戻していくだけ。こうしたらいいというのは思っている。改善策はある。年間通して、力を出せるようにしていきたい」と更なる成長への青写真を描く。

 すでに昨年の秋季練習後半から直接指導をしており、佐藤自身も「1つひとつ考えながらやっていきたい」と受けたアドバイスを参考に取り入れつつ、三振数の減少と四球数の増加をもくろんでいる。
 
 新人の肩書きが外れ、真の怪物へとスケールアップを目指す2022年。佐藤は「僕が小さいときに優勝して以来してないと思うので。またタイガースが盛り上がるように少しでも貢献して活躍したい」と決意を込める。

 阪神にとって17年ぶりのリーグ優勝、そして37年ぶりの日本一奪取には、佐藤の飛躍が大きな鍵を握っていると言っても過言ではない。

取材・文●阪井日向

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