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イチローと大谷翔平。日本が生んだ2人の天才はいかにしてMLBの「頂点」を極めたのか?<2021百選>

MLBで歴史的な快挙を達成した大谷(左)とイチロー(右)。多士済々のリーグで彼らが偉大な記録を残せた要因に迫る。(C)Getty Images
2021年のスポーツ界における印象的なシーンを『THE DIGEST』のヒット記事で振り返る当企画。今回は、日本が生んだ天才であり、互いにMLBのMVPとなったイチローと大谷翔平を好対照な頂点を極め方を取り上げる。

記事初掲載:2021年11月20日

――◆――◆――

2019年の春にイチローが引退した時、彼を超えることはおろか、一時的にせよ肩を並べて語られるような日本人選手が現れると想像するのは難しかった。

27歳で海を渡ってメジャー通算3089安打、10回のゴールドグラブ受賞とオールスター出場、そして2001年に新人王と同時に獲得したMVP……。そのどれを取っても、「日本人」という枠を超越していた。
【動画】全46本塁打を一挙振り返り!歴史を築いた大谷翔平の活躍をプレーバック

サイ・ヤング賞ならば、20年にダルビッシュ有と前田健太がともに2位の得票数を集めたように、いずれ誰かが取れるかもしれないという期待は感じられる。だが、MVPとなると、可能性はほとんどないように思われた。

しかしそれからわずか2年後、大谷翔平がイチロー以来20年ぶり2人目となる、日本人選手によるMVP獲得を実現させた。シーズン終盤で打撃不振に陥ったとはいえ、投打二刀流のどちらも好成績を残しているインパクトは甚大。イチローの新人王とMVPのダブル受賞は史上2人目の快挙だったが、「二刀流のMVP」はもちろん初となる。
ただしこのふたり、右投げ左打ちの日本人以外の共通項はあまりない。体格からしてイチローは身長180センチ、体重79キロ、大谷は193センチ、95キロ(実際はおそらくそれ以上)。ポジションも異なるし、何より打者としてのタイプは正反対と言っていいくらいだ。

打撃・走塁・守備のすべてに優れていたイチローだが、もちろん最大の特徴は史上有数の安打製造機だった点だ。10年連続で打率3割と200安打をクリアし、リーグ最多安打は7回。04年の年間262安打は、今後破られる可能性が極めて低い記録のひとつである。

そして全安打数の実に80%以上が単打という、絵に描いたようなシングルス・ヒッターでもあった。打撃練習では柵越えを連発していたのは有名で、記者の間ではホームラン・ダービー出場を望む声もあったが、実戦においてはコンタクトを重視。そのため、シーズン2ケタ本塁打を記録したのは3度しかなく、20本を超えた年もない。

折しも、デビュー1年目でMVPに輝いた01年、MLBは薬物で肉体を巨大化させたスラッガーたちがホームランを打ちまくる「ステロイド時代」の真っ只中だった。その渦中にあってイチローは、鮮やかな流し打ちや快足を生かしての内野安打、華麗な守備など対極のプレースタイルで見る者に鮮烈な印象を与えた。言わば、イチローは時代に逆行する孤高の存在だった。
この時、日本では「イチローがメジャーに『正しい野球』を復活させた」かのように受け止める向きも少なくなかった。その後、06年と09年のワールド・ベースボール・クラシックでの日本の勝利も、スモールボールの賜物であったかのように喧伝されたのと同じ発想だろう。もしかしたら、本人にもそうした自負はあったかもしれない。

イチローに対しては、アメリカの識者から「四球が少ないので、打率から想像するほどには出塁率が高くない」と指摘されることがあった。これは決して的外れではない。イチローは選球眼が悪いわけではないが、早いカウントから振る上に打てるゾーンも広く、さらにはコンタクト能力が高いので、必然的に三振も四球も少なくなる。

しかし、イチローはそうした声に流されて、ボールを選び、長打を狙うようなバッティングを選ばなかった。仮にそうしていたら「数多くいる好打者の一人」として埋没しかねなかっただろう。自身の最大の武器であるバットコントロールを最も生かす方法でオンリーワンの存在となったのだから、その選択は間違っていなかった。

一方、大谷はホームランしか狙っていないように思えるほど豪快なフルスイングを持ち味とする(たまにシフトの逆を突くバント安打を決めることもあるが)。今シーズンの全138安打のうち、二塁打26、三塁打8、本塁打46で長打は計80本。その割合は57.9%にも達し、イチローのキャリア通算(18.6%)の3倍以上になる。
バットの芯で捉えた時の破壊力も段違いだ。スタットキャストの計測では、ハードヒット率、平均打球初速や最高速度、ホームランの平均と最長飛距離など、ほとんどの部門でMLBトップクラスに位置している。このような、特大アーチを連発して本塁打王争いに参戦する日本人打者が出現するなど、アメリカ人はもちろん、我々日本人でさえ誰も想像しなかったはずだ。

『スラッガー』15年7月号で、「なぜ日本人打者はメジャーで長打が打てないのか?」という記事が掲載された。そこで筆者は「いつか日本人打者が本塁打王争いに加わることだって、絶対にあり得ないとは言えない」とし、その候補として中田翔、柳田悠岐、筒香嘉智と並んで大谷の名を挙げた。

とはいうものの、本当に大谷が50本近くもホームランを打てるとは思っていなかった。大谷はそのような、日本人自身が勝手に当てはめている「自己像」を覆した。それもまた、イチローがイメージとしても実体としても「ジャパニーズ・スタイル」の選手であったことと好対照を描く。

一方で、パワー重視の力強いバッティングと引き替えに、大谷は打率を捨てる道を選んだ。これは現代MLBにおいて主流となっている打撃スタイルとも合致する。打率より重要なのは出塁率、そして長打率であり、多少ミートの確率は低くなっても長打を狙って強く振る方が、最終的には生産性が高くなる――との認識だ。
打率が高くないだけでなく、大谷は三振も多い。189三振はリーグで4番目、空振り/スウィング率は35%近くに達し、MLB全体でも屈指の多さ。イチローは通算11.1%(※01年のみデータなし)だから、3倍以上も空振りしている計算になる。

だが、アメリカでは三振の多さはほとんど問題視されていない。スタットキャストの導入で、長打が生まれやすい打球速度と角度が判明し、さらには高速カメラなどの機材を利用し、最適なスイングを研究、実践できるようにもなった。

その結果として起きたのがフライボール革命であり、三振は長打の副産物であって何ら恥じるものではない、という価値観が定着したからだ。こうした考えは、もともとアメリカ以上に三振を嫌う日本でも徐々に広まっている。レイズなどで活躍した岩村明憲は大谷について「三振を恐れる教育を受けていない。自分たちは先輩から三振を減らせと言われることが多かったが、大谷は2ストライクになってからのスイングがあまり変わらない」と指摘している。

このような趨勢を受け、近年、MLBでは「Three True Outcomes(TTO)」という指標が注目を集めている。TTOは「純然たる打席結果」というような意味で、具体的には本塁打と三振、四球を指す。「純然たる」というのは、相手守備などの影響を受けない結果であるところから来ている。

昔から、常に一発狙いの打者に「ホームランか三振か」というフレーズがよく使われてきたが、今は「ホームランか四球か三振か」という打者が急増している。代表格がヤンキースのジョーイ・ギャロで、打率・199はリーグ最下位、38本塁打は9位タイ、111四球と213三振はいずれも1位。TTOは実に58.9%に達している。
そして、このギャロに続いてMLB2位のTTOを記録しているのが他ならぬ大谷なのだ。その意味で、大谷を「現代MLBのトレンドを最も反映している打者」と呼ぶのは決して的外れではない。ちなみに、こうしたスタイルから最も縁遠かったイチローのTTOは17・2%で、空振り率と同じく大谷の約3分の1である。

TTOが高いということは、グラウンド上でのアクションが減ることを意味する。近年、一部のファンからこの「アクションの減少」を理由に「ベースボールがつまらなくなった」という声が聞かれる。けれども、その理屈でいけば大谷は退屈な打者の代表となってしまう。

よほどのへそ曲がりでもない限り、そんなことを言う者はいないだろう。イチローに代表されるプレースタイルを称賛し、パワー重視の野球を批判していた人たちにとっては、アメリカン・スタイルによる大谷の活躍は複雑な感情もあるのではないか。

日米双方の球界をよく知る田口壮は、かつて「日本人でもメジャーで50本打てる可能性はある」としながらも「足の速い子どもに『三遊間に打って走りなさい』と指導している限り、そうした打者は出てこない」とも言っていた。
しかし今、柳田悠岐(ソフトバンク)や佐藤輝明(阪神)のように、日本球界でも三振を恐れることなくフルスウイングを貫く打者が増えつつある。大谷のメジャーでの大成功は、こうした時代の変化の象徴と言ってもいいかもしれない。まだ主流とは言えないものの、彼らに続く選手が次々と現れれば、日本人の野球観は根本的にとは言わないまでも、大きく変わるかもしれない。

もうひとつ、時代の変化を象徴するデータがある。これまでのMVP受賞者で最も打率が低かったのは、遊撃守備の名手マーティ・マリオンの・267(44年)だったが、大谷はおそらくこの記録を塗り替える、ということだ。

大谷は投手との二刀流が評価されてMVP候補になっているのだから、打率だけで単純に比較はできない。けれども、15年前なら「いくら何でも打率が低すぎる」としてMVPに反対する声は出てきただろうし、大谷ももっと確実性を高めるスウイングを求められていたはずだ。

その点、イチローがMVPになった01年は、セイバーメトリクスはそれほど浸透しておらず「ルーキーで首位打者」はそれだけで相当なインパクトがあった。しかしながら、OPSはリーグ28位どまりで、あと数年メジャーに来るのが遅かったら受賞できていなかった可能性もある。

打者としてだけでなく、大谷は投球においても現代MLBの潮流を忠実に反映している。「筋肉をつけすぎるのは投手にとっては邪魔」などと(主に日本で)批判されながらも肉体改造に勤しみ、さらには最先端のトレーニング施設であるドライブライン・ベースボールを訪ねてデータ収集・分析に努め、故障の危険が少ない新投球フォームを完成させた。

時代の趨勢に進んで適応したことが、成功の最大の要因となったのだ。コントロールは多少不安定になっても、100マイル近い剛速球と「最も攻略が難しい球種」に数えられるスプリッターで三振を奪いまくる投球スタイルも、まさに現代MLBのトレンドを反映している。
イチローは引退記者会見の席で、近年のMLBが「頭を使わなくてもできてしまう野球」になりつつあると苦言を呈して反響を呼んだ。そして、「頭を使わない野球」の一例として、ギャロのような打者が増えたことを挙げる人も少なくない。

大谷の打撃も、一見すると大雑把のように思える。だが、大谷は自らの持ち味を最大限に生かし、打撃の生産性を最も高めるために現在のスタイルに行き着いたに過ぎない。そして、実際に球界屈指の強打者へと成長した。その意味では、イチローが「打者・大谷」をどのように評価するのか興味深いところではある。

イチローは強固な意志を持ち、「自分を変えずに」唯一無二の領域に達した。逆に大谷は、柔軟な精神で「自分を変え続けて」史上最高と称されるほどのシーズンを過ごした。2人は、どちらも自らの能力を最大限に発揮できる方法を突き詰め、まったく別のルートから頂点を極めたのだ。

文●出野哲也
※『スラッガー』2021年11月号増刊『大谷翔平2021シーズン総集編』より転載

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