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「え、名前が呼ばれない」2021ドラフトでまさかの“指名漏れ”となった逸材たち<2021百選>

高評価を得ながらも、今年はNPB入りの切符を掴めなかった市川。その他にも指名漏れとなった“逸材”は多い。写真:産経新聞社
2021年のスポーツ界における印象的なニュースを『THE DIGEST』のヒット記事で振り返る当企画。今回はクローズアップするのは、プロ野球ドラフト会議で指名漏れとなった“逸材”についてだ。最速152キロを誇る高校生右腕など、数年後のプロ入りが期待される5選手を取り上げる。

記事初掲載:2021年10月12日

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支配下77人、育成51人の合計128人が指名された今年のドラフト会議。しかしその一方で実力、将来性がありながらも指名されなかった選手もいた。そんな指名を逃した“逸材”について、現地で300試合以上を取材するスポーツライターの西尾典文氏に、特に来年以降再びドラフト戦線に浮上してくる可能性が高い5人を選出してもらった。

①市川祐(関東一高/投手)
入学直後から大器と評判で、1年夏には早くも甲子園でも登板した右腕。3年春までは140キロ前後だったストレートが夏にスピードアップし、東東京大会・準決勝では最速152キロをマークして東京ドームに詰めかけた観衆を沸かせた。左肩がギリギリまで開かず、ボールの出所の見づらいフォームでコントロールも安定している。

決め球になる変化球や投球術には課題が残るものの、投手としてのポテンシャルの高さは今年の高校生でも上位なだけに指名がなかったのは意外だった。ドラフト候補に相応しいスピードを見せたのが最後の夏だけだった点が評価の上がり切らなかった理由と考えられそうだが、甲子園に出場して快投を見せていれば違った結果となった可能性も高いだろう。
②山本大揮(九州国際大付高/投手)
九州を代表する本格派右腕で、昨年秋の九州大会ではその後のセンバツで準優勝を果たす明豊を相手に好投。春の九州大会でも先発した2試合で完封、1失点完投と見事な投球を見せてチームの準優勝に大きく貢献した。ストレートは140キロ台中盤だが数字以上の勢いがあり、スライダー、カットボールなど変化球も高レベルで、投手としての総合力も高い。

わき腹を痛めた影響で夏の福岡大会は万全の状態ではなかったとのことだが、それでも投げるボール自体は素晴らしいものがあった。これだけの力のある投手であれば全国の強豪大学や社会人チームからの勧誘も多かったと予想され、事前に低い順位であればプロ入りしないという判断を下していた可能性も考えられる。順調にいけば数年後は上位候補になることも期待できそうだ。
③長谷川稜佑(青森大/投手)
春のリーグ戦では155キロをマークし、リーグ記録となる1試合19奪三振もマーク。北東北リーグを代表する本格派右腕として、昨年秋からの成長ぶりは著しいものがあり、これだけ最終学年で伸びる大学生も珍しかった。好調時のピッチングを見れば、上位指名の可能性も十分にあるように感じられたが、まさかの指名なし。

その原因としては試合によっての調子の波の大きさと、秋のリーグ戦開幕が遅れて万全の投球をアピールできなかった点が考えられる。仮定の話はなってしまうが、春の好調時の投球を秋も見せられていたら……と感じた関係者、スカウトも多いはずだ。本来の力を発揮できれば社会人でも圧倒できるだけの球威はあるだけに、安定感を増して2年後の1位指名を狙ってもらいたい。

④吉村貢司郎(東芝・投手)
日大豊山高時代から安定したフォームが魅力で、国学院大では故障に苦しんだが、東芝入社1年目となる昨年の都市対抗では最速152キロもマーク。そして今年9月の都市対抗予選では、強豪のENEOSを相手に被安打4、10奪三振で完封と圧巻のピッチングを見せて、さらなる成長ぶりをアピールした。

それでも指名が見送られたのは、やはり安定感のなさが原因ではないだろうか。好調時には圧巻のピッチングを見せるものの、リズムが単調になると打ち込まれるという試合も少なくなかった。ストレートが走らない時の投球も課題。ボールの力は申し分ないだけに、来年に大きな舞台で安定した投球を見せることができれば、まだまだプロ入りの可能性はあるだろう。
⑤藤井健平(NTT西日本/外野手)
野手で指名がなかったことに最も驚かされたのが藤井だ。大阪桐蔭高時代から強肩・強打・俊足の光る外野手として活躍。東海大では少し伸び悩んだものの、3年春にはMVP、4年秋にはベストナインも獲得している。社会人1年目の昨年も、都市対抗では9番ながら3試合で8打数6安打1本塁打と活躍し、新人賞にあたる若獅子賞も受賞。今年は3番に定着していただけに指名は確実かと思われたが、まさかの見送りとなった。

今年指名された社会人の野手を見ると、走攻守三拍子揃った選手よりも長打力が重視されているように見えた。それでも、藤井くらい全てのレベルが高ければすぐに戦力となる可能性は高い。来年も高水準のプレーを見せて、指名を勝ち取ってくれることを期待したい。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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