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「俺がエースになる!」ついに迎えた、ヤクルト高橋奎二の覚醒のとき。奥川との左右の両輪で屋台骨を支えていく

日本シリーズでは第2戦に先発登板し、133球を投げてプロ初完投、初完封勝利を挙げた高橋。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)
「何勝でもしたいですね。20勝、30勝と。もちろん、開幕投手を目指します!」

2021年シーズン終了後の契約更改の席において、来年の目標を問われた高橋奎二は、このように答えたという。この言葉を聞いて、「彼もずいぶんたくましくなったものだな」という感慨を抱いた。

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というのも、わずか1勝3敗で終わった2020年シーズンの「ある光景」を思い出したからである。昨年7月30日、神宮球場で行なわれた対阪神タイガース戦のことだった。この試合に先発した高橋は8回を投げて、被安打3、無失点で初勝利を挙げた。この試合のヒーローインタビューにおいて、彼はファンに向けてこんな言葉を残している。

「今日みたいなピッチングが毎回できるわけではありませんが、今日みたいなピッチングを毎回できるように頑張ります!」
神宮球場の片隅でこの言葉を聞いたとき、謙虚な性格なのか、それとも自信がないのかはわからないけれど、「せっかく藤浪晋太郎相手に堂々たるピッチングを見せて白星を挙げたのだから、“今日みたいなピッチングが毎回できるわけではありませんが”などと言わなくてもいいのに……」と感じたものだった。

よく言えば「謙虚」なのかもしれないが、プロ選手としては「優しすぎる」と感じたものだった。龍谷大学付属平安高校の先輩であり、プロでもチームメイトでもあった今浪隆博さんはしばしば、「彼は気持ちが優しすぎる」と語っていたことが頭をよぎった。

この謙虚すぎるヒーローインタビューからわずか1年数か月後、高橋はヤクルトの貴重な先発左腕として堂々たるピッチングを披露することになる。6年ぶりのリーグ制覇を決めた10月26日、横浜スタジアムでの試合では四番手として登板して勝利投手となった。
11月11日、巨人とのクライマックスシリーズ第2戦では6回8奪三振無失点の好投を見せて日本シリーズ進出に王手をかけることに成功した。そして、21日の日本シリーズ第2戦では、前夜の悪夢のサヨナラ負けを払拭する見事なピッチングでオリックス打線を0封。日本シリーズという大舞台で、プロ初完投、初完封を成し遂げたのだ。

思えば、昨年唯一の勝利となった阪神戦での好投を伝えるスポーツ新聞には、「初完投&初完封お預け」と大きく報じられていた。それから一年のときを経て、ついに偉業を達成することになった。プロ入りして6年目、ついに彼は覚醒したのだ。

高津臣吾監督が二軍監督時代に出版した『二軍監督の仕事 育てるためなら負けてもいい』(光文社新書)という本がある。この本の中で高橋について、次のように述べている。

「高橋は、まだ身体ができていない部分もあり、僕としてはじっくりと育てたいと思っているのだが、『俺がエースになる!』というオーラがハンパない。投手としてステップアップしたくて仕方がないので、めちゃくちゃ意欲的に練習する。その意欲を殺がないように育てていこうと考えている」

この本が出版されたのが2018年11月のことだった。「じっくりと育てたい」という高津監督の言葉通り、ついに「そのとき」がやってきた。プロ2年目でヤクルト投手陣の顔となった奥川恭伸と高橋の左右の両輪が、これからのチームの屋台骨を支えていくことだろう。
来年、プロ21年目を迎える石川雅規以来、ずっと「左の先発投手不足」に悩まされてきたヤクルトにとって、待望久しい左の本格派エースが誕生したのだ。2021年はシーズン途中からの一軍昇格だったため、わずか14試合の登板で4勝1敗という成績に終わった。

冒頭に紹介した高橋の言葉にあるように、もちろん来年は開幕投手を目指し、シーズンを通じてローテーションを守っていくピッチングが期待されている。彼が口にした「20勝、30勝」は決してビッグマウスではないことを自らの左腕で証明してほしい。ヤクルトファンの一人として切に願いつつ、同時に「それも可能かもしれない」と思う自分がいる。

文●長谷川晶一

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