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牧秀悟の勝利貢献度は「栗林良吏の2倍」!? 有識者が考える新人王投票<SLUGGER>

栗林(左)も牧(右)も数々の新人記録を樹立。2人のどちらを新人王に選ぶべきかは議論が分かれるところだが、最新指標で見てみると……?写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)
12月15日に行われるNPB AWARDで、新人王が発表される。今年のセ・リーグは栗林良吏(広島)と牧秀悟(DeNA)と2人の“最有力候補”がいる。果たしてどちらが受賞にふさわしいのか。有識者たちの意見を聞いてみた。

まず、2人の基本成績を整理しておこう。

栗林
【試合】53 【勝敗S】0-1-37 【防御率】0.86 【投球回】52.1
【奪三振】81 【与四球】28 【被本塁打】1 【WHIP】0.97


【試合】137 【打率】.314 【本塁打】22 【打点】71
【盗塁】2 【出塁率】.356 【長打率】.534 【OPS】.890

栗林は新人プロ野球タイ記録の37セーブを挙げ、防御率は0点台。52.1回で被本塁打は1本だけ、奪三振率13.93とまさに桁外れの支配力で打者を牛耳った。一方、牧はルーキーでは清原和博(当時西武)以来35年ぶりの打率3割&20本塁打を達成。史上初の新人サイクル安打も達成した。

まさに甲乙つけ難い2人だが、「心情的には牧かな」と話すのは、ベースボールライターの氏原英明氏だ。
「新人で3割20本。二塁打は新人史上最多記録。また、二塁手でこれだけ打てるということも評価したい。ほぼ毎日試合に出ているという労働量も考えると、やっぱり牧を推したいですね」

また、栗林の印象には“五輪補正”があるとも指摘する。

「栗林について言及される際には、たいてい『東京五輪では全6試合に登板して金メダル獲得に貢献した』と言われますよね。でも、新人王はレギュラーシーズンの活躍のみを加味するべきです。もちろん、金メダルに貢献したことは凄いけれども、五輪は五輪、シーズンはシーズン。金メダルに貢献したから新人王というのは不公平でしょう」

解説者の谷繁元信氏も「あの最後の追い込みで、投票者をかなり迷わせているでしょうね」と、牧の終盤の追い上げを絶賛しながらも、シーズントータルで考えると「やはり新人王は栗林」と述べている。

「抑えで0点台は、なかなか難しい数字だと思うんですよね。しかも新人でそれを達成したのは、やはり評価が高いんじゃないかなと思います」
横浜時代は佐々木主浩、中日では岩瀬仁紀と、球史に残る守護神とバッテリーを組んできた谷繁氏は、クローザーというポジションの難しさを強調する。

「たかが1イニングと思われるかもしれませんが、抑えはかなりのプレッシャーというかかってくるポジションです。先発投手の勝ちや、野手の勝利打点も、下手をすれば1回で全部壊れてしまう。それを新人が1年間やり通したというのは、これはもう評価せざるを得ないですよ」

では、セイバーメトリクスの観点からはどうなのか。データスタジアムでアナリストを務める佐藤優太氏は次のように指摘する。

「単純に勝利貢献度WARで比較するなら、新人王は牧でしょう。栗林のWARが2.2なのに対し、牧は5.7と倍以上の差をつけています」

これは多くのファンにとって予想外だろう。では、なぜこれほどの差になるのか。佐藤氏によれば、ここで大事なのは「質と量」だという。
「栗林の『質的貢献』は申し分ありませんが、『量的貢献』にあたる投球イニングは52.1回にとどまります。チーム全体の投球イニングが1253.2回ですから、栗林が占める割合は4.2%に過ぎません。対して、牧はチーム全体の5340打席中、9.8%にあたる523打席に立っていて、そこに守備・走塁での貢献も上積みされます。この単純な比較だけでも、労働量の違いは明らかです」

ただ、先ほど谷繁氏も指摘していたように、独特のプレッシャーの中で投げる重責を考えれば、クローザーの1イニングを普通の1イニングと捉えることに抵抗を覚えるファンもいるだろう。

「セイバーメトリクスには、『Leverage Index(LI)』という、その場面の重要度を表す指標があります。栗林が登板した時点のLIを平均すると1.5で、これは標準的な場面よりも勝利に与える影響度が1.5倍高かったことを意味します」

「今回算出したWARにはLIを組み込んでいませんが、仮にLIで補正した場合、栗林のWARは2.7になります。栗林が重要な場面で投げ続けたことを考慮しても、牧とはやはり歴然の差があるのです。裏を返せば、セカンドという負担の大きいポジションでリーグトップクラスの打撃成績を残し、フルシーズンを戦い抜いた牧の貢献度は、それだけ突出しているのです」

下馬評では栗林が優勢とみられているようだが、データ上では牧に軍配。実際の投票結果はどうなるだろうか。

構成●SLUGGER編集部

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