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無名だった佐藤輝明はなぜ怪物に?『良くも悪くも外国人っぽいバッティング』の学生時代からの進化とは<2021百選>

阪神打線を牽引する佐藤。アマチュア時代は無名だった中で、いかに成長を遂げていったのか。写真:山手琢也
2021年のスポーツ界における印象的なシーンを『THE DIGEST』のヒット記事で振り返る当企画。今回は、シーズン開幕から本塁打を量産し、プロ野球界の主役に躍り出た佐藤輝明を取り上げる。高校時代の無名選手が“怪物ルーキー”に変貌するまでの道のりとは?

記事初掲載:2021年5月10日

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例年以上にルーキーの活躍が目立つ今年のプロ野球だが、シーズン前から最も注目を集めている選手と言えばやはり佐藤輝明(阪神)になるだろう。オープン戦で12球団トップとなる6本塁打を放つと、レギュラーシーズンでもパワーを発揮。横浜スタジアム場外弾を叩き込んだのをはじめ、5月8日時点で両リーグトップタイの10号を記録している。

昨年のドラフトでは4球団が競合する野手の目玉だった佐藤だが、高校時代は全国的には完全に無名の存在だった。

筆者もそのプレーを初めて見たのは近畿大に進学した後の1年春のリーグ戦、2017年5月12日に甲子園球場で行われた京都大戦だった。この試合に佐藤は5番・レフトで出場。最初に注目したのがその体格で、当時のプロフィールも186センチ、92キロとなっており、体つきは一際目を引いた。

【動画】怪物・佐藤が圧巻の10号! 歴史に名を刻んだ一発を見よ そしてプレーの面で最も目立ったのがインパクトの強さだ。この試合には小深田大翔(現楽天・当時4年)も出場していたが、打球音は佐藤だけ一人違い、レフト方向への大きなファウルにも現在の広角にホームランが打てる特長の片鱗が感じられた。

しかしトップの形は不安定でボールを上手く呼び込めずに、全体的にスウイングの淡白さも気になった。最初の2打席は内野ゴロに倒れ、第3打席でライト前ヒットを放ったがクリーンヒットではなく、引っかけたような当たりだった。

当時のノートには『良くも悪くも外国人っぽいバッティング』という記載がある。この春のリーグ戦後に行われた全日本大学野球選手権にも出場しているが、岡山商科大の近藤弘樹(現・ヤクルト)の内角のストレートにバットをへし折られ、3打数ノーヒットに終わっている。

2年春のリーグ戦で見た時は坂本裕哉(現・DeNA)に抑え込まれ、その秋の明治神宮大会ではレフトスタンドにホームランを放ったが、会心の当たりではなかった。差し込まれてもパワーでスタンドまで運ぶというのはある意味、非凡さの表れではあるが、大学3年まではドラフトの目玉になるとは正直思っていなかった。

そんな佐藤の印象が少し変わったのが最終学年となった4年秋のリーグ戦の関西学院大戦だった。
最初の2打席は外野フライに倒れたものの、1本目はストレートをセンターに、2本目は変化球をライトに打ち返したものであり、それまでのような差し込まれるバッティングではなかったのだ。そして第4打席では今年のドラフト候補にも挙がっている黒原拓未の147キロのストレートを引っ張ってライト線へのツーベースを放ったのだが、その打球の速さはドラフトの目玉に相応しいものだった。

佐藤のヒットを見たのはこれが5本目。だが、速いストレートを完璧に捉えて強く引っ張るバッティングは初めてだった。ドラフト会議が終わった後の関西地区大学野球選手権の大阪商業大戦でも、内角高めのストレートを引っ張ってライトオーバーのタイムリースリーベースを放っているが、これも3年時までは見られないような当たりだった。

下級生の頃から大きく変わったのは「身体の回転の鋭さ」である。それまではボールを長く見る意識は強かったものの、下半身を上手く使うことができず、どうしても腕力に頼るようなスウィングが多かったが、4年秋には空振りになっても全身を使って鋭く振り切る場面が圧倒的に多くなった。
速いストレートを強く引っ張ろうとすると、どうしてもポイントが投手寄りになって、変化球に簡単に崩されてしまう。しかし、佐藤は持ち味であるパワーに加えて下半身を使ったスウイングのキレがプラスされ、捕手寄りの近いポイントでもライトへ長打を放てるようになったのだ。

プロのここまでのプレーを見ていると、まだ速いストレートに差し込まれる場面は多いが、大学3年までのように崩されながらも何とかバットに当てるという形は見られなくなっている。自分のパワーを生かせる形ができたことと、常にフルスウィングする姿勢を徹底していることが、ここまでの好成績につながっているのではないだろうか。

最初に見た時の『良くも悪くも外国人っぽいバッティング』というイメージは今でも変わらない。しかし一方で、確実にバッティングの内容が進化しているのは間違いない。今後さらに相手からの厳しいマークが予想されるが、安易にヒットを求めるのではなく、常にホームランが期待できるような今のスタイルを貫き続けるのを期待したい。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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