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反省すべき送りバント失敗のはずが……流れを変えたヤクルトの“致命的ミス”【氏原英明の日本シリーズ「記者の目」】<SLUGGER>

9回裏に福田が送りバントを敢行する。「狙い通りではなかった」はずが、ヤクルトの守備の遅れで流れが変わった。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)
当事者によれば、狙い通りではなかったという。

「三塁手に捕らせるところに転がしたかった。ちょっと緩めになってしまって、狙ったところではなかったですね」

2点ビハインドの9回裏無死一、二塁。送りバントを敢行したオリックスの1番・福田周平は、反省すべきプレーとして、そのシーンを振り返った。

しかしこの場面、ラッキーに働いたのはオリックスの方だった。

福田の送りバントをさばいたヤクルトのクローザー、マクガフは三塁へ送球。これがやや逸れて、結果的に判定はセーフとなった。

確かに、福田の言葉にあるように、絶妙な送りバントではなかった。

この場面の送りバントとしては、まず、きっちり送ることが大前提だ。その上で、あわよくば三塁手と投手が捕球するギリギリのラインを狙ってセーフティバントとする手もある。
とはいえ、2点ビハインドなのである。定石を考えれば、まずは走者を進めることを考えるべきで、投手前に転がった福田のバントは絶妙なものではなかった。

ただ、守備側からすれば2点をリードしていたのだ。間一髪のタイミングの三塁へ投じることと、アウトを一つ重ねることのどっちにプライオリティがあったかは考えるべきだっただろう。

オリックスの中嶋聡監督が振り返った言葉がこの試合を象徴している。

「序盤からこちらの打球が抜けなかった。相手の守備も上手くて、ずっと流れは良くなかった。チームの勢いは向こうにもあるし、こっちにもあるし、そのせめぎ合い。その中で変なミスがなかったら、何とか行けるのかなと言うのはありました」
試合は両チームの先発投手がともにゲームメイクする形で進んだ。

オリックスの山本由伸は本来の調子とはまったく違う出来で、ヤクルトの奥川恭伸も大舞台にかなりの緊張感があった。しかしそれでも、2人は要所を締めて前半5回はゼロ行進と試合を作った。

そんな中、試合が動いたのは6回表だった。1死一、二塁で6番の中村悠平が山本のストレートをセンター前に弾き返して1点を先制した。だが、オリックスも7回裏に若月健矢の代打で登場したモヤが起死回生の同点本塁打を放って、試合は振り出しに戻る。

ここからはブルペン勝負となったが、先に勝ち越したのはヤクルトだ。8回表にランナーを1人置いて、4番の村上宗隆がヒギンズからバックスクリーンに放り込んだ。

オリックスからすれば、ここでの2失点は致命的かとも思えたが、9回表に登板した比嘉幹貴が1番の塩見泰隆から始まるヤクルト打線を三者凡退。それも、青木宣親、山田を連続三振に抑えたのは大きかった。
オリックスは9回裏に、先頭の紅林弘太郎がライト前ヒットで出塁、続く代打のジョーンズが四球で粘って、冒頭の福田のバントの場面を迎えた。

無死満塁となった後、2番の宗佑麿の中前適時打で2者が生還、同点となった。そして最後は3番の吉田正尚がセンターオーバーのサヨナラタイムリーで試合を決めた。

「しびれましたね。宗がこれまでにないくらい球場を盛り上げてくれたので、その勢いで行かせてもらいました。5回裏のチャンスの場面では力がなくて外野を抜けなかった。最後は抜けてくれて安心しました。チーム全体として1年間、あきらめない戦いというのをできていたので、この日本シリーズの初戦でできたのは、大きな勝ちだと思います」

殊勲の吉田は大逆転の勝利をそう噛み締めた。

返す返すも、9回裏のミスが試合を大きく動かした。「粘りのオリックス」でペナントを制したパ・リーグ王者に、ヤクルトが点差を考えた守備ができなかったのは致命的だったと言えるだろう。

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』『甲子園は通過点です』(ともに新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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