ベルファームの発起人、一燈会・山室淳理事長が湘南を選んだワケ

 湘南ベルマーレと社会福祉法人「一燈会」が共同で取り組んでいる『ベルファーム』が、イノベーションリーグ2022で大賞を受賞した。これは、すごいことだ。

 スポーツ庁が創設したコンテストは、スポーツがビジネスや社会課題、テクノロジーとつながることで、生み出す新しい価値を評価し、新しいムーブメントを支援する施策だ。2020、2021はそれぞれ、アシックスやGoogleといった大企業が大賞を受賞している。

 2022シーズンから湘南の社長を務める佐藤伸也社長と共に、ベルファームを興したのは、クラブのオフィシャルスポンサーである「一燈会」の山室淳理事長である。スポーツと農業、福祉を掛け合わせ、障がい者や高齢者を支援するこの取り組みは、どのようにして生まれたのか。山室理事長に話を伺った。

インタビュー=北健一郎、編集=大西浩太郎

※インタビューは5月9日に実施しました

出会いのきっかけは理事長の息子さん!?

──一燈会と湘南ベルマーレはどのように出会ったんですか?

山室 株式会社古川の古川剛士社長が、ベルマーレの社長も兼務していた当時、私たちの事業を通して交流が生まれました。最初は試合の観戦チケットをいただき、スタッフとは試合会場に何度も足を運んでいたので、関係が深まっていきました。

──最初は「ファン」のような立ち位置だったんですね。

山室 実はその頃、私の子どもがロンドリーナに所属していました。気づかれないようにしていたのですが、古川社長に見つかってしまった。案の定、協力を仰がれるようになったことが本当の始まりです(笑)。当時の私はユニフォームに名前を載せるようなスポンサーには興味がなく、純粋にフットサルクラブの育成世代に力を注ぎたいと考えていました。

育成カテゴリーがきちんとしていないと安定的にトップに選手を輩出して、優勝争いを続けられるチームを作れないと思っていたので、人を育てるサポートをするためにサテライトチームとユースチームの支援を始めました。

──広告価値を考えてスポンサーを始めたわけではなかった。

山室 そうです。育成カテゴリーの支援はチームが求めているところでもありましたし、長く安定的にトップを目指せるクラブにしていってもらいたいと考え、応援したいな、と。

──トップチームのスポンサーには?

山室 毎年、育成組織の練習着スポンサーとして費用を出していましたが、当時は全く、トップチームの支援に興味がありませんでしたね(苦笑)。

──一燈会はロドリゴ選手と「魔法のランプ契約」を締結されていましたよね。これはどのようなきっかけがあったのでしょうか?

山室 きっかけはクラブの財政的な事情にありました。ロドリゴ選手との契約を続けるための費用を生み出すのが難しくなってきたということで、声がかかりました。

現在、グループ会社を含めてベルマーレの選手が6、7人ほど働いているのですが、フットサル選手としての価値を上げるにはやはり、フットサルに専念できる環境が必要ですよね。選手のパフォーマンス向上に貢献したいと思って始めたのが「魔法のランプ契約」です。ある意味で「プロ」と同じですが、企業に個人を応援してもらうという取り組みですね。

──ロドリゴ選手はその結果、フットサルに専念できるように?

山室 その契約だけで、ということではなかったですね。彼は育成組織のスクールコーチとしてもクラブからお金を得ていたので、それに加えて「魔法のランプ契約」があったという感じです。仕事の時間が減れば、競技と向き合う時間が増え、パフォーマンスが上がっていきます。少額でも、私たちと同様に「魔法のランプ契約」で彼を支援していた企業もあります。この応援の方法がもっと広がればいいなと思います。

障がいを持つ子どもやお年寄りがファンになる

──現状、それだけで競技に専念できる「プロ選手」が少数派であるFリーグについてはどのように感じていますか?

山室 私自身はそのことについてお話できるような立場ではないですけど、Fリーグを盛り上げていきたいという思いは持っています。スポーツが地域の一体感を生み出しますし、地域の経済活動において、大きな起爆剤になっている事実もありますから。フットサルを含め、スポーツがもっと地域を輝かせいける存在になるといいなと感じています。

──湘南の選手は、障がいを持つ方やお年寄りとのつながりを大事にしていますよね。

山室 私たちのグループ企業で働く選手には「自分のファンを作れ」と話しています。障がいを持つお子さんを通じて、その両親ともつながれる。高齢の方も、普段関わっている子がフットサルで活躍していることを知ると、彼らの応援を生きがいに感じるようになります。今シーズンは「推しメン企画」も考えています。応援する風土や文化をどのように作るかは問題ですが、以前、お年寄りがユニフォームを着た選手と触れ合った際に、気持ちが高揚して、すごく元気になっている姿が印象的でした。交流できる機会をもっと生み出していきたいです。

──ある意味で、孫を応援するような。障がいのある子どもたちもファンになっていますか?

山室 以前、障がいを抱える子どもたち10人くらいを連れてフットサルの応援に行ったことがあります。会場に鳴り響く大きな音に驚いてしまう子もいたのですが、半分以上の子たちは身を乗り出して応援していましたね。いつも関わってくれているスタッフが、トップチームの選手としてピッチ上で活躍する姿を見て、めちゃくちゃ興奮していたようです。それだけではなく、子どもたちが私たちのサービスに対しても意欲的になりました。しかも、聞くところによると、家に帰ってからも両親の言うことをよく聞くようになったとか。そういった事例もあって、障がい者や高齢者介護とスポーツとの関わりには大きな期待を抱いています。

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