最後の瞬間もいつも通りに。「自分を誇りに思う」日本最高の男・西谷良介を象徴する1本のラストパス|俺たちの全日本
残り27秒で見せた、極限のインサイドキック
1本のパスに、西谷良介の生き様が詰まっていた。なぜ、こんなにも素晴らしい選手が引退してしまうのか。そう思わざるを得なかった。心・技・体、すべてを兼ね備えた選手だった。
「自分らしいプレーができたことは、満足というと変な言い方かもしれないですけど。あの1本を通せたことは……いろんな経験があったからこそだと思います。振り返ってみると、いろんなことを感じる1本のパスだったと思います」
全日本フットサル選手権準々決勝で、名古屋オーシャンズは湘南ベルマーレにPKの末に敗れ去った。序盤からリードした名古屋が4-1で試合を折り返したにも関わらず、残り50秒で4-5と逆転を許してしまったのだ。
名古屋はそこでパワープレーを選択し、西谷もピッチに立った。
直後に、中央のオリベイラ・アルトゥールからのパスを左サイドで受けた西谷は、正確なインサイドパスをファーへ通して、アンドレシートの同点弾をアシストした。土壇場の同点劇。西谷は歓喜のガッツポーズを見せた。
残り時間は27秒。仮に失敗していたら、もうチャンスはなかったかもしれない。最後に作り出した千載一遇のチャンスで、あれほど正確なパスを繰り出せる心と技術と所作。極限の技。「これが西谷良介だ!」と思わずにはいられなかった。
「体がここまでよくもってくれました。正直、全日本までは練習もできなかったですし、そんな状態で試合に出ていいのか、と。これまで一週間、一週間の練習を大事にしてきたので、それができない。でも最善を尽くすにはそれ(休む)しかすべがない。それでも監督が信じて使ってくれたことに感謝していますし、若い選手がケツを拭いてくれて。引っ張らないといけない存在だったんですけどね。彼らと一緒にできた時間は忘れられません」
2022年12月、西谷はリーグ戦で左腓腹筋損傷の怪我を負い、全治2カ月の離脱となってしまった。1月29日のホーム最終戦にかろうじて復帰したものの、万全ではなく、その後のプレーオフでもプレータイムをほとんど得られない状態だった。
全日本選手権では、名古屋の3つ目のセットの一員として、鬼塚祥慶、水谷颯真、宮川泰生とピッチに立った。同じくプレーオフではほとんど出番がなく、ベンチから声を張り上げた若手と一緒に戦えたことも、西谷の最後を感じさせる光景だった。
「プレーオフの彼らのメンタルもキツかったと思います。でも、ベンチの彼らの力がなければプレーオフの3連勝はなかった。心の奥で気持ちを噛み殺して、チームのために行動できた彼らを讃えたい。でも、噛み締める気持ちがないとこの舞台では戦えない。それは、篠田(龍馬)がキャプテン1年目で作ってきた、彼のキャプテンシーや人柄がそうさせたと思います。メンバーは変わりますけど、大事なところを受け継いで、強い名古屋オーシャンズを、三冠できるチームを作っていけると思う」
プレーオフ、そして全日本選手権を経て、西谷が伝えたかった思いは、たしかにあのピッチで引き継がれた。
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