浅野拓磨,サッカー,W杯 撮影:Kaz Photography/Getty Images Sport

森保ジャパンの「秘蔵っ子」”ジャガー” 浅野拓磨の強さを解説

(大会直前のため再掲載)
アイキャッチ写真:浅野拓磨(撮影:Kaz Photography/Getty Images Sport)

2022年11月から行われるカタールワールドカップ(W杯)で、日本はE組に入り、ドイツ、スペインといった世界の強豪国相手に戦いを挑むことになる。そこで、サムライブルーの一員として本大会での活躍が期待される選手たちにスポットを当てて、そのキャリアを振り返っていきたい。今回紹介するのは“ジャガー”の愛称でもおなじみ、ブンデスリーガ・ボーフムに所属する浅野拓磨だ。(文・井本佳孝)

南野拓実、遠藤航らとリオ五輪で共闘

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森保一監督(左)と浅野拓磨(Photo by Koji Watanabe/Getty Images)

浅野は三重の名門・四日市中央工業高出身で、2年次には得点王に輝くなど高校時代から同世代を代表するストライカーとして注目を集めた。2013年にサンフレッチェ広島に入団すると、3年目の2015年から徐々に出場機会を増やす。リーグ戦でスーパーサブとして8得点を記録し、ベストヤングプレーヤー賞に選出されるなど、本格ブレイクを果たすことになった。

その後、U-23日本代表の一員として南野拓実、遠藤航らと共闘し、2016年のリオデジャネイロ五輪に出場すると、初戦のナイジェリア戦、2戦目のコロンビア戦でゴールを奪う活躍で存在感を示す。A代表からも召集がかかり、ロシアW杯を目指す予選のメンバーに名を連ねると、本大会行きをかけたオーストラリア代表との試合でゴールを奪う活躍を見せた。惜しくもロシアW杯メンバー入りはならなかったものの、五輪、W杯予選と厳しい場面での経験を積んできた。

クラブレベルでは2016年にイングランド・プレミアリーグの名門アーセナルへ移籍を果たし、レンタルでシュツットゥガルトに移り海外でのキャリアをスタートさせる。ハノーファーを経て加入したセルビアのパルチザンではチームのエースとして得点ランキング2位の18ゴールと結果を残したが、チームからの給与未払いの問題もあり契約を解消。紆余曲折を経験しながら、今季から再びドイツに戻り、ボーフムで背番号10を背負ってプレーしている。

相手DFを脅威に陥れる圧倒的なスピード

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浅野拓磨が所属するVfLボーフムの本拠地ルールシュタディオン(写真:taranchic)

浅野の最大の持ち味は、爆発的なスピードだ。相手DFの裏へ送り込まれたボールに対して圧倒的な加速で反応し、敵を脅威に陥れる。今季加入したボーフムでは得点に絡めず苦しい時期を過ごしたが、第28節のホッフェンハイム戦では2ゴールを奪いチームを勝利に導くと、第32節の強豪ドルトムント戦でも2アシストと結果を残し、好調を維持したまま今シーズンを終えた。

爆発的なスピードが武器の選手といえば、世界に目を向ければパリ・サンジェルマンに所属するキリアン・ムバッペがいる。世界最高峰のスピードスターであるフランス代表FWは浅野と同様に相手DFの後方にスペースがある場面を得意とし、スルーパスからの抜け出しや、足元にボールを納めての単独突破、左サイドからカットインしてのシュートなど多芸多才。カタールW杯の主役候補は年々その凄みを増し、進化を続けている。

そんなムバッペら世界トップレベルの選手と比較して、浅野の改善点は純粋なFWとしての得点力とプレーの種類のバリエーションを増やすことだ。パルチザン時代には得点ランキング2位に入る活躍を見せたものの、ブンデスリーガや日本代表の試合では得点力は鳴りを潜めている。また、味方との連携で局面を突破したり、足元にボールをもらってからのドリブルなど、得意な裏へのスピードを活かすためにそれ以外のプレーの引き出しを増やすことが求められる。27歳を迎えている浅野のキャリアにおいても、一皮むけるためにはさらなる進化が必要だ。

W杯でリベンジを狙う森保監督の“秘蔵っ子”

しかし、ホッフェンハイム戦では足元にボールを納めてからのカットインから豪快なミドルシュートを叩き込み、直近のドルトムント戦でも裏からの抜け出しだけでなく、右サイドからのクロスで味方のゴールをお膳立てしてみせた。ブンデスリーガでの戦いを通してプレーのバリエーションにも変化が見られており、ドイツでさらに成長しこの姿を日本代表の試合でも披露することが期待できる。

そんな浅野は日本代表を率いる森保一監督にとっては広島の指揮官を務めていた頃からのいわば“秘蔵っ子”と呼べる存在でもある。本大会においてもドイツ、スペインといった個人レベルで優れる相手にはカウンター戦術が得策とされ、前線からのチェイシングや裏への抜け出しを得意とする浅野の持ち味が活きやすい場面が出てくるはずだ。そんな状況で得点に加え、ドイツで成長の兆しを見せるプレー選択のバリエーションで貢献できれば、日本にとっても、ここ一番での“ジョーカー”として浅野というピースがハマる可能性は十分にある。

前回の2018年ロシア大会では直前でメンバー落ちする悔しい瞬間を味わってきた浅野は、苦しい場面も遭遇しながらこれまでのキャリアを築いてきた。悲願となるW杯本大会のメンバーに名を連ね、会心の“ジャガーポーズ”がみられるのか。海外での紆余曲折を経て逞しさを増した日本のスピードスターが見せるリベンジとその進化に期待したい。

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