Cygamesは、なぜユベントスとサガン鳥栖に投資をしたのか?
※写真提供:株式会社Cygames
2017年シーズンも残り2ヶ月になり佳境に入ってきた明治安田生命Jリーグ。各チームが熱戦を繰り広げているが、その中の1クラブである「サガン鳥栖」は2015年7月に株式会社Cygamesとスポンサー契約を締結している。
Cygamesは『神撃のバハムート』、『グランブルーファンタジー』、など著名なゲームを次々に世に送り込んでいる。中でも2016年にリリースした『Shadowverse』は日本語にとどまらず、英語版、韓国語版、繁体字版、フランス語版、イタリア語版と多言語版を発表した。自社の顔とも呼べるゲームという分野で世界の市場へ歩を進めている中、実は別軸でもグローバルな動きを加速させているのだ。
そして、ニュースでも話題となったが、2016年度の欧州ナンバーワンサッカークラブを決めるチャンピオンズリーグで2位となった世界的名門・ユヴェントスF.C.とスポンサー契約を結んだ。前述のサガン鳥栖に続き、2つ目のクラブスポンサー締結になるが、なぜCygamesはスポーツへの投資をすることを決めたのだろうか?そして、ゲーム会社がサッカー界にスポンサードするそのメリットとは。代表取締役社長である渡邊耕一氏に話を伺った。
地元の佐賀に元気が無かった。
-まずは、サガン鳥栖のスポンサーとなった経緯から教えて下さい。
私の地元が佐賀というのは1つの理由としてあります。「人づくり」「まちづくり」「夢づくり」を理念に置く、ホームタウンの人口が7万2千人程の決して大きくないクラブが「鳥栖市を、佐賀県を元気にしよう」という思いで活動していたことですね。選手の活躍や、サポーターや地域の皆様と成長してサッカーの普及・振興に努める姿に共感し、活動を支えるためにスポンサーの一員となりました。スポンサードを通じて様々な施策の中で地域・社会貢献活動を行うことにより企業価値や認知度をより向上させたいと考えています。あとは単純にサッカーが好きだからですね。
加えて、背景としてとにかく佐賀に元気が無かったことが挙げられます。僕が子供の頃は多くの子供達が道で遊んでたんですけど、そもそも子供が歩いてないどころか人が歩いていないという状況になっていたんですね。私たちはゲーム会社なのですが、ゲームという分野は極論、子供がいないと未来がないんです。
例えば僕が小さい頃、ファミコンで色々なゲームをやっていたから今がある。「小さい頃にゲームをやってました」と言える子供がいないとゲームの産業は大きくなっていかないのかなと。そういった観点から、人口が減っていくことになると僕らのようなエンタメ企業はジリ貧だと思うんですよね。だから少しでも地元を活性化できたら、という思いはありました。
-鳥栖のスタジアムは国内でも屈指の見やすさがありますが、そこに惹かれた部分はあるのでしょうか。
ベアスタ(※正式名称:ベストアメニティスタジアム)は良いスタジアムですよね。行ったときに、サポーターの応援が気持ち良かった印象があります。
-それこそ、スタジアムを使ったイベントを行うことは無いのでしょうか?
そういうのはやってないですね。グッズは作って販売しているのですが、スタジアムでどうこう、というのはベアスタが鳥栖市の持ち物なのでできないんですよね。ただ、様々な施策を通して鳥栖市との関係も良好になってきました。
-スポンサーになることでクラブにおける決裁権というところは少し気になる部分ではあります。
そういうことは一切ないですよ。勝った試合の後に監督とも勝った時に「今日の審判ひどくない?」とか「あそこ攻められたから次は修正しないとですね」というような話をする程度です。試合には行ける時は極力、足を運ぶようにしています。鳥栖でやる時と、関東圏でやるアウェイの試合ですね。息抜きがてらに仙台へ行ったりもしました。
複数チームからユヴェントスF.C.を選んだ理由
-ユヴェントスF.C.という新たな国外のチームへのスポンサーとなりましたが、複数のチームからオファーがあった中でこのチームを選んだということを伺いました。
代理人の方から色々とお話が来たのですが、明らかにユヴェントスF.C.の資料が1番しっかりしていたんです。また、クラブカラーと弊社の色合いというのも大きかったかなと。ユヴェントスF.C.のチームカラーである「ビアンコ(白)、ネロ(黒)」と弊社のコーポレートカラーは一致しているので、強い縁は感じますね。
ただ、もう1つの理由としてユヴェントスF.C.が絶対的に強いというのもありますね。国内リーグで6連覇中ですからね。チャイナマネーが入ってくることで勢力図は変わるかもしれませんが、イタリア国内で最も強いチームというのは大きいです。今年のチャンピオンズリーグも勝つことを期待していたのですが、少し脆さを露呈していまいましたね。
実は決勝の前に(スポンサーを)決めてくれたら、決勝の前にプレゼンをしてくれるという話もありました。ですが、「ちょっと待ってくれないか」と話をしたんです。そうしたら、「決勝で勝っても負けても値段は変えない」とユヴェントスが言ってくれたので、そこに誠実さを感じましたね。CLの決勝で勝てばクラブの価値は上がる訳で、勝ったことによって提示するスポンサー額を上げることも、普通なら考えると思いますので。
-締結に当たってはどれほどの時間がかかったのでしょうか。
詳しい交渉内容はお伝えできませんが、1年近くの交渉期間がありました。私自身がイタリア・トリノに足を運び、弊社の考え方を知ってもらい共通点を見出す作業からはじまりました。ユニフォームスポンサー以外の看板や広告物などの当社ロゴの入り方など、一つ一つ丁寧に話し合いを重ね、契約直前にはマーケティング担当役員も来日し、詳細を詰めました。契約発表の手法や他社との比較など話し合いを重ね、結果的に合意に達したという形です。
-イタリアに実際に足を運ばれたとのことですが、印象に残っていることはありますか?
スタジアムも見ました。イタリアの人たちの印象も良かったですね。人が良い。フランスだとフランス語が話せないと受け入れられないというような雰囲気が少しあるじゃないですか。ホテルマンがようやく英語が通じるぐらいで。イタリアは言葉は喋れないですけど「よく来たな!」、「これがうまいぞ!」というようなことを言ってくれて、全体的に親切だなと感じました。
※画像提供:株式会社Cygames
企業のブランド力向上と、社員のモチベーション喚起-イタリアで1番強いチームのスポンサーをすることによって、イタリアにおける知名度や扱うゲームのDL数を上げたいという考えなのでしょうか。
イタリア市場というよりは世界的な知名度を上げたいですね。ちょうどディバラが10番をつけてくれたので、それも大きかったです。やはり、ユーベの10番って特別ですからね。10番となれば背中が映るわけですし、ファンもユニフォームを買う際、背番号を見るときには後ろを見ますからね。選手の移籍発表などがあると、うちのロゴと選手の背番号と名前が映る。そういう意味でも世界的な露出の大きさは感じています。
2016年の6月に『Shadowverse(シャドウバース)』の日本語版、英語版を同時にリリースして、この7月にフランス語版とイタリア語版もそれぞれリリースしました。そういう意味で『Shadowverse』へも良い効果を期待しているという側面もあります。また、『ANUBIS』というゲームをコナミさんと開発しており、それも世界的に知名度があるタイトルなので、そういった色々なものの相乗効果も狙っています。
-スポンサーメリットとしてはどういう部分を考えていらっしゃいますか?
国内においてはサガン鳥栖を通じて、地域貢献、社会貢献活動による認知度や企業価値が向上していることは、実感できるものがあります。企業文化の醸成やブランド力の向上などスポーツを経営戦略資源として活用出来ていることがメリットとして挙げられると思います。
また、事業のプロモーション活用としての側面を持つ、今回のスポンサー契約については、グローバルな展開を図る中で、弊社のブランド力の向上だけでなく、社員のモチベーションアップにもつながっています。世界的知名度の高いユヴェントスF.C.との契約は社会へのインパクトが大きく、社員一人一人も様々な喜びの声を外からも頂いてるようです。そういう意味でもさらに会社に誇りを持ち、弊社のビジョンである最高のコンテンツを作る会社の一員として力を合わせていけると感じています。そして、更なる企業成長のためにリクルートの面においても良い影響を与えられればなと思っています。
1番は面白くないとダメ-Cygamesさんはお笑いの番組のメインスポンサーになられていますよね。それも1つのエンターテイメントへの投資だと思うのですが、そういう面でのブランディング、マーケティングという活動を会社として進めているという感じですか?
色々なところからスポンサーの話は来ますが、ほとんどは断ります。その中で1番は“面白くないとダメ”だと。やはりエンタメ企業ですし、“面白そうだな”と思われなきゃダメだと思うんですよね。とはいえ、ただ面白いと思われたいからやっている訳ではないのですが。そういったマインドは社員には持っていて欲しいなと思います。“うちがやるからにはこれぐらいのインパクトがなきゃダメだ”という意識は常に持てという話を常にしています。
-スポーツチームにスポンサーをするときは、例えば最初のチームのサガン鳥栖は地元というのがあったと思うんですけど、ユヴェントスF.C.は強くて露出が多いからという考えがやはり大きいと。
強いからというのが1番ですね。サッカーという分野で強くて知名度があるというのは世界的なブランドですから。ユヴェントスF.C.自体が自分たちのチームのブランドを世界に発信しようとしているので、そこも大きいですね。
-ユニフォームの後ろに露出するというところのこだわりはあったのでしょうか。
ユニフォームの背中にスポンサーを露出するのはユヴェントスF.C.史上初だからです。チームの歴史に残るので。ずっと続けられれば良いですけど、この世界は水ものなので10年後も同じ場所に置けるかというとわからない。ただそうありたいなと思いますし、最初に置けるのは光栄だと思っています。
-そのユニフォームを色々な人が着て、外を歩いているということでで大きな宣伝にもなりますよね。仮にですが、サガン鳥栖の胸スポンサーが空いていて額も同じならそこを希望するのでしょうか?
いや、そこについてはDHCさんにやってもらいたいのでそうは思いません。今まで支えてくれていた会社さんですし、それをないがしろにする気もないので。できる限りDHCさんにやってもらいたいので僕らは背中で良いですよ、という感じですね。
-スポーツの新しいチームのスポンサーになるということでも良いですし、今後の展開として渡邊さんの中でもし考えたり決まっていることがあれば教えてください。クラブを持ちたいという思いもあるのでは?
まずは2クラブのスポンサードを地に足をつけてやっていこうと考えています。サガン鳥栖とユヴェントスF.C.の交流の架け橋になっていければよいとも思っていますし、関係を深めることで弊社としてのメリットが増えていくものと思っています。クラブ運営については、余生でやるかもしれないですね。でも、あくまで本分はCygamesの社長ですから。
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