【元ガンバ実業家】嵜本晋輔 SHINSUKE SAKIMOTO Vol.2「サッカーから学んだ経営術」
かつてJリーガーのガンバ大阪を1年で戦力外になった男は、ビジネスの世界で「上場」という結果を出した。
リユース事業を幅広く手がけるバリュエンスホールディングス株式会社の代表取締役社長・嵜本晋輔。
元サッカー選手の実業家は、コロナ禍の中で苦しんでいるスポーツ界に恩返しをしようと新たな事業をスタートしている。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。
スポーツとビジネスは共通点ばかり
——嵜本さんはアスリートと経営者のスキルの親和性という点ではどうお考えですか?
「アスリートが現役時代に磨かれるものはなんですか?」という質問がよくあるのですが、そのときに答えているのが“キョウソウリョク”ですと。2つの意味があって、競い争い合う“競争力”と、共に創り上げる“共創力”。どちらも磨かれるのですが、私はスポーツを通じて磨かれる最たるものは“共創力”だと思うんです。本当に多種多様な人材が一つのチームに集まって、まずは自分を活かすことを考えるんですけど、自分を活かすためには周りを活かすことを考えなければいけません。どうやって“個”と“組織”をどう噛み合わせるか。やっぱり自分目線だけではダメだと思うんです。チーム目線があって、自分がこのチームでどういう役割を果たすべきなのかといのは、日々の練習や試合を通じて学べることです。
——チーム競技ではなく個人競技でも同じような感覚を学べると思いますか?
個人競技だとしても選手とコーチスタッフがいて、決して1人で戦っているわけではなくてチームとして戦っているわけですよね。サッカーでいうとスタメンの選手やサブ選手、ベンチ外の選手、監督・コーチ、応援団・マネージャーとか、そういう関係者が一つのチームのために協力し合っています。そういう感覚はスポーツを通じて養えたと感じるものです。みんながいて自分がいるという感覚、そこでのチームワーク、チームプレーが結果的に勝利につながるという感覚の“共創力”をすごく養えるので、そこはビジネスと全く同じだと思います。
——その共創力を嵜本さんはどのように経営に活かしているんでしょう?
例えばトップダウン型で経営をして、自分がすべてをコントロールしようとしすぎると結果的に経営がうまくいかなくなるというケースはよくあるんです。でも、私の場合はボトムアップ型経営なんですよね。全体の方向付けだけはするんですけど、その先は自分よりも優秀な人材に良い意味で頼る。人は頼られた方が力を発揮しますし、頼られるからこそ期待に応えようと思える。そうしたマネジメントができるのは、やっぱりサッカーでの経験があったからだと思っています。
スポーツ×ベンチャーの親和性
——先日、デュアルキャリアと株式会社マネーフォワード、株式会社ハーフタイムの3社で「Jクラブスポンサーマッチングプロジェクト」というものを発足されました。
きっかけはマネーフォワードの子会社であるマネーフォワードシンカの創業メンバーの金坂直哉さんとの何気ない会話です。コロナがきっかけで投資家と事業家・起業家の接点が閉ざされてしまったと。というのも、起業家は投資家に対して、出資をするために事業説明をするのですが、もともとは対面でやってきたんです。それがコロナでできなくなったときに、金坂さんが投資家と起業家をオンラインでマッチングさせる場をつくったんです。それまではオンラインで行うことはあり得なかったのがですが、投資家としても、そのほうがずっと楽だし、コスパも高いということで一気に広がっていったんです。
——なるほど。
金坂さんから、その話を聞いた時に私が何気なく「サッカー界でもそういうことができたらいいのに」とポロっと言ったら「全然できますよ」と。私がスポンサーをやっている理由というのは、もともとガンバ大阪でプレーしていたという接点があったからです。同世代の経営者でスポーツのスポンサーをやっている人はほとんどいません。なぜかと考えたときに、そもそも接点がないからじゃないかと。クラブのほうも大企業ばかりに目がいって、これから成長するベンチャー企業と接点を持つことを考えてこなかった。
——それはもったいない話ですね。
私はスポーツを盛り上げるためには、自分の友人でもある経営者たちにもっとスポーツにかかわってほしいんです。ビジネスの世界で影響力のある人たちが、スポーツをやっています、見ていますとなると、そこから興味を持ってくれる人は増えます。最初の接点をつくることができれば、スポーツに目を向けてもらえるんじゃないかと。そういう仕組みを「×Jリーグ」という形で転用したというのがこの「Jクラブスポンサーマッチングプロジェクト」です。
——実際にスタートしてからの反応はいかがですか?
Jリーグからは約30クラブが参画しています。マッチング数で言うと約130件ほどですが、実際にスポンサーとしてついたのは、まだ3件ほど。スポンサーとしてお金を出すというより、スポーツクラブと協業できないかという視点の企業が多かったのが事実です。マッチングした企業の一つが「セルソース」という再生医療業界のトップカンパニーなんですが、裙本理人社長は同い年で個人的にもすごく仲の良い方です。上場して1年ほどですが、先日J2のFC琉球とメディカルパートナー契約を結んで共同記者会見をやったんです。スポンサー料を支払うだけでなく、「セルソース」が取り組んでいる再生医療をスポーツの世界にも活かしていくという取り組みをする契約になっています。
——スポーツ界と親和性の高い素晴らしいマッチングですね。
500万とか1000万というお金を出すだけがスポンサーではなくて、こういうパートナーシップによって企業も成長して、それできちんとスポンサーしていくという仕組みが作れたら素敵なことだなと思うんです。
——素晴らしい仕組みだと思いますね。今後の展開としてはどうお考えですか?
まだ取り組み自体をしている人がそれほど多くないので、これを継続できれば今回のようなマッチングというのはどんどん増えていくと思います。マッチングの数が増えれば、必然的に契約の数も増えていくはずです。そこをまずは実現していきたいなと思っています。
Vol.1「アスリートは“超即戦力”になれる」
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https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5ff580049baf3168a21100e2
Vol.3「日本一から世界一を目指す」
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■プロフィール
嵜本晋輔(さきもと・しんすけ)
1982年4月14日生まれ、大阪府出身。バリュエンスホールディングス株式会社代表取締役社長。関西大学第一高校卒業後、2001年にJリーグ・ガンバ大阪に入団する。同時に関西大学に進学。03年、ガンバ大阪を退団後、JFL・佐川急便大阪SCで1シーズンプレーしたのち現役引退。07年に実兄2人と共にブランド品に特化したリユース事業「MKSコーポレーション」を立ち上げる。同年にブランド買取専門店「なんぼや」をオープン。2人の実兄が洋菓子店事業に進出したため、2011年株式会社SOU(現・バリュエンスホールディングス株式会社)を設立。2018年に東証マザーズ新規上場。
バリュエンスホールディングス株式会社
https://www.valuence.inc/
■クレジット
取材・構成:上野直彦、篠幸彦
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