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佐藤、栗林、早川…即戦力ルーキーが同年代の“高卒ドラ1”を追い抜くのはなぜなのか<2021百選>

高校時代はそれほど注目されていたわけではない佐藤だが、大学で急成長。プロ1年目も開幕から活躍を続ける。写真:山手琢也
2021年のスポーツ界における印象的なシーンを『THE DIGEST』のヒット記事で振り返る当企画。今回は、今シーズン序盤から活躍した即戦力ルーキーを取り上げる。数年間大学や社会人でプレーしたことで、高卒の選手を逆転できる要因はどこにあるのか?

記事初掲載:2021年5月8日

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セ・リーグでは佐藤輝明(阪神)、栗林良吏(広島)、牧秀悟(DeNA)、パ・リーグでは早川隆久(楽天)、伊藤大海(日本ハム)、鈴木昭汰(ロッテ)など、今年のプロ野球は特にルーキーの活躍が目立つ。一方、彼らと同学年で高校から直接プロ入りした選手はというと、思うような活躍ができず苦しんでいるケースも少なくない。

例えば早川、鈴木と同学年で高校からドラフト1位でプロ入りした選手は今井達也(西武)、寺島成輝(ヤクルト)、藤平尚真(楽天)、堀瑞輝(日本ハム)の4人がいるが、寺島と藤平はいまだに一軍の戦力とはなっていない。また、栗林と同学年では安楽智大(楽天)、高橋光成(西武)、松本裕樹(ソフトバンク)と3人の高卒ドラフト1位投手がいるが、ここでもチームの主力と呼べるまでになっているのは高橋だけである。

5月5日終了時点の両リーグの打率上位10人、防御率上位10人の合計40人の出身の内訳を調べてみたところ、以下のような結果となった。

【打率10傑】
セ:高校卒3人、大学卒4人、社会人出身2人、外国人1人
パ:高校卒4人、大学卒3人、社会人出身2人、外国人1人

【防御率10傑】
セ:高校卒3人、大学卒6人、社会人出身0人、外国人1人
パ:高校卒5人、大学卒3人、社会人出身2人、外国人0人
まとめると高校卒15人、大学卒16人、社会人出身6人となる。高校卒よりも大学卒か社会人出身の方が多く主力になっていると言えるだろう。大学、社会人を経由してプロ入りする選手は高校時代にはプロからそれほど高い評価を得ていなかったケースが大半である。そんな選手が数年間大学や社会人でプレーしたことで、高校卒の選手を逆転できる要因は果たしてどんなところにあるのだろうか。

一つ考えられるのはレベルの上がったカテゴリーに進んでプレーすることで、良い言い方をすると選抜、厳しい言い方をすると淘汰が進むということだろう。高校野球は強豪と言われるチームとそうではないチームの実力差が大きく、公式戦もトーナメントが大半のため本当の実力を判断するための材料は少なくなる。甲子園大会での活躍が重視される傾向もどうしても強くなるのだ。

一方で大学は4年間と長く、均衡したレベルの相手とリーグ戦を行なうため、そこで残した成績は実力を正しく反映していることが多い。社会人となればプロと変わらない実力の選手も存在しており、その中で結果を残すことは容易ではない。全員が全員ではないものの、高校生は将来性、大学生と社会人は現在の実力がより強くドラフトでの評価に反映されるというのはこのような背景があるからである。
もう一つ大きいのはやはり年齢的な要因ではないだろうか。18歳の段階で同年代の中で結果を残していても、その後に思ったような成長が見られずに停滞する選手も確かに存在している。体の成長が止まり切っていないにもかかわらず無理をして故障につながり、最も速いボールを投げられたのが高校時代という投手も少なくない。20歳を過ぎてある程度体がしっかり出来上がってから結果を残してきた大学生や社会人では、そのようなリスクも少ないと言えるだろう。

しかし、有力な大学生、社会人をひたすら上位で指名すれば成功するのかというと、それほど単純なものではない。高校卒の選手が成功した時のスケールの大きさは、大学卒、社会人出身の選手をはるかに上回っていることが多いのだ。今年メジャー契約を結んでいる日本人選手は8人いるがそのうち5人が高校卒であり、サンフランシスコ・ジャイアンツとスプリット契約を結んでいる山口俊も含めると9人中6人が高校卒となる。そしてその6人全員がドラフト1位でプロ入りした選手たちなのだ。高校卒のドラフト1位が持っているポテンシャルの大きさをよく表していると言えるだろう。

また、高校卒は失敗が多いイメージがあるが、統一ドラフトとなった2008年以降、ドラフト上位(1位、2位)でプロ入りしながら投手では1勝、野手では1安打も記録できずに球界を去った選手を調べてみたところ、以下のような顔ぶれとなっている。
高校卒:10人
中崎雄太(08年西武1位)、宮本武文(08年巨人2位)、甲斐拓哉(08年オリックス1位)、鬼屋敷正人(09年巨人2位)、一二三慎太(10年阪神2位)、吉本祥二(11年ソフトバンク2位)、川上竜平(11年ヤクルト1位)、松本竜也(11年巨人1位)、北方悠誠(11年横浜1位)、相内誠(12年西武2位)

大学卒:11人
蕭一傑(08年阪神1位)、伊原正樹(08年オリックス2位)、二神一人(09年阪神1位)、古川秀一(09年オリックス1位)、大累進(12年巨人2位)、伊藤祐介(12年ソフトバンク2位)、川満寛弥(12年ロッテ2位)、佐藤峻一(12年オリックス2位)、浜田智博(14年中日2位)、田中英祐(14年ロッテ2位)、水野滉也(16年DeNA2位)、

社会人出身:3人
柿田裕太(13年DeNA1位)、野村亮介(14年中日1位)、竹下真吾(14年ヤクルト1位)

極端な失敗例のデータではあるが、これを見ると大学卒、社会人出身の上位指名だからと言って、必ずしも安心というわけではないことがよく分かる。
高校卒であっても、大学卒、社会人出身であっても、選手の特性や実力をフラットに判断していくことがやはり重要なのではないだろうか。かつてのオリックスや現在のDeNAを見ると大学生、社会人の指名が偏っており、そのことによってチーム全体のスケールが小さくなってしまった印象は否めない。
ここ数年のオリックスは逆にスケールの大きい高校生選手を上位で多く獲得しているが、このような指名を続けすぎることも危険である。上位、下位も含めて補強ポイントに合わせてバランス良く指名する。シンプルではあるが、それを徹底して続けることが強いチームを作るために重要なことと言えるだろう。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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