雲の上にいた斉藤貴史が「尊敬」から「目標」に、そして切磋琢磨する「仲間」に~田沼諒太【プロが憧れたプロ|第22回】<SMASH>
現在、プロとして活躍している選手も、現役を引退してコーチをしている人も、小さい頃には憧れのプロがいたはずだ。【プロが憧れたプロ】シリーズの第22回は、JTAランキング28位の田沼諒太選手だ。
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現在26歳の田沼諒太は、晩成型の選手と言っていいだろう。ジュニア時代は全国タイトルに縁がなく、グランドスラムジュニアにも出場していない。それでも高校卒業後、果敢にプロの道に挑み、国内外の大会を回って力を付け、ITFツアーで2度優勝。全日本選手権では18年、19年と2年続けてベスト8入りするまでになった。
そんな田沼がジュニアの頃に憧れていたのは、1つ年上の斉藤貴史だった。憧れというより「尊敬する存在」といった方が近いかもしれないと田沼は語る。
「ジュニア時代、僕は全国で勝っていなかったので、同じ世代のトップにいた斉藤さんを強いなーと思って見ていました」
その斉藤と同じ相生学院高校に田沼は進学する。「同じ高校で一緒に練習するようになったら、斉藤さんの練習の質はぜんぜん違うことを思い知りました。集中力がすごかったですね」。それは田沼にとって衝撃であると同時に飛躍のチャンスでもあった。
中学時代は「雲の上の存在」だった斉藤とボールを打ち合い、揉まれていくうち、田沼のテニスのレベルも自ずと上がる。いつしか斉藤は田沼にとって「尊敬」から「目標」になっていった。
そして高校卒業後、プロ転向した斉藤を追うように、田沼も卒業するとプロになる。同じプロという立場になってからも、田沼は斉藤から影響を受け続けた。
「テニス以外でもよく一緒に行動させてもらいました。私生活を見ていても斉藤さんは『人間力がある』と感じます。自分の発言に対する責任感とか、1人の人間として斉藤さんには学ぶべきところが多いですね」
そうやってプロとして修練を重ねて8年。田沼はいまや斉藤と肩を並べるプロであり、ランキングでは田沼の方が斉藤よりも上位に位置するようになった。プロになってから2人の対戦成績は勝ったり負けたりだそうだ。
尊敬から目標へ——そして今は「切磋琢磨し合える仲間」だと田沼は斉藤のことを見ている。そんな欠かせない存在である斉藤が、来たる日本リーグ(決勝トーナメントは2月開催)を最後に現役引退することを表明した。田沼が斉藤から何かを吸収できるのもあとわずかだ。
奇しくも2人は現在、同じ橋本総業ホールディングスに所属している。斉藤の最後の戦いざまを一番近くで見ることになる田沼は、何を感じることだろう。
取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部)
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