NBAは“聴く”時代へ。ラッパーになる選手たちの系譜|Dame、Lonzo、Shaq【-音楽から見るNBA vol.4-】

SNSが当たり前になった2020年代。選手と世界中のファンは、もはやメディアを介さず直接つながる存在になった。ひとつの投稿が何億回も再生される現在、コート上でのプレイや言動はもちろん、選曲、服装、プレイリストの共有までもが、世界のカルチャー潮流を動かすコンテンツへと変わっている。

音楽は、常に音が鳴り続けるバスケットボールコートにおいて、切り離すことのできない存在となった。かつて無音の中で試合が行われていたとは思えないほどに。DJが会場を温める時代を経て、いまや選手自身が“音を鳴らす側”へと立場を変えている。

本稿では、NBA選手がラッパーとして実際に作品を発表し、カルチャーの内部で機能し始めた現代NBAを読み解いていく。バスケとヒップホップは隣り合うものではなく、すでに交差している。その交差点で起きている化学反応を追っていく。

前回記事:
ヒップホップの“その後”。拡張するNBAカルチャーの現在地【-音楽から見るNBA vol.3-】

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2020年代の音楽とNBAの変化

21世紀も2度目の10年を迎え、SNSやデジタル文化の普及によってNBAは単なるスポーツリーグではなく、カルチャー発信の場そのものになっている。かつては会場で音楽が流れること自体が革命だった時代から、選手自身が音楽を発信し、世界中のファンと直接つながることが当たり前になった。

この変化は単純に“BGM”として音が鳴るだけの状況から一歩進み、選手が音楽を制作したり、自身のブランドやアイデンティティとして音楽を扱ったりする時代へと移行しているのだ。SNS上で選手が自分のプレイリストを公開したり、楽曲をリリースしたりする行為は、かつての“会場に流れる音楽”とは質的に異なる現象であり、ファンとの間の新たな文化的接点となっている。

また、こうした動きはNBAリーグやチームとしても容認されるどころか、積極的に受け入れられている。ワールドワイドで視聴されるSNSコンテンツやラップ活動が、「スポーツ × 音楽」という文化的交差点の担い手として機能しているのである。選手が自身の生活や表現の一部として音楽に取り組むことで、コート上の存在感だけではなく、コート外での影響力も生まれているのだ。

シャキール・オニールというパイオニア

シャキール・オニール(以下:シャック)はNBA史上最も偉大なビッグマンの一人であると同時に、現役引退後のキャリアで音楽シーンにも本格的に関わった先駆者でもある。

引退後、シャックは自身をDJ Diesel(ディーゼル)として活動し、世界中の音楽フェスやクラブでDJセットを披露してきた。彼は電子音楽やヒップホップを愛し、単なるゲスト出演に留まらず、自身の音楽フェスやライブイベントを主催・出演する立場として存在感を高めている。たとえば、毎年NFLの頂上決戦であるスーパーボウル前夜に開催される音楽・エンタメイベント「Shaq’s Fun House」(※1)では、Tiësto(ティエスト:オランダの有名な音楽プロデューサーでありアーティスト兼DJ)、T-Pain(T-ペイン:シンガーソングライター)、Disco Lines(ディスコ・ラインズ:ミュージシャン)など、世界の著名アーティストと共演しつつ、自らもDJとしてパフォーマンスを行っている。2026年の開催でも彼のDJセットが中心に据えられる予定だ。

さらにシャックは単発イベントだけではなく、「Shaq’s Bass All Stars Festival」 といった自身の名前を冠した音楽祭も企画(※2)している。これは彼の音楽への情熱と、バスケ引退後もカルチャーの最前線で表現活動を続けたいという意思の表れである。オニールはフェス制作にも積極的に関与し、自身が出演するだけでなく、ラインナップや演出にも関わっていると報じられている。

オニールがこのように音楽文化の中で活躍する姿は、スポーツ引退後のセカンドキャリアが単なる解説者やタレントに留まらない可能性を示した例とも言える。
スポーツのスターが自ら音楽文化に飛び込み、発信者として機能するという枠組みを成立させた点で、彼はこのシリーズの「NBA選手と音楽」の歴史におけるパイオニア的存在なのだ。

リラードが変えた音楽とコートの距離

ポートランド・トレイルブレイザーズに所属する現役NBA選手でありながら、本格的なラッパーとして音楽制作を続ける存在になったのが、デイミアン・リラード。ラッパーとしてのハンドルネームは「Dame D.O.L.L.A.」である。

リラードは2016年に自身のラップ名義でデビューアルバム『The Letter O』をリリースし、NBAプレイヤーとして初めてBillboardチャートに名を刻んだ。このアルバムは、全米アルバムチャート「Billboard 200」で119位、さらにR&B/ヒップホップ・アルバムチャートで7位という好成績を残した。これは競技者としての成功だけでなく、音楽市場でも一定の評価を得たことを示している。

その後もリラードはラップ活動を継続し、2017年には『Confirmed』をリリースしてBillboardのTop Album Salesリストに72位で登場、2019年の『Big D.O.L.L.A.』もインディペンデント・アルバムチャートで12位に入るなど、複数作がチャート入りする実績を持つ。彼の活動は単なる“選手の趣味”ではない。スタジオ制作にはLil Wayne(リル・ウェイン:ラッパー)やSnoop Dogg(スヌープ・ドッグ:ヒップホップMC)、Rick Ross(リック・ロス:ラッパー)といった著名アーティストをフィーチャーした作品もあり、ヒップホップ・コミュニティからも一定の注目を集めている。2023年にも最新作『Don D.O.L.L.A.』をリリースしたことが、世界中のあらゆるカルチャーを発信するメディア「HYPEBEAST」にて、「経験」「人生」「責任」といったテーマを音楽で表現していると取り上げられた(※3)。

なにより興味深いのは、リラードが音楽とスポーツの両方でプロとしての活動を並行させていることだ。NBAのスター選手が引退後に音楽活動を始める例はあるが、現役の最前線で活躍しながら自らのアルバムを複数リリースし、公式チャートにランクインさせ続けている例は極めて稀である。このように、リラードは「競技者としての顔」と「アーティストとしての顔」を同時に成立させる存在として、音楽とNBAの距離を限りなく近づけたと言える。

ロンゾ・ボールとZ世代のヒップホップ

現役NBA選手が単に音楽を聴くだけでなく、自らトラックを発表する――
これは近年のNBAカルチャーの最前線を象徴する動きだ。その中で最も早い段階からラップ活動を行ってきた選手のひとりが、ロンゾ・ボールである。

ロンゾはNBA入り前の2017年、“Zo”というラップ名義でシングル『Melo Ball 1』をリリースし話題を呼んだ。これは彼の弟であるラメロ・ボール(ニューオリンズ・ホーネッツ)や家族が展開するブランド「Big Baller Brand」を背景にした楽曲で、Trap系のビートに乗せて自分たちのライフスタイルやブランドを表現している。こうした動きは、従来の“選手の余興”レベルを超え、才能あるZ世代のプレイヤーが音楽シーンに自ら足を踏み入れる例として注目された。

ロンゾはこの曲に続き、『Zo2』といった 複数のトラックも発表しており、自身のスニーカー名をタイトルにしたり、ラップで自分のライフスタイルや自己表現を語るなど、ラップ活動を一過性のものにしない姿勢を見せている。さらに、彼は家族で立ち上げたレーベル「Big Baller Music Group」を通じて音楽リリースを行うなど、NBA選手としての活動を舞台にしつつ、音楽と自己表現を結びつける試みを実践している。

このような動きは、単に音楽を“かける”時代から、選手自身がトラックを世に送り出す時代への変化を象徴している。Z世代を中心としたNBAプレイヤーたちは、SNSやストリーミングサービスを通じて音楽をリリースし、コートでのプレイと並行して自分のカルチャーを表現する存在としての立場を築き始めているのだ。ちなみに、ロンゾは残念ながら、先日チームを解雇されて現在フリーエージェントの身である。現在28歳でありまだまだプレーできるポテンシャルがあるため、音楽はもちろんだが彼の今後の動向にも注目したい。

音楽とNBAの未来

NBAの舞台はもはや単なるスポーツのための場所ではなく、スポーツと音楽が同時に生きる「グローバルなカルチャー」そのものへと変容している。 それは、選手個人が音楽を創るようになっただけでなく、リーグ主催のイベント自体が音楽を核とした演出に舵を切っていることからも明らかだ。

たとえば、NBAオールスター・ウィークエンドでは、試合以外のステージで著名アーティストが音楽パフォーマンスを行うことが恒例になっている。過去のオールスターでは、ナイジェリア出身のグラミー受賞アーティストBurna Boy(バーナ・ボーイ:シンガーソングライター)、Tems(テムズ:シンガー)、Rema(レマ:ラッパー)がハーフタイムショーの中心として登場し、アフロビーツやヒップホップといった多様な音楽がNBAのビッグステージを飾った。これらの公演は世界中に生中継され、スポーツイベントが大規模な音楽フェスとして機能する瞬間でもあった。

さらに2026年には、K-POPグループCORTIS(コルティス)がNBAオールスター・ウィークエンドでハーフタイムショーとしてパフォーマンスを披露し、NBAが単に米国文化だけでなく 世界のポップミュージックを一緒に提示する場としての役割も担っていることを象徴した。これはNBAがグローバル戦略の一環として音楽を積極的に取り入れ、世界中のファンが共鳴するカルチャーをつくり出していることを物語っている。

このように、NBAと音楽の関係は単なる競技の付加価値から進化し、観る者・聴く者双方が一体となって体験するエンターテインメントへと転換している。スポーツイベントと音楽イベントとの境界線が曖昧になりつつある今、未来のNBAでは、音楽がさらに積極的にコンテンツ化され、選手とファンの関係性を新しい層へと広げる役割を果たすことになるだろう。
シャキール・オニールが切り拓き、デイミアン・リラードが現役のまま拡張し、ロンゾ・ボールらZ世代が自然に横断するようになった現在、音楽とNBAの関係はもはや“コラボレーション”という言葉では説明しきれない段階に入ったと、言い切っていいはずだ。

【参考】
(※1)https://www.sfchronicle.com/entertainment/article/shaq-fun-house-super-bowl-21230605.php
(※2)https://www.forbes.com/sites/lisakocay/2023/09/05/shaquille-oneal-known-by-his-bass-music-alias-diesel-is-slated-to-bring-the-heat-with-shaqs-bass-all-stars-festival/
(※3)https://hypebeast.com/2023/8/damian-lillard-don-d-o-l-l-a-new-album-release-info
(※4)https://www.xxlmag.com/lonzo-ball-drops-rap-single-melo-ball-1/