• HOME
  • 新着記事
  • 水泳
  • AIRFITSWIM(エアフィットスイム)開発秘話 “水中で心拍とれるわけない”馬鹿にされた技術が実現した理由

AIRFITSWIM(エアフィットスイム)開発秘話 “水中で心拍とれるわけない”馬鹿にされた技術が実現した理由

写真:選手、コーチとディスカッションの様子/提供:AIRFIT

いま、水泳界のトップ層で話題の動作解析デバイス「AIRFITSWIM(エアフィットスイム)」。

ロケットの姿勢制御に使われるIMUセンサーを用い、映像と波形を同期させることで、選手とコーチが課題を共有しやすくする。
そのスポーツテックの開発のきっかけは何なのか。

開発したAIRFIT(株式会社プロキダイ)の柴田和明さんに聞くと、意外なところからの技術が応用されていた。

▶水泳の動きを“見える化” AIRFITSWIM(エアフィットスイム)は何が新しいのか【入門編】

レースカーのエンジニアが開発

── この「AIRFITSWIM」開発のきっかけは何だったのでしょう?

柴田:私も、同じく開発者の平尾も、もともとはレーシングカーのエンジンやダンバーを開発するエンジニアでした。

ルールの中でどう速くするパーツを作るかという仕事をしてきて、いまは独立して、世の中に無いものを作り、お客さんを喜ばせたいと思って開発をしています。

── 開発者お二人ともレーシングカーのエンジニアだったんですね。それがどう活かされているのでしょう。

柴田:陸上や自転車スポーツなどで使用される「AIRFIT」には心拍数計測、水泳の「AIRFITSWIM」には、さらに動作解析の技術を使っています。

心拍数については、私自身がずっと、スポーツで心電位を測る電極を開発していました。

自転車レースやマラソンでは、ベルトを身体に巻いて心拍を計測していたんですが、なかなか安定しないのと、選手にとってもベルトを巻くことへのストレスがありました。マラソンだと、走る前後で体重が5kgくらい減ってベルトが外れたりするので。

過酷な環境でも、水中下でも、安定した心電位が取れて、選手にもストレスが少ないものが作れないかと思って自分で作ってみました。陸上も自転車も、周囲の選手に試してもらったら“これ結構いいよ”と国内外に広がっていった感じです。

── それが、動作解析も含めた水泳への応用になったのはなぜですか。

柴田:加速、減速まで含めた身体の動きもわかれば、より社会にインパクトあるよねと(笑)。僕らは世の中に無いものを作って、お客さんに喜んでもらいたいので。

“水中で心拍とれるわけない”馬鹿にされた特許

── 水中で、この貼るセンサーは剥がれないんですか。

柴田:もちろんそれは水泳での課題でしたが、自転車レースでも8時間くらいの競技時間で、真夏は水被りながら雨でも雪でも行うんです。

そこで胸に貼り付けて剥がれない実績があったので、水の中で2時間練習しても剥がれない自信がありました。その部分は特許も取らせてもらっています。

── なるほど。それも強みだったんですね。

柴田:開発途中で、海外の大手ウェアラブルデバイスメーカーから“水中で心拍とれるわけない”と馬鹿にされたこともありましたが、“ということは、この貼る技術は他ができないんだろうな”と思って自信になりました(笑)。

写真:AIRFITSWIM(エアフィットスイム)を貼る場所/提供:AIRFIT

── そのセンサーで行う、動作解析の開発についてはいかがでしたか。車から人はだいぶ違うような気がするんですが。

柴田:いや、レース関係の車は、ほぼすべて繊細な動作解析をするんですよ。振動や、コーナーでブレーキ踏んだときの荷重が車体の前に行く動きを見たり。

その感覚があったので、僕らとしてはレーシングカーと水泳の距離感は全然なくて、心拍数から疲れてきたときの身体の動きのデータが取れれば、この選手の課題や動作上の理想を提示できると思いました。

── 面白いですね。何年くらい開発にかかりましたか。

柴田:水中下で心拍取れたときから考えると、足掛け5年くらいですね。センサー波形と動画を同期させる技術も時間がかかりました。

── 製品特性を考えると、開発にはトップレベルの選手やコーチの協力も必要だと思いますが、いかがですか。

柴田:知り合いの方に、“こんなセンサー作ったんですけど”と相談した方が近畿大学水泳部の山本晴基ヘッドコーチで、じゃあ一回僕で計測してみますと、来ていただいて計測して。

次に、ちょっと選手も取ってみましょうか、私も計測してほしい、と、どんどん増えていって、じゃあ定期的に計測するようにしましょうと。

── いつも周りの方に恵まれますね(笑)

柴田:そうなんです、ありがたいです(笑)。

写真:選手、コーチとディスカッションの様子/提供:AIRFIT

── どんなフィードバックがありましたか。

柴田:加速と減速について、選手の感覚と実際に起こっている現象の違いを視覚的に見られて課題が明確になったという声が多いですね。

あと、同じ選手を定期的に計測していくと、泳げているときと泳げていないときのリズムの差がはっきり出てくるので、“あのときの映像見せてください”という要望ももらいます。

── 確かに、過去のタイムが良かったときの自分の感覚を、視覚的に把握できるのも意味がありますね。

柴田:はい。泳ぎながら自分の動きは目で見れないので、その振り返りができることも定期的に計測する意味だなと思います。

▶第3回 感覚、センスを可視化する AIRFITSWIM(エアフィットスイム)の現場活用法 に続く

AIRFITSWIMのXアカウントはこちら

取材・文:槌谷昭人

関連記事