【インタビュー】ヴィッセル神戸・谷本俊介氏が選手と指導者に伝えたいこと
小学生年代の日本一を決める大会で、谷本俊介氏に話を聞いた。
立川アスレティックFCの前身「府中」と「立川・府中」時代のそれぞれで監督やテクニカル・ダイレクターを務めた谷本氏は現在、ヴィッセル神戸で「ヘッド・オブ・最適化」と呼ばれる役職に就いている。
クラブフィロソフィーやプレーモデルを実践していくために、アカデミーの指導者たちとコミュニケーションを図りながら、現場の状況に合わせて “最適化”していく。そのなかでもU-12については、バーモントカップに帯同して選手育成に深く関わっている。
準決勝では、元立川・府中の選手である上福元俊哉氏が率いる千葉県・ジンガFCと対戦。育成年代の戦いで“師弟解決”も実現した。
元Fリーグ監督であり、サッカーにもフットサルにも造詣が深い谷本氏は、育成年代の大会でなにを感じたのか──。
取材・構成=本田好伸
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サッカーを軸にコンセプトを落とし込んだ
──谷本さんがヴィッセル神戸で働き始めて3年が経ちました。今回、バーモントカップに出場したチームにはどのように関わっているのでしょうか?
僕は、普段はアカデミー内で特定のカテゴリーやチームに専属で関わったり、チームや選手を直接指導したりすることはなく、基本的にアカデミー内の様々なカテゴリーのコーチたちをサポートする役割で仕事をしています。ただ、フットサルに関しては専門的な知識や経験もあるので、U-12を少し手厚くサポートしているという形ですね。
──2年連続で全国の舞台に来ましたが、子どもたちにはどんなことを伝えたのでしょう?
まず選手たちには、普段サッカーを主戦場にしているヴィッセルが「なぜフットサルを取り組むのか」という意味について伝えました。
フットサルは少人数でボールにたくさん触れることができ、プレーに関わる機会が多いことで単純に個人を伸ばすことにつながります。また、狭いスペースでプレーすることで、個人の技術や個人戦術の駆け引きを伸ばしたいということを、選手たちには伝えました。
ただ、個人を伸ばすためにも、一人ひとりが闇雲に、バラバラに戦うのではなく、あくまでもチームとしての全体像・プレーモデルがあるなかで自分の特徴にフォーカスすることを伝えています。
4人で連係してプレスにいったり、あるいはGKを含めて5人の呼吸を合わせて相手のプレスを回避したりするところも、選手たちに楽しんでもらいたいなと思っています。
──谷本さんがチームに落とし込んだ部分もありますか?
ベースは普段、坪内(秀介)監督やジュニアのコーチたちがサッカーで指導している技術や戦術をベースに、補助的に私がフットサル特有のコンセプトを落とし込みました。あくまでも日常(サッカー)で取り組んでいることをベースにしながら、狭いスペースの中で、相手を攻略するためにはこういうことが大事だよといったことをプラスアルファで伝えました。
──実際にピッチを見ると、普段から個人技術や個人戦術、2人組、3人組の連係をかなり大事にしながらやってきている印象を受けました。
ヴィッセルのアカデミーでは、個人戦術やチーム戦術を含め、自分たちのプレーモデルが基準としてあって、それを体現するための個人やグループのコンセプトがしっかりと整理されています。例えば、全体としては、配置の優位性や数的な優位性を活用することを大切にしていて、個人の技術や戦術では相手を引きつけたり、マークを外したりするなど、他にもいろいろあるのですが、かなり細かい分類や整理をしています。
ジュニア年代では特に、個人や少人数での問題を解決していくための技術・戦術要素に注力しています。またこれらの要素をカリキュラムとして、どの年代でなにに取り組むかについてもまとめています。短期的な活動ではあるものの、フットサルという環境を通じて、カリキュラムの中のどの要素を向上させやすいかを現場のコーチたちと一緒に考えて、取り組んでいますね。
──準決勝は、ある意味で象徴的な試合だったように感じました。神戸が貫いてきたスタイルに対して、相手は強度の高いプレスをかけてきました。そういうチームをどのように攻略できるかは、この年代の彼らにとっても大きなテーマだろうな、と。
やはり相手あってのスポーツですから、試合の中で相手がうまく適応してきて、それをこちらがさらに上回ろうという戦術的な攻防のある戦いでした。ただ時間が少し足りずに、こちらがうまく適応できなかった部分はあったと思います。お互いに長所、短所はあるなかで、相手のストロングポイントが勝りました。こちらはそれを上回るだけの質を出せなかったということですね。
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バーモントカップで指導者が考えるべきこと
──現在はサッカーの各カテゴリーに関わりながらも、バーモントカップに出てくるチームにも3年間携わってきて、大会全体で感じていることはありますか?
バーモントカップはフットサルの大会ではありますが、フットサル専門のチームの参加は少なく、参加しているチームの多くが、ヴィッセルと同じように、基本的にはサッカーを主戦場としているチームだと思います。そうした多くの少年サッカーチームが普段の活動とは異なるフットサルに積極的にチャレンジして、楽しんでくれていることをうれしく思います。
──普段とは異なる環境だからこそ得られるものがありますよね。
まさに、選手や指導者にとって、多くの刺激や学びを得られている印象があります。それに、全国大会では多くの保護者が応援に来てくださり、会場内は一種のお祭りのような雰囲気で盛り上がっているのも印象的でした。
──技術的に感じることもありますか?
テクニカルな部分の印象は3つあります。
「ゴール前の攻防が多く、得点が多く生まれている」「直線的でダイレクトな展開が多い」「ボールがコートの外に出る回数」この3つです。
──なるほど、一つずつ教えてください。
「ゴール前の攻防が多く、得点が多く生まれている」については、コートが狭く、ゴールまでの距離が近いことから、ゴールを目指そうとする積極性が増している場面を多く見ました。ゴール前の攻防がより増えることで、FWやDF、GKの選手にとってはとても鍛えられると思います。
それに点の取り合いやシーソーゲームの展開があることで、メンタル面に多くの刺激を与えてくれるのではないかと感じました。試合によっては1分間で2点、3点が動くこともありますし、2点リードしていたチームが数分後には逆転されることもあり、「最後まで油断しない」「最後まで諦めない」ことの重要性がそこでは学べると思います。
実際に決勝戦のヴィオレータFCとジンガFCとの試合は、8-7という点の取り合いで、4度の逆転現象が生まれましたし、ヴィッセルは予選で3点ビハインドから逆転する試合もありました。それは選手たちにとってとても大きな経験、自信につながったと思います。
──たしかに。続いてはいかがでしょう。
「直線的でダイレクトな展開が多い」については、そのこと自体が良いことか悪いことかは別として、事実としては縦パス、ロングボール、縦へのドリブル、シュート、クリアなど前方へのプレーが多く見られました。
攻撃面において「ゴールを奪う」「前進する」という意図は多く見られましたが、相手を揺さぶるために攻撃を「継続させる」、ボールをキープするために「保持する」という意図はあまり見られませんでした。そうなっている理由は、先ほど述べた「ゴールを目指そうとする積極性」によるものなのか、チームのスタイルによるものなのか、または自陣でボールを失いたくない、失点の可能性を避けるためか、要因はさまざまあると思います。
──その分、展開が早く、慌ただしく行き来する攻防になっている印象です。
そうですね。最後の「ボールがコートの外に出る回数」も、今の話に関連するかもしれないのですが、直線的でダイレクトな展開が多いことで、ボールがコートの外に出る回数が増えている印象がありました。
トーナメントに入ってからの試合時間は、前後半の合計で20分間のプレーイングタイムでしたが、試合によってはボールが何度もコートの外に出ることから、ランニングタイムで換算すると試合時間が50分近くになることもありました。ボールが出るたびにプレーが止まると、それだけ休みながらプレーすることになります。
もしも20分間のプレーイングタイムで、ランニングタイムに換算すると35分から40分で試合が行われれば、それだけプレーの連続性が生まれ、休まず、止まらずにプレーすることが求められます。体力面で多くの刺激につながると思いますし、短い時間で何度も判断するための頭の持久力も高められると思います。
──頭の持久力は、フットサル特有の判断の連続によるものですね。
例えば、大会でよく目にしたシーンとして、自陣からのキックインの状況で、相手チームの全員がゴール前に引いて守りを固めている際に、自陣にフリーな選手がいても前方に蹴る、そしてそのボールが味方につながらずボールがコートの外に出る。うまくいかなくてもそのプレーを続ける光景を多く見ました。このシーンが起きていたのは、負けている状況や試合終了間際だけの話ではありません。そこには判断があまりないように感じました。
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──バーモントカップで見られる現象の最たる例ですね。
私の個人的な意見としては、選手たちが「判断しやすくするための手助け」をもっとできるといいなと思いました。狭いスペースでの攻防における、個人での駆け引きやグループでの連係の引き出しを増やすために、指導者がアイデアを提供してあげることができれば、選手はその選択肢の中で判断することができ、さらには攻撃を継続させたり、保持したりできると思います。
また、ゴール前の攻防においても、フィニッシュのコンビネーションが多く生まれたりすると思います。その結果、先ほど述べた「ボールがコートの外に出る回数」が減り、よりプレーの連続性が生まれ、選手が判断する機会も増え、さらにスピーディーでダイナミックな展開の試合が増えるのではないかと思います。そして、そうした取り組みや経験がサッカーの現場でも生かされていくと素晴らしいですよね。
狭いスペースをパワーやスピードを駆使して個人の能力の優位性を活かして突破するのか、それとも数的有利や個人戦術などをうまく活用して、相手をだましたり、相手の逆を突いたりして崩していくのか。様々な方法を、選手の個性や特徴に合わせて選択できればいいですね。
──普段サッカーに取り組んでいるチームがフットサル大会に出る際、指導者がどのように選手を導くかは、常々、語られてきたテーマでもありますね。
サッカーにしてもフットサルにしても、どんなプレーをさせたいかという、チームとしてのプレーモデルやスタイルがあり、それと合わせて、どんな選手を育成したいか、どのように育成するかなどをしっかりと整理することが大切だと思います。
「フットサル」という環境の特徴を理解して、指導を最適化できればいいと思います。
それは技術、戦術的なことはもちろんですけど、例えば、フットサルではいつでも自由に交代できるので、いろいろな選手を積極的に起用しやすい特徴があります。
ここは失点したくないという場面で、攻撃は苦手だけど守備では特徴を発揮できる選手を、1分間、1シーンだけでも投入することで、実際に守り切れたとします。それによって、その選手の自信につながり、成長につながるでしょう。そういったことがもっとできれば多くの選手の活躍の場、成長の場がつくれるのではないかなと思います。
「フットサルの特徴を理解する」という部分がもっと向上すれば、大会のレベルもさらに上がり、よりよい選手育成にもつながっていくはずです。
──バーモントカップが、これまで以上に深く、サッカーとフットサルをつなげることにつながっていくといいですよね。
はい。私はフットサルの現場で長く仕事をさせてもらったなかでたくさんのことを学びました。今まで学んだことを生かし、このバーモントの活動をどのように選手の育成につなげるかを現場の担当者である坪内監督と話しながらうまく進められているという実感があります。
ですので、バーモントカップに出場するチームはそういった考えを整理して取り組むことができれば、もっと有意義な活動にできると思います。
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