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ベルギーからの一通のメール 吉田海偉に伝えたかった「一人じゃない、ファンは必ず見ている」

きっかけは、1通のメールだった。

ベルギー在住の日本人会社員から「吉田海偉対オフチャロフ戦を現地で観戦しました。なぜ海偉さんのような40代を超えても現役で勝てるプレーヤーが、日本では活躍できないのでしょうか」とあった。

「こんな問題意識で編集長と話してみたいです」と締められていた。

電話をした。


写真:ドイツ・ウルムの試合会場/提供:鍋島孝夫

車で10時間かけてジャウドボ観戦

その男の話をしよう。

2022年11月13日。
男は、ベルギーのブリュッセルから、ポーランドの人口2万人ほどの小さな町・ジャウドボに、10時間以上かけて車を走らせていた。

ポーランドリーグに、前日のオーダー発表など無い。
運悪く吉田海偉が出場しなかったら徒労に終わると知りつつ、それでも会場に向かう足を止められなかった。

この機を逃して、もしも吉田海偉が引退してしまったら、自分はずっと後悔すると思った。

家族は怪訝な顔で「ひとりで、ポーランドに卓球を観に?」と聞いた。
男は日本の会社員だが、ベルギー勤務生活3年目を迎えていた。

日本にいる頃から吉田海偉のファンだった。
中学・高校を卓球部で過ごし、その後長く卓球から離れていた男が久しぶりに卓球を再開したとき、まだ吉田海偉は現役第一線で戦っていた。
同じ片面ペンドライブ型だった男は、今も変わらない吉田のまっすぐなプレーに魅了された。

生で吉田海偉の試合を観たい。全日本のチケットも買ったが、その前日に吉田海偉が敗退した。

ファンは見ているからと伝えたかった

そうするうちに男はベルギー勤務となり、その2年後、所属していた実業団チームが休部となった吉田が、戦う場所を求めてポーランドリーグにやってきた。

欧州で生活する厳しさも知る男には、日本に家族を残し、シーズンを通して単身で生活・奮闘する吉田のことが気になって仕方がなかった。

自分がジャウドボのホームマッチの観客席にいれば、このことだけは吉田に伝わるのではないかと思った。

一人じゃない、ファンは必ず見ているから、と。

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