
9月3日に開幕した「第26回ITTF-アジア卓球選手権大会」は、連日熱戦が繰り広げられ、男女ともに盛り上がりを見せて閉幕した。23日から中国・杭州で開幕する「アジア競技大会」とともに9月のアジアにおけるビッグイベントであり、来年のパリ五輪の選考ポイント対象大会でもあったこの大会。各選手のモチベーションの高さも窺えたなか、今回は男女のシングルスやダブルスを中心に、今大会の後半戦を振り返っていきたい。(文・井本佳孝)
早田、伊藤らが中国勢に屈す


写真:早田ひな、伊藤美誠(提供:ITTF)
今大会の日本勢においてテーマとして挙げられていたのが「対中国勢」。前回の2021年大会は全中国運動会への参加やコロナ禍の状況もあり中国が不参加。日本勢は早田ひながシングルス、ダブルス、団体の三冠に輝くなど飛躍したが、中国が復帰して迎えた今大会は本当の意味でのタイトル獲得へ各選手に中国を相手にした力と、この関門を突破しての上位進出が求められた。
なかでも中国勢撃破とメダル獲得が期待されたのが分厚い選手層を誇る女子シングルス。パリ五輪選考で1位を独走する早田を筆頭に、平野美宇、伊藤美誠、木原美悠、佐藤瞳の5選手がエントリー。女子は今大会団体準決勝で中国と激突し、0ー3と完敗を喫しての銅メダルに終わっていた。悔しさを味わった団体でのリベンジとともに、上位進出が求められた。
しかし、結果的には「中国の壁」は高かった。日本勢では早田と伊藤がそれぞれベスト8まで勝ち進んだが、前者は世界ランキング1位(対戦時)の孫穎莎に、伊藤は同3位の王芸迪と対戦。早田は第3ゲーム以降、伊藤は好スタートを切った第1ゲームを中心に流れを引き寄せる時間帯も見られたが、試合トータルでは世界ランクでトップ10入りする早田、伊藤の実力を持ってしてもトップ3撃破とはならなかった。
Wみゆうが銅メダル獲得


写真:木原美悠/長崎美柚(提供:ITTF)
また、今年は孫穎莎を撃破している平野も躍進が期待されたが、ラウンド16での激突となった陳幸同相手に0ー3ストレートで敗れた。木原、佐藤も王曼昱、陳夢というトップランカーの牙城を崩せず敗退した。シングルスはパリ五輪選考ポイントにも関わってくるため、今後を見据えても重要な意味合いを持っていた。この結果を踏まえて次に迎えるアジア競技大会でのリベンジには期待が集まる。
女子ダブルスでは木原と長崎美柚の“Wみゆう”が銅メダルを獲得し、日本勢の層の厚さと意地を見せつけた。5月の世界卓球でも銅メダルに輝いた2人は順当にベスト4まで勝ち進むと、準決勝では王曼昱と陳夢のペアと対戦。今大会優勝を果たすことになる2人に対して、第1、2ゲームを連取してあと一歩のところまで追い込む。しかし、9ー11で落とした第3ゲームを機に大逆転を許し決勝進出はならず。今大会中国勢に屈した流れだった日本女子勢の中では一番の奮闘ぶりを見せたといっていいだろう。
パリ五輪へ向けた嬉しい誤算

写真:田中佑汰(個人)/提供:WTT
男子は張本智和が手に故障を抱えていたこともあり、初戦でイラン人選手に敗れる結果に。世界ランク4位のエースに頼る部分も少なくなかった男子において新たな選手の飛躍が求められた。
そんななか今大会でサプライズと呼べる結果を残したのが22歳の田中佑汰。パリ五輪選考レースでは大会前時点で4位につけていた田中は、2回戦で世界ランキング2位の王楚欽と対戦。劣勢も予想されたなか、フルゲームまでもつれ込む奮闘ぶりを見せると、最終ゲームも11ー7で奪い逆転勝利。男子では初となる中国トップ3選手を倒してのパリ五輪選考ポイントを獲得する大金星を挙げた。
田中の躍進はその後も続き、3回戦でインド人選手を倒した後のラウンド16では、韓国のイム・ジョンフンと対戦。世界ランク17位の好選手相手にも怯むことなく、3ー1でこの試合も勝利。日本男子では今大会唯一のベスト8進出を果たした。張本がアクシデントに見舞われたなかで、田中が今大会で見せたインパクトは大きい。現在は篠塚大登とパリ五輪3位争いを展開する田中だが、今大会で日本男子団体は中国に完敗と呼べる厳しい結果となっており、今後のシングルスの争いだけでなく、パリ五輪の団体戦を考えても王楚欽を倒した田中の躍進は日本にとっては嬉しい誤算のはずだ。
パリ五輪選考争いも熾烈
約1週間にわたり開催された今回の卓球アジア選手権。結果的には前回不出場だった中国勢が復帰したことにより、改めてその強さと層の厚さを感じるとともに日本にとっては今後を見据えた現在地を図る機会となったのは間違いない。また、パリ五輪選考ポイント争いを考えても女子の平野、伊藤による2位争いや男子の篠塚、田中による3位争いなど今大会の結果を踏まえて、より熾烈を極め、日本の競争力が高まっていくことは各選手の今後の戦いにより熱が帯びていくことは予想される。
団体では男女ともに中国勢の前に0ー3で敗退と厳しい結果を突きつけられ、メダル獲得が期待された早田、伊藤、平野といったトップ選手が中国勢に屈した中でも、優勝ペアをあと一歩のところまで追い詰めた木原、長崎の2人や、トップ3撃破に成功し、男子の希望となった田中の存在は今後に向けては小さくない収穫となった。「アジア競技大会」でも引き続き“対中国”への対策は求められるなか、日本の男女ともにさらなる飛躍と上位進出には期待が高まる。
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