“ストーリーテリング力” なぜリーグごとに物語の描き方が違う? - アメリカ4大スポーツ比較 vol.3 -

SNS時代の勝者は、間違いなくNBAであろう。
これは他リーグを「敗者」と位置づけるものではない。NBAが、現在のSNSという環境において圧倒的に強い──ただそれだけの話だ。フォロワー数やリーチ数、再生回数といった指標を見れば、その差は一目瞭然である。

もっとも、これはNBAが「時代に合わせて変わった」結果ではない。NBAのやり方は、実は昔から大きく変わっていない。ただその構造が、たまたま今のSNS時代と強く噛み合ったに過ぎないのだ。

裏を返せば、前回の記事でも触れた通り、テレビ時代の勝者は圧倒的にNFLだった。
このことから分かるのは、リーグの優劣ではなく「リーグの方針」と「時代の相性」によって、主役は移り変わるという事実である。
日本においても「昭和は野球、平成はサッカー、令和はバスケットボール」と語られることがある。時代に合っているかどうかは確かに重要だが、そのために無理にアイデンティティを捨てる必要はない。各リーグは、それぞれの文脈と歴史を背負いながら、独自の道を歩んできた。

では、SNSという評価軸を一度脇に置いたとき──
アメリカの4大スポーツ(NFL/MLB/NBA/NHL)は、それぞれどのような方針で物語を描き、社会にインパクトを与えてきたのか。

・なぜNBAは「スターの物語」を描き続けるのか
・なぜNFLは「1試合」をこれほどまでに重く扱うのか
・なぜMLBは「日常の積み重ね」を大切にするのか
・なぜNHLは「濃いファンとの関係性」を深めるのか

今回はこうした問いを手がかりに、リーグごとの「ストーリーテリングの違い」を紐解いていく。

前回記事:
SNS時代に最も成功したスポーツリーグは? - アメリカ4大スポーツ比較 vol.2 -

ストーリーテリングの定義

ストーリーテリングとは、勝敗や数字を語ることではなく「観る側がどこに感情移入するか」を設計する行為である。
スポーツは本来、勝ったか負けたかという明確な結果を持つコンテンツだ。しかし、結果だけでファンが生まれるわけではない。人は「勝った事実」ではなく、そこに至る過程や意味に感情移入する。

たとえば──
・なぜその選手を応援したくなるのか
・なぜその1試合が特別に感じられるのか
・なぜ負けた試合ですら記憶に残るのか

これらはすべて、リーグやチーム、選手が意図的、あるいは無意識に積み上げてきた「物語」によって生まれている。つまりストーリーテリングとは、試合そのものを語る行為ではなく、試合の「文脈」を設計することだ。

・誰を主人公に据えるのか。
・何をクライマックスと見せるのか。
・どの瞬間を切り取り、どの瞬間を積み重ねとして扱うのか。
この設計次第で、同じ試合であっても、まったく違う体験になる。

前回までの記事で見てきた通り、
・NBAはスター選手という「個」を物語の中心に置き──
・NFLは1試合を“年に一度の決戦”のように重く扱い──
・MLBは日常の積み重ねそのものを物語とし──
・NHLは、分かる人だけが深く共感できる世界観を大切に──
それぞれが方向性を示している。

ここで重要なのは、どのリーグが「正しい」かではない、という点だ。各リーグは、自らの競技特性、歴史、ファン層を踏まえ「どこに感情移入させるか」を異なる形で設計してきた。それが結果として、ファンダムの違いとなり、SNS時代の見え方の差にもつながっている。

本章では、この「感情の置きどころ」の違い──
すなわち、リーグごとのストーリーテリングの型に焦点を当てていく。

リーグ別「物語の型」

同じスポーツリーグであっても、アメリカ4大スポーツは「物語の描き方」が根本的に異なる。それは偶然ではなく、「競技特性・歴史・ファンとの関係性の中で必然的に形成されてきた型」だ。

NFL:1試合=クライマックスの「神話型ストーリー」

NFLにおいて、物語の中心にあるのは「1試合」そのものだ。レギュラーシーズンはわずか17試合。だからこそ、1試合ごとが極端に重く、すべてがクライマックスとして消費される。NFLのストーリーは、積み重ねではなく「決戦」である。勝てば英雄、負ければすべてを失う。

スーパーボウルはその象徴。
1年を通して積み上げてきた物語が、たった一晩で完結する。勝敗は偶然ではなく「運命」であり、チームは“地元の誇り”を背負って戦う存在として描かれる。

▪️1試合=クライマックスが成立する理由

レギュラーシーズン 17試合(4大で最少)
プレー 大半は「止まっている時間」
→ 編集・演出・解説が前提の競技
放映等 完全リーグ集中管理
→ 「今この試合を見るしかない」設計

▪️具体例

スーパーボウル 視聴者数:約1億人前後(米国内)
広告は30秒で数億円
試合内容+ハーフタイム+CMまで含めて“物語”
NFL Films スローモーション、ナレーション、BGMで「神話化」 プレーではなく“意味”を語る映像文法

事実として、NFLは「試合そのもの」を物語にする設計が徹底されている。

NBA:選手=主人公の「ヒーローズジャーニー」

NBAの物語は、試合ではなく選手個人を中心に回っている。チームは舞台であり、選手は主人公だ。

ルーキーイヤーの期待、伸び悩み、批判、移籍、怪我、挫折。そして覚醒、復活、優勝──。
NBAが描いてきたのは、一人の人間がスターへと成長していく物語である。これはまさに「ヒーローズジャーニー」だ。勝利はゴールではあるが、物語の本質はそこに至る過程にある。だからNBAでは、敗北や失敗ですら重要なエピソードとして消費される。

▪️選手=主人公が成立する理由

レギュラーシーズン 82試合
プレー 連続性が高く、1プレーで“感情の山”が作れる
放映等 選手個人のSNSフォロワーがリーグ公式を上回るケースが多い
例:レブロン、カリー、KD など

▪️具体例

The Last Dance(マイケル・ジョーダン) プレーオフでの敗北→翌年の復活
NBA史を「個人の物語」として再編集 例:
レブロン(2011→2012)
カリー(ケガ→復帰→王朝)

この構造は、前回でも紹介した通りSNS時代と極めて相性が良い。短尺動画で切り取られるのは、プレーそのもの以上に「誰が」「どんな背景で」その瞬間に立っているかだ。

NBAのストーリーテリングは「この選手の人生を追いたい」 という感情を生み出すことで成立している。

MLB:日常の積み重ねで紡がれる「生活の物語」

MLBの物語は、劇的なクライマックスを必要としない。162試合という圧倒的な試合数が示す通り、MLBが描いてきたのは日常そのものだ。
勝つ日もあれば、負ける日もある。調子の良い日も、そうでない日もある。それでも試合は続き、季節が巡る。

MLBのストーリーテリングは、一試合の価値ではなく「積み重ね」によって成立する。家族で観た試合、ラジオから流れてきた実況、何年も前の夏の記憶──。
それらが重なり合い、時間そのものが物語になる。

▪️日常型が成立する理由

レギュラーシーズン 162試合
平日昼開催・地方開催が多い
プレー 大半は「止まっている時間」
→ 編集・演出・解説が前提の競技
放映等 ローカルRSN(地域放送)依存モデル

▪️具体例

ラジオ中継文化 大谷翔平などスポーツ選手の活躍を「聞く」日常が存在
観るスポーツではなく「流すスポーツ」 毎試合がニュースではないが「毎日そこにいる存在」になることで物語が積層

だからMLBは「劇的であること」よりも生活に溶け込むことを大切にしてきた。MLBの物語は、観るものではなく、共に過ごすものだ。

NHL:分かる人だけが深く共感する「継承の物語」

NHLのストーリーは、最も内向きで、最も濃い。誰にでも分かる物語ではない。分かる人だけが、深く刺さる世界だ。
スピード、衝突、痛み、耐久。氷上で繰り返される闘争は、派手さよりも“覚悟”を語る。NHLのファンは、その厳しさを知っているからこそ、選手に強い敬意を払う。

また、そこにあるのはスター誕生の物語ではない。世代から世代へと受け継がれる文化、地域に根ざした誇り、そして「この競技を分かっている者同士」の連帯感。これによってアウトプットもかなり違う。NHLは、プレーハイライト自体は非常に強いが、そのハイライトは「物語を説明するため」ではなく、“分かる人同士を結びつける合図”として機能している。だからNHLのSNSではハイライトと同時に内輪的なユーモアや遊び心が成立している。NHLはハイライト系の動画が弱いわけではなく、使い道が違うという理解をした方が正しいと言えるだろう。

▪️内輪性が許される理由

レギュラーシーズン 82試合
プレー 連続性が高く、1プレーで“感情の山”が作れる
放映等 カナダ・北部州など限定地域に極端に強い。また世界的拡張を急いでいない。

▪️具体例

マスコット・選手の“内輪ネタ”が公式SNSで多用 TikTokでの「ふざけた投稿」が炎上せず定着
ファンのユニークな動画もリーグ公式が拡散 気軽に参加でき、身内で話題に

NHLのストーリーテリングは、広げるための物語ではなく、守り、継承するための物語である。

より具体的に理解できるよう、次章では実際の投稿を元に解説していく。

SNSとの接続「◯◯だから、こういった投稿になる」

NBA:なぜ短尺でも“物語”が成立するのか

▪️代表的な投稿①:1プレー+選手名+最小限の文脈

 

この投稿をInstagramで見る

 

NBA(@nba)がシェアした投稿


「🗽 @wemby holds it high! 💥」のコメントだけで投稿された、ヴィクター・ウェンバヤマの動画は、25年12月時点で1.9億回再生されている

NBAは10-15秒で1つのプレーを「ほぼ解説なし」で投稿することが多いが、それでも投稿としては成立(=数字が取れる)している。成立している理由は単純で、選手が物語を背負っているために、ある程度の背景を差し置いても「また彼が凄いプレーをやった」という感動を伝えることに振り切っているから。だから「よくわからないシーンだけど彼がまた凄いプレーをした」という内容で、動画の役割としては十二分なのだ。

▪️代表的な投稿②:同じプレーを“何度も”別角度で出す

 

この投稿をInstagramで見る

 

Golden State Warriors(@warriors)がシェアした投稿

 

この投稿をInstagramで見る

 

NBA(@nba)がシェアした投稿


カリーが試合前に「フルコートショット」を決めたシーンは、2アングルから投稿された

NBAはこの動画の作り方をくどいほどにやる。わかりやすいところで言うと「ゲームウィナー」だから、これはプレーではなく「勝利の瞬間」を共有するために実施している。物語のクライマックスを多角的に反復させることによって、0から説明せずに内容を伝えようとしているのだ。結果的に、NBAの場合SNSは物語の説明ではなく「追体験」をさせる場所になっているとも言えるだろう。

NFL:なぜ“切り抜き”より“全体”が強いのか

▪️代表的な投稿①:ハイライト+前振り文脈

 

この投稿をInstagramで見る

 

NFL(@nfl)がシェアした投稿


ミネソタがダラスと相性が良いことを伝える動画

NFLの場合は競技特性上、NBAと違ってその瞬間のプレーだけ切り取って投稿したところで何が何だかわからないことの方が多い。せめて時間、1stダウンまでの距離、ダウン数当たりを共有しておかなければならない。最も、とんでもないスーパープレーが出たら別の話ではあるが、基本的には「文脈込み」でしか成立しないと考えられており、運営もその「文脈」を理解してもらった上でどのように発信するかを日々トライ&エラーしている。

▪️代表的な投稿②:試合前後のドキュメンタリー/ロッカールーム映像

 

この投稿をInstagramで見る

 

Ross Smith(@rosssmith)がシェアした投稿


ファンとの交流動画(「クリスマスにNFL選手と付き合いたい」といった趣旨のボードを作ってPR)

 

この投稿をInstagramで見る

 

NFL(@nfl)がシェアした投稿


ラインズマン同士のトラッシュトーク

試合数が少ないからこそ1試合にかける思いが非常に強いNFL。だからこそ勝利後のロッカールームやHCスピーチ、負けた後のQBの沈黙など、プレー以外で「この試合がどんな意味を持っていたか」を理解してもらうためのコンテンツ作りを行っている。
上記以外にも、「試合前のルーティン」「ラインズマン同士のトラッシュトーク」などなど、1試合でさまざまな取り上げ方を余すところなく行う。NFLは試合のみならず多角的な取り上げ方で「この試合を見ておくべきだった」と思わせるためのSNS活用をしている。

MLB:なぜ“エモさ”が武器になるのか

▪️代表的な投稿①:試合外の何気ない瞬間

 

この投稿をInstagramで見る

 

MLB ⚾(@mlb)がシェアした投稿


スター選手(ローマン・アンソニー)による「あの時のホームランを振り返る」企画

MLBの場合、MLBはあくまで地元に根ざして地元の人々にとってのスターであることが理想系。だからこそローカルメディアと強く連携をしているため、地元の人たちにとっては「試合」を見ていることは当たり前である。よって、リーグやチームに求めているのは「リーグだからこそ撮れる映像」である。プレーではなく、ベンチでの仲間と笑顔で話ている様子やウォームアップ、夕暮れの球場など、運営する側でないと撮れないような映像が非常に人気を集めている。

▪️代表的な投稿②:記録の積み重ね

 

この投稿をInstagramで見る

 

MLB ⚾(@mlb)がシェアした投稿


BTSが初めてマウンドに立ち、山本由伸選手が投球を受けた場面

ローカルメディアとの繋がりが強いことや試合数が他リーグよりも圧倒的に多いことから、シンプルに数字を積み重ねているだけの投稿も非常にリーチが高いというデータがある。感動を作っていくのではなく、お客さんが感動を思い出せるキッカケになるような投稿を続けているのである。「今日はホームで何試合目」「この日と同じようなホームランだ」といった投稿で、ファンの心理をくすぐっている。

NHL:なぜ“内輪ノリ”が許されるのか

▪️代表的な投稿①:説明しないハイライト

 

この投稿をInstagramで見る

 

NHL(@nhl)がシェアした投稿


スーパースターのコナー・マクダビッドのゴールシーン。ビッグショットであることはわかる

テロップは最小限に、特に解説などはなし。アイスホッケーという、4大スポーツの中で最もマイナーといっても過言ではないスポーツではあるが、そのスタイルは非常に強気であり、ルールをわかっている人が「ヤバい」とわかるような動画の作り方をしている。
とはいえ、解説したとしても「一瞬のスティックワークが凄い」「この状況でよく的確にゴールを射抜けるな」などの内容になってしまうとも思ってしまう。NFLも幾度もトライ&エラーを続けたが、結果このように尖ったのだろう。

▪️代表的な投稿②:マスコットや選手のふざけたシーン

 

この投稿をInstagramで見る

 

Boston Bruins(@nhlbruins)がシェアした投稿


チームがふざけて撮影した動画をリーグアカウントでも共同投稿を承認の上で拡散

 

この投稿をInstagramで見る

 

New York Islanders(@nyislanders)がシェアした投稿


チームの名物犬をアイスリンクで遊ばせる動画

NHLが他リーグと圧倒的に違うのはこの辺りの自由さでもあるだろう。選手がこれからプレーをする神聖な場に、普通に犬を入れたり、マスコットの奇行を投稿したり、はたまたチームアカウントのギャグ投稿を共同投稿して拡散したりと「自分たちが楽しむ」を、とにかく徹底している。あくまでどう見られるか以上に「まずは自分たちが楽しいと思うものをアップする」に徹しているため、新規向けではない。こうした仲間向け・内輪向けの使い方をするからこそ、NHLのSNSは「広げる」のではなく「わかっている人同士を結びつける」場所とも言えるだろう。

スポーツは物語

この4リーグは、SNSで「何をしているか」が違うのではない。SNSで「何をさせていないか」が違う。

・NBAは「説明」をしない
・NFLは「切り売り」をしない
・MLBは「盛らない」
・NHLは「全員に分かってもらおうとしない」

だから投稿の形が違い、描かれる物語の型も違う。

アメリカ4大スポーツにとってSNSとは、物語を新しく生み出す場所ではない。すでに存在しているそれぞれの「物語の型」を、最も効率よく、最も遠くまで増幅させるための舞台にすぎない。そして、その型を最も早く、最も自然に持っていたのがNBAだった。SNS時代に「適応した」というより、もともとSNS時代向きの物語構造を持っていたと言ったほうが正確だろう。
だからNBAは伸びた。それだけの話であり、他のリーグが自らのスタイルを捨てる理由はない。見方によっては、時代のほうがNBAに追いついたとも言えるだろう。

【出典】
https://www.qualtrics.com/articles/strategy-research/brand-followers-on-social-media/
https://www.sportsbusinessjournal.com/Articles/2024/10/30/mlb-social-media-traffic/
https://www.statista.com/statistics/243070/twitter-followers-of-national-hockey-league-teams/
https://www.basketballnews.com/stories/nba-passes-70-million-instagram-followers-ranks-top10-among-brands
https://www.welt.de/sport/article255228956/NFL-Social-Media-Teams-duerfen-X-Alternative-Bluesky-nicht-benutzen.html