
写真:Etsuo Hara/Getty Images
(大会直前のため再掲載)
2022年11月から行われるカタールワールドカップ(W杯)で日本はE組に入り、ドイツ、スペインといった世界の強豪国を相手に戦いを挑む。そこで、サムライブルーの一員として本大会での活躍が期待される選手たちにスポットを当てて、そのキャリアを振り返っていきたい。今回紹介するのは日本のW杯出場の立役者の一人であり、11月の本大会でも中心選手として活躍が期待されるフォワード・伊東純也だ。(文・井本佳孝)
関東大学リーグを経てプロ入りした遅咲き
今や日本代表になくてはならない存在に成長した伊東だが、そのキャリアはエリートと呼べるものではなかった。公立校である逗葉高校から関東大学リーグの神奈川大学に進み、ここでの活躍が認められ2015年にヴァンフォーレ甲府に加入する。22歳からとなったプロキャリアの始まりでルーキーシーズンからレギュラーとして出場し、30試合の出場で4ゴールと結果を残す。
伊東の名が知られるようになったのが2016年に柏レイソルに加入してからのことだ。右サイドバック、右サイドハーフとして起用されると、後期には右ウイングとしてポジションを確固たるものにして存在感を示す。翌2017年シーズンは全試合出場を果たし、Jリーグ優秀選手賞に輝く活躍で日本代表入りも果たす。2018年シーズンもチームはJ2降格してしまったが、伊東自身は右サイドを疾走するアタッカーとして存在感を発揮し、全試合出場を達成した。
そんな伊東に目をつけたのが、かつて元日本代表の鈴木隆行も所属したベルギーのヘンクである。2019年冬に期限付き移籍すると、シーズン途中の加入という難しい状況ながらポジションを掴む。14試合出場で3得点2アシストと及第点の働きを見せてヘンクのリーグ優勝に貢献した。4、5年前には大学2部のカテゴリーでプレーしていた選手がチャンピオンズリーグ(CL)という世界最高峰の舞台でのプレーを経験することになった。
ベルギーで進化した攻撃力
迎えた2019-2020年シーズンはCLではリヴァプールやナポリといった世界の名門を相手に経験を積み、ベルギーリーグでも右ウイングのレギュラーとしてシーズンをフルで戦った。冬には完全移籍での契約を勝ち取ると、6得点9アシストの活躍を見せた。さらに2020-2021年シーズンはヘンクにおいて攻撃のキーマンの一人として12得点16アシストと圧巻のスタッツを記録。シーズンベストイレブンにも選出され、ベルギーで絶対的な存在に成長を果たした。
伊東の持ち味は前を向いたら止めるのが至難の技ともいえる爆発的なスピードだ。右サイドでボールを受けると、相手DFお構いなしとばかりに縦へ勝負を仕掛け、クロスを供給する。日本のJリーグ時代はサイドからクロスを供給するクロッサーとしての印象が強かった。しかし、ヘンクに移籍してからの伊東は中へカットインして味方とのコンビネーションを生み出したり、左足での豪快なシュートに繋げるなどプレーの幅を大きく広げた。この進化がベルギーで得点やアシストが増加した要因となっている。
日本ではトップクラスの右サイドアタッカーに君臨する伊東だが、ベルギーからのステップアップも噂されている。リーグのカテゴリーを上げた時にその持ち味を消さずに生き残っていけるのかは興味深い。右サイドを得意とする右利きのアタッカーは世界に目を向ければセルジュ・ニャブリ(バイエルン・ミュンヘン)、ジェイドン・サンチョ(マンチェスター・ユナイテッド)といった選手たちがいる。ニャブリはW杯でもドイツの主力として出場が予想され、このアタッカーの存在は世界を知るための一つの物差しとなるかもしれない。
W杯では崩しのキーマンとして期待
2017年に日本代表デビューを飾った伊東がいる右サイドには、森保一監督が就任した直後にレギュラーを張った堂安律(PSV)やバルセロナの下部組織出身で2019年にレアル・マドリードに加入した久保建英(マジョルカ)という2人のレフティーがいる。しかし、最激戦区とも呼べる右サイドでポジションを確保したのは伊東で、W杯最終予選では日本が苦境に陥った中で圧巻の4試合連続ゴールで絶対的な存在感を示し、日本の攻撃の柱と呼べる選手になった。怪我などのアクシデントがない限り、このアタッカーを森保監督が外すことは考えづらい。カタール行きは濃厚と見ていいだろう。
11月に迎えるW杯では初戦でドイツ、3試合目でスペインと対する日本だが、右サイドにおいて伊東にかかる期待は大きい。とくに劣勢が予想される中で伊東の爆発的なスピードで相手の左サイドを制圧できるかは重要だ。さらに、中に切り込んでのコンビネーションやフィニッシュワークという日本からベルギーに飛び出し磨きをかけてきたプレーが世界トップクラスの相手に“金星”を掴みとるためには必要になるだろう。
関東大学リーグからのプロ入りという遅咲きながらJリーグ、ベルギーと確かな経験を積み成長を重ね日本有数の選手に成長した“プラチナ世代”。はたして、金髪のアタッカーは最終予選同様にW杯本番の舞台でも日本を救う救世主となれるのか。今なお全盛期を更新し続ける29歳が世界相手に与えるインパクトに期待せずにはいられない。
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