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心停止から復帰を目指すエリクセンにスペイン紙が「夢が彼を命の危険に晒す」と懸念。専門家は「彼は健康な人間ではない」と指摘

エリクセンは、古巣クラブのオーデンセでトレーニングを続けているという。(C)Getty Images
今夏のEURO2020のグループリーグ・フィンランド戦の最中に突然意識を失って倒れ、病院に救急搬送されたデンマーク代表のクリスティアン・エリクセン。その後、代表ドクターによって心停止していたことが明らかにされたインテル(イタリア)所属のMFだが、彼は現在、復帰への道を模索しているようだ。

埋込式除細動器(ICD)を装着してのプレーは、セリエAではレギュレーションによって認められておらず、1月からの移籍市場でアヤックス(オランダ)などのクラブに新天地を求める可能性が噂されているが、現在は母国の古巣クラブ、オーデンセでトレーニングを続け、ピッチに戻るための準備を進めているという。

しかし、エリクセンのマルティン・ショーツ代理人は「クリスティアンは、彼と同じ経験をした人々同様、回復に向けて取り組んでいる」「今はサッカーのことについて話し合うのに、まだ相応しい時期ではない。そうした時間がいつ到来するかを決められるのは、クリスティアンだけだ」と、まだ何も決定していないことを強調している。
エリクセンの復帰に対しては、やはり部位が部位だけに、懸念を抱くメディアも少なくなく、スペインの日刊紙『El Pais』も「エリクセンの夢は彼を命の危険に晒す可能性がある」と指摘。心停止の5分後に蘇生してから約半年経ってトレーニングを開始し、キャリアを再開することが可能なクラブとの契約を望んでいるという29歳のデンマーク人が「医学的および法的な点で議論を巻き起こしている」と報じた。

同メディアは、スペインのスポーツ局に所属するスポーツ医学センター心臓病学サービスの責任者であるアラセリ・ボライタ・ペレス博士の「言うのは辛いことだが、エリクセンは健康な人間ではない。彼は病気を抱えている。健康な人間は突然死に苛まれることはない。彼は幸運にも蘇生できたが、この先、倦怠感、アドレナリンの多量分泌、感情の激しい変動という以前の状況に戻れば、リスクが高まることとなる」とのコメントを引用して、いかに危険を伴うかを指摘する。
また、イタリアのサッカークラブ医師協会のエンリコ・カステラッチ会長の「サッカーのような選手同士の身体が接触する競技で、ICDにいかなる影響が起こるかは未知数」「サッカー選手は常に、キック、打撃、肘打ちの危険に晒されており、これによって皮膚の下にあるデバイスが障害を受け、心臓発作が発生した場合に除細動が行なわれない可能性がある」との警告も紹介された。

記事の中では、前述のボライタ博士も「ICDはサッカーをプレーするためのメカニズムとはなっておらず、日常生活の中で患者を保護するために存在する」と指摘しているが、一方で心臓生理学の第一人者であるルイス・セッラトーサ博士は最新鋭の除細動器が「腋の下の右側の、露出が少ない場所に装着することができ、プロテクター装着も可能となる」と、今後への明るい可能性を示すも、「うまくいく人もいれば、いかない人もいる」と断りも忘れていない。
ただ、セッラトーサ博士はエリクセンの症状については、2007年8月に亡くなったセビージャのアントニオ・プエルタのそれ(不整脈源性右室心筋症)とは異なり、またエリクセンがインテルに加入する前には、スポーツ心臓病学の第一人者であるサンジェイ・シャーマ博士によって管理されていたことから、競技を続けられる可能性は否定していない。

また同メディアは、こうしたケースにおいて、選手が競技を再開して死亡した場合の責任の所在についても、明確にする必要があると主張。米国では、アスリートは医師の責任を問わないという署名をするのが一般的になっているが、スペインの場合は現状、医師が責任を免除されるかどうかは明らかでないという。

エリクセンが復帰を望む気持ちは理解されるべきであり、それを待ち望むファンも多くいるだろうが、それは彼の生命の安全が大前提となる。そのための、正しい選択と万全な態勢の確立が、このデンマーク人MFには求められる。

構成●THE DIGEST編集部

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