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「泣きそうになった」ミランを救った30歳の苦労人。指揮官や伊紙も称える“ドラマチックな寓話”とは?

CLデビュー戦でゴールを決めたメシアス。ミランのグループステージ突破に望みをつないだ。(C)Getty Images
現地時間11月24日に行なわれたチャンピオンズ・リーグ(CL)グループステージ第5節、グループBではミランがアトレティコ・マドリーに1ー0で今季初勝利を挙げ、決勝トーナメント進出に望みを繋いだ。

【動画】ケシエのクロスをメシアスが合わせた! ミランvsアトレティコのハイライト映像

8年ぶりのCLで初戦から3連敗を喫し、勝利が必須とされた前節ポルト戦も1-1の引き分けに終わっていたミラン。もはやグループ突破は絶望視され、アトレティコの本拠地ワンダ・メトロポリターノに乗り込んだ一戦で終戦を迎える可能性も十分にあった。

しかし、試合ではホームチームを上回るボールポゼッションで積極的に攻め込むと、相手の倍のシュート(14本)を放った試合の終盤87分、フランク・ケシエのクロスをジュニオール・メシアスが頭で合わせてゴールをこじ開けたのだ。

見事サン・シーロでの屈辱を晴らしてみせたミランは、アトレティコと同勝点(4)の3位に浮上し、2位ポルトとは勝点1差になった。最終節で首位のリバプールをサン・シーロで下し、ポルトとアトレティコ(前者のホームゲーム)が引き分けた場合にのみ、ノックアウトステージに立つことが可能となる。

それゆえ、苦しい状況に変わりはない。だが、それでもひとつハードルをクリアしたチームに対して、ステーファノ・ピオーリ監督は以下のように選手たちを称賛した。

「彼らはクオリティーと勇気を持って、常に自分たちを信じながら、素晴らしいパフォーマンスを披露した。この試合は、チームが成熟したこと、そして正しい道を進んでいることを示す重要なショーだった。私は彼らと勝利を祝いたい」

とりわけ決勝ゴールを挙げたメシアスに対しては、「本物の資質を持った選手であり、これは彼にとってほんの始まりに過ぎない。今夏にチームに加入してしばらくは幾つかの困難に直面したが、今の彼は本当にチームを助けている」と賛辞を惜しまなかった。

また、ピオーリ監督が「彼の“ストーリー”は本当に素晴らしい」とも語っているとおり、今夏の移籍市場最終日にクロトーネからレンタルで加入した30歳FWのキャリアは、イタリアのスポーツ紙『Gazzetta dello Sport』が「寓話」と表現するほどドラマチックなものである。

母国ブラジルのクラブ、クルゼイロの下部組織で育ったメシアスは、2011年に兄が住んでいたイタリアへ移り、家電配達員として生計を立てながら、トリノのアマチュアレベルのトーナメントでプレーを続けていた。

15年に彼の存在を目を留めたASカザーレのエツィオ・ロッシ監督が契約を結ぶと、ピエモンテの地域リーグ(5部リーグに相当)で32試合に出場して21ゴールを記録。セリエD昇格に貢献する。
さらに、ASDキエーリに移籍(12万ユーロの移籍金が発生)した16年は、15ゴールを挙げてリーグ優勝。翌年に受けたセリエBのプロ・ヴェルチェッリからの誘いは、EUパスポートを持っていなかったことで破談となるも、12月に加入したACゴッツァーノ(セリエD)でも素晴らしいパフォーマンスを発揮した。

そして19年にセリエBのクロトーネに移籍すると、34試合6得点6アシストを記録し、チームのセリエA昇格に貢献。昨季は37試合に出場したカルチョのトップリーグで9ゴールを挙げたほか、ドリブル成功回数でロドリゴ・デ・パウル(ウディネーゼ)に次ぐセリエA第2位を記録する。

こうした活躍で見る者に強いインパクトを与えた結果、ミランのパオロ・マルディーニSDが強い興味を示し、ついに世界的な名門クラブの一員にまで昇り詰めたのだった。

とはいえ、トッププレーヤーとしてはフィジカル面で大きな問題を抱えていたため、ミランでは一から鍛え直すことを余儀なくされた。怪我もあってここまでの出場は、セリエAの2試合で合計でわずか51分間のみ。

しかし、今回のアトレティコ戦では65分からピッチに立ってCLデビューを飾ると、その22分後に大きな仕事を果たして勝利の立役者となったのだ。
『Gazzetta dello Sport』からも「彼の最も美しい夜は、31歳を間近にして到来した」と報じられているメシアスは試合後、「何よりも勝利に満足している。ゴールとデビュー戦が必要な時に訪れたことも」とチーム第一の姿勢を強調しながら、この一夜を振り返っている。

「(ゴールの後には)これまでのことが頭をよぎり、泣きそうになった。純粋な感情だった。そして神様のことを考えた。これまでの僕の人生は、神様の導きによるものだと思う。今夜は僕の人生で最高のものであり、望むべくもなかったものだ。(ゴールの瞬間は)落ち着いていた。落ち着いている時は、素晴らしいことができる」

さらに、このゴールを「僕を信じてくれた家族やブラジルの友人たち捧げたい」とも語ったメシアス。最終節へ「リバプールは難しい相手だが、我々は謙虚さを保ち、今日のような最初から最後までうまくいったプレーをする必要がある」と気を引き締めた30歳はこの先、どれだけの高みに到達することができるだろうか。

構成●THE DIGEST編集部

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