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【新時代サッカー育成対談】幸野健一×カレン・ロバート|「元Jリーガー経営者はなぜグラウンドを作るのか?」|前編

廃校を利用したグラウンドビジネス

──ボビさんはどのような仕組みでグラウンドを作りましたか?

幸野 廃校利用でしょ?

カレン そうです。イオンモール木更津でソサイチができるグラウンドを作って、どういう形で収入を得られるかの実績を作りました。その実績から、年間でどれくらいの収入があるかを計算し、木更津市にプレゼンをさせてもらいました。

廃校を貸して頂けるなら、これぐらいのお金が入ってくる可能性があります。東京都や神奈川県はグラウンドがないので、校舎を宿泊施設にしたらこれだけの利用者があり、地域活性化に繋がりますと。このプレゼンが通って、昨年4月から木更津市の中郷中学校を任されました。

──廃校を利用したとおっしゃっていましたが、どのように作られたのですか?

カレン 元々、学校だったので体育館は立派なアリーナとして活用しました。校舎の耐震性の低い部分だけは、木更津市に解体して頂いて、残った校舎で宿泊施設を作りました。学校としては珍しく、グラウンドは道路を挟んだ向かい側にあるので信号を渡る必要があります。広さは1万平米ぐらいあって、そこにグラウンドをバーンと作りました。

──簡単に「バーンと作らさせてもらいました」って言ってますけど(笑)かなりの費用がかかったのでは?

カレン めちゃくちゃかかりましたし、利益は少ないですね。

──ケンさんは、ボビさんが中学校の校庭をグラウンドに転換するっていう話を聞いたとき、どのように思いました?

幸野 私自身も、廃校利用は前から考えていました。チャンスがあれば、物件があればやりたいなと思っていたので、先を越されたなと思っています(笑)。

──廃校利用をやりたい理由は?

幸野 今は人口の減少によって、廃校になる学校が増えてきています。廃校の何が良いかというと、グラウンドだけでなく校舎もあります。座学ができる環境があるなど、様々な可能性があります。居抜きで使うことができるので、チャンスがあればやりたいなという思いがありました。ただ、物件がなければできないわけで、ボビはいい物件に巡り合って実現したわけですから、素晴らしいなと思います。

──中郷中学校の件は、ボビさんが優先的に交渉されたんですか?

カレン 3社競合で、プレゼンをしました。最終的には890対894とか、わずか4点差でギリギリ勝ち取りました。

──コンペのような感じ?

幸野 公共の施設だからコンペにしなければダメなんですよね。

──独占で依頼することはできないわけですね。廃校利用でいうと、ボビさんの地元でもある茨城の水戸ホーリーホックが「アツマーレ」という施設作りましたね。

カレン あのグラウンドは、totoの助成金を使っていると思います。校舎をきれいにして、一般の方にジム部分を開放しています。一般の方が利用している横で選手がトレーニングすることもあるようですね。

──この廃校利用は、グラウンドを作るスキームとして有効だと感じていますか?

カレン 小学校だと少しグラウンドが小さいですが、中学校ならフルピッチを作れます。グラウンドを作りたい方がいれば、アンテナを張っていた方がいいです。土地の利用料金は、長期的に安く貸してくれます。

そもそもサッカーのグラウンドを作る際に気を付けたいのは、長期契約で低い家賃であること。そうじゃなければ、回収することは無理です(笑)。家賃を間違えると、とんでもないことになります。家賃と同じくらい大事な要素は、長期契約であること。長い期間で返していく。そうじゃないと、今の日本では厳しいですね。

幸野 サッカー場はフルピッチ1面で1万平米。その巨大な土地を使ってサッカー場を作るビジネスは、日本で一番不経済なビジネス。サッカー場にすると、駐車場やそのほかの用途で活用できない。1万平米あって、サッカー以外で稼ぐことができない。つまりサッカー場は、ビジネスの観点から一番手を出してはいけないものです。

グラウンドビジネスのリアル

──すごくリアルな話ですね。今日参加してくださったみなさんのなかには、いつかサッカー場を作りたいと思っている方もたくさんいると思いますが(笑)。

幸野 やっぱりリアルを伝えないといけない。サッカー場を作ることは、本当に大変。グラウンドは、諸々の工事で1億円前後で作ることができます。全国、どこで作ってもそれほど大きな差はありません。ボビだって、億かかってるよね?

カレン 億は超えてますね。グラウンドを作る際に、まずは下地を綺麗に作るところからスタートします。

幸野 下はコンクリ?

カレン いや、コンクリにはせずに、採石だけです。

幸野 絶対それが良い。

カレン 以前、アスファルトの上にコートを張らせてもらったことがありましたが、硬くて身体のあちこちに衝撃がありました。

幸野 子どもの疲労骨折とかあって、身体に良くない。

カレン 今のグラウンドは砕石なので、ラインが波打っています。でも完璧に平らなグラウンドの方が、不自然だなと。

──これはマニアックな話で、グラウンドを作った人じゃないとわからないような話ですね(笑)。やっぱり、下がコンクリートだとケガのリスクが高くなる?

幸野 グラウンドが硬いと、子どもたちの育成に良くない。そもそも日本は、練習する時間が長すぎて、疲労骨折多い。そこへ硬いピッチでプレーさせると、さらにケガが増えるてしまう。それだけはしたくありませんね。

幸野健一(こうの・けんいち)
プレミアリーグU-11実行委員長/FC市川GUNNERS代表/サッカーコンサルタント

著書
パッション 新世界を生き抜く子どもの育て方

1961年9月25日、東京都生まれ。中央大学卒。サッカー・コンサルタント。7歳よりサッカーを始め、17歳のときに単身イングランドへ渡りプレミアリーグのチームの下部組織等でプレー。 以後、指導者として日本のサッカーが世界に追いつくために、世界43カ国の育成機関やグラウンドを回り、世界中に多くのサッカー関係者の人脈をもつ。現役プレーヤーとしても、50年にわたり年間50試合、通算2500試合以上プレーし続けている。育成を中心にサッカーに関わる課題解決をはかるサッカーコンサルタントとしても活動し、2015年に日本最大の私設リーグ「プレミアリーグU-11」を創設。現在は33都道府県で開催し、400チーム、7000人の小学校5年生選手が年間を通し てプレー。自身は実行委員長として、日本中にリーグ戦文化が根付く活動をライフワークとしている。また、2013年に自前の人工芝フルピッチのサッカー場を持つFC市川GUNNERSを設立し、代表を務めている。

北健一郎(きた・けんいちろう)

WHITE BOARD編集長/Smart Sports News編集長/フットサル全力応援メディアSAL編集長/アベマFリーグLIVE編集長

1982年7月6日生まれ。北海道出身。2005年よりサッカー・フットサルを中心としたライター・編集者として幅広く活動する。 これまでに著者・構成として関わった書籍は50冊以上、累計発行部数は50万部を超える。 代表作は「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」など。FIFAワールドカップは2010年、2014年、2018年と3大会連続取材中。 テレビ番組やラジオ番組などにコメンテーターとして出演するほか、イベントの司会・MCも数多くこなす。 2018年からはスポーツのWEBメディアやオンラインサービスを軸にしており、WHITE BOARD、Smart Sports News、フットサル全力応援メディアSAL、アベマFリーグLIVEで編集長・プロデューサーを務める。 2021年4月、株式会社ウニベルサーレを創業。通称「キタケン」。

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