
伊藤知彦(いとうともひこ)は、国内外の超ロングトレイル(山岳縦走)に挑戦するウルトラトレイルランナーでありながら、総合スポーツショップで働く、凄腕シューフィッターでもある。
確かに彼の足は、数多くの困難なアップダウンを走破する中で、多くのシューズの機能を体感してきた。
そして、オリンピック出場選手らとランニングイベントのメニューを考え、3年ほどかけて全国のゼビオスポーツ店舗約40ヶ所を回り、スタッフ・お客様にランニングプログラムを行ってきた。
店舗での接客やイベントを通して、多くのランニング愛好者に走る楽しさを伝えてきた伊藤に、現在のシューズトレンド、そして怪我を防ぐために重要なことなどを聞いた。
ヒマラヤ1,700kmを走破するゼビオの名物店員が語る「極限の仕事論」【第2回】
ランニングにチャレンジしやすい環境
── 今のランニングのトレンドって何かありますか。
伊藤: 3つあると思います。コミュニティがどんどん広がっていること、草大会も含めて大会がめちゃくちゃ増えていること、YouTubeなどのSNSの拡大によって情報を得やすくなったこと。これらによって、ランニングにチャレンジしやすい環境になりましたね。
── ランナーも増えているのでしょうか。
伊藤: コロナで一度減ってから、やや戻ってきていますね。これから始める人と、中身がどんどん濃くなっている人の2極化している印象はあります。
シューズの進化が早い
── シューズのトレンドはいかがでしょうか。
伊藤: メーカーが作り出すシューズの機能の変化はすさまじく早いですね。今までだったら安定感を重視させるのか、クッションを重視させるのかで分かれていたものが、両方叶えられるシューズが出てきて、さらに軽くなっています。
すべての要素を一気に叶えられるようになってきたのが、この数年です。
ジョギングにはクッション・安定感・屈曲性で選ぶ
── これからランニングを始められる初心者の方にお勧めするシューズを具体的に教えて下さい。
伊藤: まず、どんなスタイルで走っているか。ジョギングだけなのか、マラソンを目指すのかで変わります。
ジョギングの方には、クッションと安定感に加えて、屈曲性が良くて足の裏の動きがしっかり分かるか、という3点を意識して履き比べてもらいますね。
アシックスで言うと、カヤノが安定感があり、クッションならノバブラストをお勧めします。膝に問題があるような方には安定しているカヤノが良いですし、バウンス感や軽快さが欲しい方はノバブラストが良いですね。

写真:アシックス ゲルカヤノ31/提供:SUPER SPORTS XEBIO

写真:アシックス NOVABLAST 5/提供:SUPER SPORTS XEBIO
安定感とクッションのバランスをとるならミズノのウェーブライダーも好きな方が多くお勧めですし、あとは、さらに軽量性も求めるなら、ニューバランスのレベルも挙がります。
ニューバランスでは、弾むようなクッションのFresh Foam X 1080もあります。

写真:ミズノ ウエーブ ライダー 29/提供:SUPER SPORTS XEBIO

写真:ニューバランス FuelCell Rebel v5/提供:SUPER SPORTS XEBIO
ナイキは、ZoomXというクッションとバウンスのあるシューズに外からリアクトというフォームをはめて安定感を出したボメロという新しいシューズが、人気ですね。定番のペガサスも足裏の接地感はすごくわかります。

写真:ナイキ ボメロ プラス/提供:SUPER SPORTS XEBIO
── 最近よく見かけるHOKAやOnはいかがですか。
伊藤: その2つはファッション性を重視する方が多いかなと思います。その意味では、ファッション性から入る方と、ランニングの“Do”から入る方でまず分かれるかもしれません。
そこからそれぞれ安定性、クッション性、軽量性の3つの軸があり、さらに屈曲性も含めると4つの軸でお客さんが何を望むかというお話をします。
いずれにしても、お客さんの要望を聞きながら、選別して提案しますね。
それから、インソールも必ずお勧めします。
インソールは家でいうと土台
── あ、そうですか。これまでインソールにまで気が回りませんでした。
伊藤: インソールは家でいうと土台になる部分で、そこがしっかりすると全体が安定して足運びもスムーズになります。
インソールも種類がたくさんあるので、使ったことがない人はソフトなものが良いと思います。シダスのセンスという商品は、柔らかくて軽く、柔軟性があるのでお勧めです。
足の踵、母指球、小指球、3つの骨が体重がかかることで下がり、バウンスして戻る運動なので、その機能を引き出しながらサポートするという意味では、センスという品番のものは良いんじゃないかなと思っています。

写真:シダス ラン3D センス/提供:SUPER SPORTS XEBIO
固定感が欲しいという方には、ザムストのフットクラフトをお勧めします。

写真:ザムスト フットクラフトスタンダードクッションプラス ミドルアーチ/提供:SUPER SPORTS XEBIO
── なるほど。お店だとどうしてもシューズを選んだところで満足してしまうんですよね。
伊藤: そうですよね。なので、お店ではシューズを選ぶ流れの中にインソールを体験する場面を入れるようにしています。
足型を計測したときに左右差があれば大きいほうに体重がかかりますし、足幅が広い方は横のアーチが落ちてしまうので、その説明をしながら、インソールの上に乗ってもらって、バランスが取れた状態を体感していただく。
あとは、シューズの試着の際に左足のサイズが合えば、右足にはインソールを差し替えて試してもらうとかですね。
── そんなにインソールは重要なんですね。
伊藤: やっぱり負担が少なくなるんですよね。長距離走ったときに後半の足が持ったり、ぐっと踏ん張れる機能の面ももちろんあるんですが、正しくインソールを使っておけば、走った後のリカバリーが早くなります。
リカバリーが早くなるということはそれだけ怪我なく練習が積めるので、ランナーにとっては重要なものだと思いますね。
ボールで筋肉をほぐす
── 怪我という面では、ネパールヒマラヤ山脈横断1700kmを51日間で縦走する伊藤さんも怪我との戦いだと思うんですが、身体のケアはどうしているんですか。
伊藤: 痛みが出る原因っていうのはもう決まっていて、筋肉の硬直です。
硬直した筋肉がリカバリーされないまま運動を続けていくと、その筋肉の付着部分が引っ張って痛みになるので、その硬直部分がどこか、自分の癖もわかりつつ、それを見つけるのが一番のポイントです。
僕は今は、お祭りの屋台などで売っている多角形のスーパーボールみたいなもので、ふくらはぎや太ももの部分に体重かけて、痛いところを30秒くらい抑えていくんですよ。野球やテニスのボールでも良いです。
すると、筋膜が剥がれて柔軟性が出てきて、滑りが良くなるんです。それぞれ点で30秒ずつぐらい抑えながら、周囲も転がして、その後にストレッチに入る。これをやり続けるしかないんですよ。
それでももうほぐれないときは、鍼灸などに行って全身を揉んでもらって、どこの筋肉が固まっているかを自分でインプットして、家に帰ってひたすらそこをほぐしていくっていう、この繰り返ししかないかなと思いますね。
── 意外と原始的なんですね。
伊藤: さらにもう少し簡単な方法で、困っているお客さんによくお伝えするのは、足の指を手の指でぐっと反らしたり、たたんだりすことですね。
その後、自分で体重かけながら足の指の可動域を広げることをしてあげれば、足の筋肉が伸びたり縮んだりするので、まず、足の指をしっかり動かすこと。
あとは肩甲骨周りもぐっと回したり引いたりして、この肩甲骨と足裏をほぐすと、多くのランナーにとっての障害は消えると僕は思ってます。
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