普久原朱怜・白梅学園ハンドボール部「夢は終わらない」_CROSS DOCUMENTARYテキスト版

2024年春、全国高等学校女子ハンドボール選抜大会決勝。

その大舞台で、東京代表・白梅(しらうめ)学園高等学校が驚愕の戦術を展開した。

 

キーパーなしの全員攻撃。自陣ゴールを空にする捨て身の戦術は、試合終盤ならあり得るだろう。だが、白梅は終始この体系で戦う、唯一無二のチーム。

試合終了のホイッスルと共に、大会連覇、通算3度目の優勝が決まった。

実況アナウンサーが叫ぶ。

『桜の季節に梅の花が咲きました!』

2025年秋。白梅学園の体育館に、練習の準備をするハンドボール部と出会う。

全国高等学校選抜大会、インターハイ、そして国民スポーツ大会。白梅学園は、これまで高校ハンドボールの全国三大イベントを通算6度制してきた、トップクラスの強豪校だ。

それでいながら、キャッキャ笑いながら練習に備える様子は、女子高生集団のイメージそのもの。部員全員が、明るく仲の良い姉妹のような雰囲気を醸し出している。

集合がかかると、18名の部員が小走りにやってくる。数名を除いて、何だか小さい。

「ハンドボールは、大きいほうが有利です」

名将の須川文敬監督が、他人事のようにいう。ないものねだりはしない。何しろ主力選手はみな150㎝台。しかも、スポーツ推薦ではなく、一般入試で白梅にやってきた。

その一人、キャプテンでエースの普久原朱怜(ふくはら あかり)も、自称155㎝。『そんなにある?』とチームメイトから突っ込まれていた。

それでも普久原は、今年準優勝したインターハイでは優秀選手に選出されている。理由は、練習を見ているうちに理解できた。

 

彼女が正面からシュートを撃つと見せかけてボールを回し、素早い展開からサイドの選手がシュート。

自らも高い決定力を持つ普久原を中心とした、白梅独自のトリッキーな連係プレーは、実に30以上の引き出しがあるという。須川監督考案の必勝の戦術。

「小さい子が主力なので、その子たちでも点が取れる、戦える方法を常に探っています」

エース普久原の目下の野望は、国民スポーツ大会(旧国体)2連覇。3年生の彼女にとっては、高校最後の全国大会となる。

「どこのチームも強いので、目の前の相手を倒しながら、自分たちも最大限成長して、日本一になって笑顔で終わりたいと思っています」

自分たちの代で、大好きで最高な仲間と共に……。彼女の思いは届くだろうか。

後日、白梅学園の昼休み。普久原は、仲間たちと学食にいた。エースでキャプテンの人物像を聞くと、

『変です』

『制服を前後ろ逆に着てたりして、面白い』

普久原もおおいにその自覚はある。

「冬でブレザーを着るじゃないですか、それを妹の中学のものと間違えて着て登校したり、寝坊して弟のチャリで来たりとか……」

天然なキャプテンは、どうやらみんなにかわいがられているようだ。

「仲間内では一番年下って感じです。結構みんなお世話しているよね?」

午後4時の体育館。ハンドボール部が毎日の練習に集まってくる。

普久原が、指のテーピングの上から両面テープを巻いている。意味を聞くと、

「ハンドボールならではだと思うんですけど、これでボールへのグリップ力が上がります」

練習が始まり、全員がキビキビと動き出す。長い時間はかけない。放課後の3時間が、彼女たちの集中タイムだ。

練習メニューが書かれたホワイトボード。必殺の連係プレーのポジショニングや、手順が細かに記されている。

例えばフリースローでは、普久原の前に2人の選手が並んで立ち死角を作る。ボールを受け取った普久原は、そのままシュートを打つと見せかけて、死角を作った選手にボールを戻し、自らおとりとなる。

また、別の連係プレーで普久原が見せたのは、ボールを持ったふり。演技力で相手の視線を自分に引きつけるのだ。須川監督はこの連係プレーの数々こそ、小柄な選手たちが全国トップレベルで生き残る術だと信じている。

「遊びのようにゲーム感覚で身につけていくので、楽しんでやれるんですよ」

 

そのキーウーマンこそ、普久原なのだ。

「自分がチームのエースである自覚はあります。だから自分がボールを持つと、ディフェンスが寄ってくるし、自分が相手を引きつけられるんです。そこで仲間がシュートを打てるから、それに貢献できたと感じられるのが楽しいんです」

普久原がハンドボールを始めたのは、小学校2年生。両親共に選手だった影響もあり、すぐにのめり込んだという。

『あーちゃん(姉・朱怜)』『ひーちゃん(妹・光怜)』と呼び合う1つ下の妹・光怜(ひかり)も、今は白梅学園で共にプレーしている。

「(あーちゃんとは)昔からずっと一緒なので、息は合っていると思います」

それは白梅必殺の連係プレーにも、存分に生かされている。

2週間後に迫った、国民スポーツ大会(旧国体)。3年生の普久原にとって、高校最後の全国大会だ。

「ハンドボールをやってきた小中高すべてを懸けて、連覇、自分の代での日本一を狙います」

その日、白梅学園ハンドボール部は、日本体育大学で試合形式の特別練習を行った。格上の大学生相手に、連係プレーのバリエーションを試すのだ。

普久原を筆頭に、大学生チームに一歩も引かない姿勢。そんな情熱に、日体大女子ハンドボール部の辻昇一監督は目を細める。

「白梅の子たちは、ハンドボールの常識に留まっていなくて、須川監督のある意味芸術的な考え方が、ひとりひとりの選手に表れていますね」

休憩タイム、高揚感冷めやらぬ普久原が目をギラつかせていう。

「もっと自分のプレーに磨きをかけたいんです」

夜、普久原の家を訪ねた。

夕食後、タブレットに映る試合映像を観る、朱怜・光怜姉妹。

元選手の父・博司さんのアドバイスが熱を帯びる。姉妹には、家に帰ってもプライベートコーチがいるようなもの。だが……。

「本当は、本当はね、何もいわないようにはしているんですよ、極力」

その言葉に苦笑いを浮かべる普久原。

「うるさいと思うこともあるけど、頑張ってほしいという思いは伝わってます。(父に向かって)だから、ね?」

一見神妙にしている父。だが、こみ上げるうれしさを隠せない。

国民スポーツ大会を直前に控え、この日はディフェンスの最終チェック。

体の大きな選手を2人がかりで止める、白梅独自の工夫。あえて2人の距離を広く取り、相手の中央突破を誘ったうえで、挟み撃ちにする戦術だ。練習での成果は上々。

榎本満里奈コーチは、普久原ら教え子の活躍に期待する。

「今の(代の)子たちは小さいですけど、いろいろ判断する力や相手との距離感、それを詰めるタイミングに長けた選手が多いので、頼もしいです」

滋賀県彦根市。第79回国民スポーツ大会ハンドボール競技会場。

東京代表・白梅学園のメンバーが姿を見せる。キャプテンの普久原が試合直前のコメントをくれた。

「大事な一試合目なので、自分たちの良いところ、まとまりの良さを最初から発揮できたらと思ってます。(最終的な目標は?)日本一です」

初戦の相手は、富山代表・高岡向陵高校。

白梅は、いきなり得意のゴールキーパーなしの全員攻撃で仕掛ける。

だが、それは諸刃の刃。相手のクリアボールが無人のゴールへ飛び込み、先制を許す。

それでも、直後から得意の連係プレーで相手を翻弄。良い形で同点ゴールを決めると、普久原の追加点などで完全にゲームを掌握し、危なげなく勝利をつかんだ。

続く2回戦の相手は、鹿児島選抜チーム。精鋭がそろう強豪だ。

序盤は白梅がリードする試合展開。だが、同点ゴールを決められ、流れが一変。ついに逆転を許すと……。練習では機能していた[挟み撃ちディフェンス]もバックパスでかわされ、痛恨の追加点を奪われてしまう。

それでも普久原が反撃のゴールを決めると、総攻撃で連覇への執念を見せる。

だが、試合終了のホイッスルが無情に響く。『勝負に絶対はない』。その言葉どおり、白梅学園はまさかの2回戦敗退。大波乱が起こった……。

会場の外に出た白梅学園の面々。涙がとめどなく流れ落ちる。

普久原は父・博司さんの姿を見つけると、いわずにはいられなかった。

「ごめんなさい……」

博司さんは娘2人を抱きしめ、チームメイトの肩をたたき、激闘を労った。

「よく攻めた、よくあきらめなかった、よく走った、知っているぞ」

多少なりとも落ち着いた普久原が、話しにきてくれた。

「自分の思うプレーができなくて……。もっとチームを引っ張って盛り上げられたと思うし、後悔のほうが大きいです」

その頬に涙の跡がくっきりと残っていた。3年間、文字どおり全力を尽くしてきた彼女は、卒業後、東海大学でプレーを続ける。

白梅学園で抱いた夢は、まだ終わらない。