
6万枚の告知物配布、TikTok毎日更新...サンフレッチェ広島レジーナが示した「女子スポーツで2万人集客」の方程式
2025年3月8日、広島のエディオンピースウイング広島で開催されたWEリーグ戦で、サンフレッチェ広島レジーナが前代未聞の快挙を成し遂げた。「自由すぎる女王の大祭典」と銘打った1万人の集客施策を3ヶ月超続けてきた結果、目標を大幅に上回る2万156人がスタジアムに詰めかけたのだ。日本の女子スポーツ界において5桁の観客動員は極めて珍しく、まさに歴史的瞬間となった。これは、WEリーグの単独開催における歴代最高の観客数※ である。
※5月6日に国立競技場で行われたWEリーグのジェフユナイテッド市原・千葉レディース対大宮アルディージャVENTUSの試合でWEリーグ史上最多となる2万6605人が集まったが、Jリーグとの同時開催だったため
この成功の裏には、マーケティング担当者と選手が一体となって展開した緻密な戦略があった。「自由すぎる女王」というキーワードの設定、選手による6万枚のチラシ配布、毎日途切れることのないSNS発信、チケット販売のロードマップづくり...。結果として全体の8割を有料チケットで構成した。単発のイベントに終わらせず、持続可能な集客基盤の構築を目指した取り組みは、スポーツマーケティングの新たな可能性を示している。プロジェクトを牽引した石井奏大氏に、成功までの道のりを聞いた。
諦めムードを打破した「1万人」という明確な目標設定
――このプロジェクトはどのような経緯でスタートしたのでしょうか。
石井: 2024年の夏頃にクリエイティブ制作会社と話していた中で、「1万人集めよう」という話が出ました。その後9月に入って選手と率直な意見交換を行ったところ、選手たちにも「お客さんにもっと来てほしい」「レジーナをもっと残していきたい」という強い思いがあることが分かったんです。
そこから本格的に1万人プロジェクトを開始しようと決めました。とにかくレジーナを認知させたい、盛り上げたい。何か強いインパクトを作りたいという思いで、1万人という明確な目標を設定したんです。そこから選手への落とし込みを開始し、「なぜ1万人を目指すのか」「レジーナはどういうチームなのか」といったことを、キャプテンと副キャプテンを中心に認識を合わせていく作業を進めました。
――石井さんはこれまでレジーナの担当をされていたのですか?
石井: 男女両チームのチケッティングやプロモーション全体を担当していましたが、今回プロジェクトリーダーに任命されるまで、女子チームの練習場に行ったことすらありませんでした。選手と会話したこともなく、まずは練習場に通い始めて、選手の雰囲気や性格を把握するところからスタートしたんです。
話し合いを重ねる中で、選手たちは「もっと見てほしい」という思いを強く持っていることが分かりました。女子サッカーが日本でなかなか人気が出ないことに対する課題感も強く、認知が足りないという問題意識をみんなが共有していました。ただ、どうしたらいいのか分からない空気感もありました。そこを変えていくことが重要だったんです。
――女子チームの現場には、ある種の諦めムードのようなものはあったのでしょうか。
石井: 以前のスタジアム(広島広域公園第一球技場)でプレーしていた時期は確かにありましたね。「頑張ってもそんなに認知度や人気は上がらないだろう」という雰囲気はありました。アクセスも良くなく、1,000人入れば良いレベルでしたから。ただ、街なかにスタジアムができたことで希望が見えてきたんです。
アクセスも良くなり、潜在的なファンがいることが分かってきました。前のスタジアムにはコアファンしか来ていませんでしたが、場所が良くなって多くの人が来やすくなった。男子の試合チケットが取れないから女子の試合を見に行こうという人も現れ始めました。「女子も面白い」「選手が親しみやすい」という評価も広がっていきました。
広島県には何百万人もの人口がいる中で、これまで数千人しか来場していなかったので、可能性は十分にあると感じていました。
「自由すぎる女王」──チームアイデンティティの明文化
――1万人を目指すと選手に伝えた時の反応はいかがでしたか?
石井: 最初はみんな「え、いけるの?」という反応でした。単純に普段の3倍の人数を集めることになりますから。前年度の最終戦で6,305人を集めたのですが、それも相当頑張った結果だったので、そこからさらに4,000人増やすのかという不安はあったと思います。
ただ、最終的に選手たちは「やるならやろう」という前向きな姿勢で、良い意味で軽い感じで取り組んでくれました。
――「自由すぎる女王」というキーワードはどこから生まれたのですか?
石井: レジーナはどういうチームかと聞かれても、私たちも選手も明確に答えられない状況でした。このプロジェクトをきっかけに「レジーナはこういうチームです」と言えるキーワードを作ることが重要だと考えました。
レジーナの選手は個性が強く、その個性が非常に輝いています。自由なプレースタイルが個性と魅力を生んでいる。それに「レジーナ」本来の意味である「女王」を合わせて「自由すぎる女王」というテーマ・キャラクターでアピールしていこうと提案しました。選手たちも「めっちゃいいですね」と、非常にしっくりきてくれました。
――ビジネスサイドのプロモーション協力依頼に現場サイドが難色を示すことはよく聞きますが、理解を得るのは大変でしたか?
石井: 現場サイドとは相当話し合いました。多少の議論にはなりましたが、最終的にはレジーナの歴史を作るため、今後のためにもこの活動が必要だという思いをしっかりと伝え、理解してもらいました。
シンプルに1万人という数字は、これまで達成したことのない数字です。これを達成すれば選手にとっても成功体験になり、キャリア的にもプラスになる。それによって話題性ができて、お客さんも入ってくるようになる。これを起点にしてチームが強くなれば、お客さんが増えていく良いサイクルが描けるという話をしました。
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