元フットサル日本代表・渡邉知晃は“はじめてのブラインドサッカー”で何を感じたのか?
ブラインドサッカーのクラブ日本一を決める大会「第19回アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権」の決勝が、東京フットボールセンター八王子藤森競技場で行なわれた。
元フットサル日本代表として活躍してきた渡邉知晃氏は、初めて見るブラインドサッカーに何を思ったのか。ピッチレベルで繰り広げられた日本最高峰の戦いを目の当たりにして、感じた率直な思いを綴ってもらった。
■クレジット
取材・文=渡邉知晃
写真=日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄
■目次
・キックオフから度肝を抜かれるプレーの連続
・見えていないことを忘れさせるパス回し
・感動と興奮が詰まった決勝戦
キックオフから度肝を抜かれるプレーの連続
今回、初めてブラインドサッカーの試合を観戦したが、実際に見るまでは目が見えない状態でサッカーをする想像ができなかった。私もサッカー、フットサルをプレーしていたからわかるが、フットボールにおいて目からの情報というのは非常に大事である。正直、サッカーが成り立つのか疑問だった。
そんな思いはキックオフ直後のワンプレー目で消え去った。
足に吸い付くような正確なボールコントロールで右サイドへと運び出し、ドリブルで3人を引き連れながら強烈なシュートを放ったのだ。惜しくもゴールとはならなかったが、まるで見えているかのようなプレーに度肝を抜かれた。
そのシーンを見て「なるほどな」と思った。サッカーやフットサルはドリブルで前進する時は基本的にアウトサイドを多用する。しかしブラインドサッカーのドリブルは、両足のインサイドで交互にタッチするインサイドタッチを多用している。視覚を奪われた状態だからこそ、常に足の近くでボールをコントロールし、ボールの位置を把握しておく必要があるのだろう。
そして驚かされたのが、球際の争いだ。お互いを認識できていない状態のため、選手同士の接触はかなりの危険が伴う。フィジカルコンタクトはあまりないものだと思っていた。その真逆で、ブラインドサッカーでは常に激しいフィジカルコンタクトが行なわれる。
特にサイドでの攻防。ブラインドサッカーではサイドに壁を設置して、ボールが外に出ないようになっている。サイドでは特に激しい攻防が繰り広げられ、時には3、4人が壁際でボールを奪うためにぶつかり合うこともあり、フィジカルの強さが必要だと感じた。
見えていないことを忘れさせるパス回し
攻撃面で特徴的だったのは、ゴールキーパースロー時のポジショニングだ。基本的に壁際の相手ゴールに近い位置に1人もしくは2人がポジションを取り、そこをめがけてスローを投げることが多かった。これは壁を利用することによって、自分が今いるポジションと相手ゴールの位置を把握しやすいということ、飛んできたボールが壁に当たることにより音が出るので、トラップがしやすいことが理由だろう。
ブラインドサッカーでは、ゴールキーパー以外は視界が遮られているので、フィールドプレーヤー間でパスを繋ぐことは難しい。しかしfree bird mejirodaiは、時折ゴールキーパーへのバックパスを駆使しながら攻撃を構築していた。
これは高い技術と空間認知能力が求められる非常に難しいプレーだ。ブラインドサッカーのゴールキーパーは、縦2m×横5.82mのゴールエリア内でしかプレーできない。バックパスがこのエリアから少しでもずれてしまえば、触ることができないのだ。
ボールを持っているプレーヤーが自分の立ち位置を把握し、声を頼りにゴールキーパーの位置を把握し、正確にパスを出さないといけない難しいプレーだが、free birdの選手はこれを多用していた。視覚以外の感覚が研ぎ澄まされている証拠であり、トレーニングの賜物だ。
そして、試合をする上で欠かせない大事なものは“声”だ。味方同士の声かけはもちろんだが、目が見える監督、ゴールキーパー、ガイドの3人の声かけは特に重要。ボールの位置、味方の位置、相手の状況、ゴールの位置、ディフェンス時の立ち位置などを知らせる3人からの声は試合の結果を左右するポイントとなる。試合を通して、視覚以外の情報である声でのコミュニケーションは一番重要なものだと言っても過言ではないだろう。
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