日本総研が目指す、「サッカーから始まるまちづくり」とは?【JFAパートナー企画 #5】
グラウンドを作るのは「地域のため」
東:日本は、ヨーロッパなどに比べると圧倒的に芝生の面積が少ないです。育成時代に土でプレーすると、将来に影響が及びます。日本人のラグビー選手がパスをする際に足場を気にして手元に目がいき、相手を見れていないことが問題視されていますが、これは一例です。環境づくりに力を入れて支援していきたいと考えています。
あとは、単純にグラウンド数も少ないですよね。施設予約システムに登録してわざわざ予約する必要があったり、朝早くから抽選に並んで確保する必要があったりします。あるJクラブからは、スクール事業のために抽選に並んだ結果とれなかった、という話を聞いたことがあります。また別のJクラブでも子供向けのスクールをやろうとしたけど、抽選に外れてグラウンドがなくなり中止したこともあったようです。活動場所の確保は、多くのスポーツ団体が頭を悩ませていることだと思います。
公園やスポーツ施設などは、「与えられるもの」だと思っている方がほとんどなんです。公園然りスポーツ施設然り、自治体や行政が“準備してくれる”ところをお金を払って使うという認識ですよね。
そこでJFAさんと一緒に新たな発想を提案します。グラウンドや芝生環境を作りにいく活動をしよう、と。この活動を支援するためのガイドブック作成に取り組んでいます。
ガイドブックでは、グラウンド改修・新設の動きを4つのパターンに分け、
交渉〜事業計画までの動きを解説している
<出典:「サッカー場づくりの動きかたガイドブック」>
東:東京都板橋区では、小学生が「サッカーができる公園がない」と区議会に陳情を出した実例があります。その動きがどんどん大きくなって、最終的に公園ができたんですよね。
スポーツ基本法にも明記されている通りで、我々国民は誰もがスポーツをする権利を持っています。権利を行使するために、責任ある行動をすることが重要です。行政が作る側、市民は使わせてもらう側という決まりきった構図を壊していかなければ、スポーツ環境は変わっていかないと思います。
佐藤:ただ嘆願書を出すのではなく、ガイドブックでは市民と行政が一緒になってサッカーグラウンドを作っていくことを大切にしています。“ただの”サッカーグラウンドではなく、地域にとってどのような価値があるのかをしっかり吟味し、デザインしていくことが大切です。例えば、サッカーグラウンドがあることで地域の防災機能が高まるかもしれません。あるいは、人が集まることで経済活性化に繋がったり、健康づくりの教室を開くことで高齢者の健康度が上がる可能性もあるでしょう。グラウンドの裏側にあるまちづくりの価値を明確にして対話していく。この考え方を重要視してガイドブックを設計しています。
自分たちのまちを市民自ら声をあげて作っていくのは、市民のあるべき姿だと思います。日本が取り戻さないといけない部分だと感じています。こういった流れをガイドブックから作りたいと思っています。
東:行政は、公平性を重視して判断します。「サッカーのために」行政が動くことはほとんどないです。「地域のために」グラウンドを作るんです、とアピールする必要があります。
佐藤:本来、各地でガイドブックのワークショップや、実際の行政との交渉に同行する活動を予定していました。ですが、コロナの影響で中止になってしまいました。代わりにオンラインでのワークショップを実施していて、JクラブやWEリーグクラブ、その他多くの関係者などが、私達の活動に興味を示していただいています。コロナ禍が明けたら、リアルで対話しながら一緒にグラウンドを作っていく活動もしていきたいです。
今後は、ガイドブックを参考に進め実際に完成した施設事例を出すことが目標です。モデル事例が出てくると、さらに広がっていくのではないかと期待しています。
すでにガイドブックとは関係なく動いているところもあるので、どう仕掛けていったのかや難しかったところなど、事例としてガイドブックに入れ込んでいく予定です。
社会課題解決にスポーツが果たす役割は大きいと思います。まだまだ可能性を活かしきれていないのです。JFAさんと、皆さんと一緒に、社会を変えていきたいと思っています。
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