遠山健太が挑む、トレーナーの育成と地位向上。

【前編】はこちら

タレントを「発掘」することが果たして本当に正しいのか

-今回板橋区に新しく、子供達に運動指導をするためのジムを立ち上げられることになった経緯を教えてください。

トレーナーとして10年以上活動してきて、様々な出会いがありました。その人脈を使って、何かできないか考えた中で、今回治療できる場所と、運動できる場所が一体となった施設をつくることにしました。

いろいろな人に自分の施設を持つのはリスクがあると言われましたが、実際に「箱」を持つことによってできることもあると思い、思い切って始めることにしたというわけです。

-施設は広くて、のびのび子供達が運動できそうですね。

でも実は接骨院の部屋を造るより、芝と空調に一番お金がかかったんですよ。特に芝は柔らかいものを用意しました。子供達がここで跳ねたりして遊べる環境がいいと思ったからです。

接骨院

接骨院

-競技力向上に向けて、スポーツエリートを早い段階から育てるということですね。

ただ、私はこのタレント「発掘」という言葉が好きではありません。中国ならあれだけの人口がいるわけですから、優秀な人材を発掘するというのも分かります。しかし日本はそもそもスポーツ人口も少ないですし、競技の人気も偏っています。その中で「発掘」するということが果たして正しいのか、私には疑問に思えてきました。まずは競技者を増やさなければ発掘に繋がらないわけで、そのためにはどうしたらいいか、ということを考えると運動好きな子供を増やす必要があると思うようになっていきました。

-だから、それに関連した本を出されたりしたわけですね。

私は大学も元々教育学部で、アメリカで小学校の教員免許も取得していましたから、この分野については比較的スムーズに入っていけました。

そして1冊目に出した「スポーツ子育て論」を読んで頂いていた学研パブリッシングさんから声がかかり、そういった幼児体育教育のプログラムを開発して欲しいということで、「リトルアスリートクラブ」というプログラムを作成しました。そのプログラムを取り入れている施設にうちの会社から指導者を派遣しています。具体的には桐杏学園という学習塾で受験対策の体操や、クランテテという保育所で体育指導を行っています。

-受験科目に体育があるんですね。

有名な大学の附属学校や進学校には大抵入っています。その体育の指導をリトルアスリートクラブとしてやらせて頂いています。

あとは今後は学校教育にもっと入っていきたいと考えています。小学校には跳び箱、縄跳び、鉄棒、マットという4大体育種目というものが存在しています。それに加えて季節に応じて、持久走、水泳もありますよね。

我々が小学生の時を思い出してみると分かりますが、これらの種目ができる子というのはクラスのヒーロー的存在になれます。反面、できなければ冷やかしの対象になります。でも子供に責任はありません。小さな頃からそういった動きをしていなかっただけの場合もありますし、外で遊んでいればできるようになるものであっても、親がそういう環境を与えていなかっただけかもしれません。

-確かに活発に外で遊ぶ子はみんな何でもうまくやりますね。

そして子供にとって一番大事な時期を過ごす小学校には体育専任の先生がいることが少ないです。体育が得意でない先生はうまく教えられないということになります。つまり小学生の運動能力は担任の先生で決まってしまうことになるケースもあると考えられるんです。もしかしたらこういう状況が子供の低体力化を招いているのではないか、と私は考えました。小学校低学年で体育に対して苦手意識を持つとどんどんやらなくなっていきますからね。

今は地域によりますが、小学校には専任の先生というのは2人までしか置けないことになっています。大抵の学校は音楽と家庭科、もしくは図工の先生で、体育の先生がいるのはかなりのレアケースです。

-小学校で体育専任の先生はなかなか聞きません。

小学校体育の現状を目の当たりにして、まずは体育の指導をしっかりできる、そしてグループ指導が上手に出来る指導者の育成を考えました。現場では子ども達同士での譲り合いの精神や挨拶の部分まで教えられることも大事です。現在は指導者育成のための一般社団法人「子ども運動指導技能協会」を立ち上げ、豊島区の教育委員会とも一緒に仕事をさせて頂いています。専門の指導者を小学校に入れて体育の授業をする取り組みを行っています。子ども達だけではなく、先生方にも感謝されることがとても嬉しいですね。

-子供にパーソナルトレーナーを依頼する場合、親の要望はやはり運動能力を人一倍向上させてほしいという要望が多いのでしょうか?

本来であればバク転や空中逆上がり、二重跳びやはやぶさをできるようにしてほしい、と言いそうですよね。でも親の要望は違うことが多いです。クラスで平均的にしてほしい、というのが現状です。理由はうまく出来ないと冷やかしの対象になるからです。子どもがある程度までできるようにすることを望まれているので、トレーナーとしてはやりがいのない要望だったりしますが(笑)

今はいわゆる「お受験」のための体育指導というものもあります。受験科目に体育が入っている学校では例えば四つん這いで歩かせる「くま歩き」やスキップの他、ただ遊ばせているのを観察したりして、点数を付けたりするところもあるようで、集団内での行動を見るとことが目的だそうです。

遠山4

トレーナーが活躍できる場を増やしていきたい

-遠山さんがトレーナーとして得意なことや、その分野を教えてください。

将来性豊かなトレーナーになりそうかどうかを見極るということはできるようになってきました。うちが人を採用する時には早い段階で私が面接をします。その前のハードルとしては作文を書いてもらっています。うちの求人票は「今後トレーナーにはどんな資質が求められますか」といった内容の質問が1つ書いてあって、それに対して文章を手書きで書くことになっています。書いてある内容でだいたい人間性を掴むことができます。その上で面接をするのですが、基本的に相手に話させやすい内容を聞いています。今さら自分に何ができるのか、というようなアピールを聞くことよりも、その人がどういう人生を送ってきたのか、という事に興味を持っています。

-緊張してしまって、その人の素が出せずに終わってしまうのはもったいないですよね。

この仕事はある程度自分が売れるようになるまで、我慢しないといけない期間があります。その我慢ができるのか否かを判断するような質問を散りばめるようにはしています。

トレーナーとしての得意分野はベーシックストレングスと呼ばれる、ウェイトトレーニングの基礎を指導することです。

-特にトレーナーという個人で活躍していく必要があるような仕事は自分を売り込めるようになるまで時間が必要ですね。

我慢できるかどうかというのは、その人が育ってきた家庭環境などに大きく左右されるので、家族の話はよく話題に出します。特に自分で物事を決めてきたかどうか、というのは重要です。何をするにも自分の意思を持ってやってきた人は信頼できると感じています。

ただ、基準を満たせば割とスムーズに受け入れるようにしています。問題は辞める時で、どれだけ手厚いケアをしてあげられるのかは考えたいところです。スタッフが職場を辞める時、「辞めたいなら辞めれば?」といった、ドライな考え方をする企業もあるようですが、特に繋がりで成り立っている部分も大きい業界ですので、辞め方にもよりますが、いつかは戻ってきてほしいという願いを込めて送り出したいですね。実際にそれで戻ってきてくれる人もいました。

遠山健太

-今後の目標を教えてください。

施設を都道府県に1つずつ、47ヶ所作りたいです。アスリートとしての場ではなく、一般の人や頑張ってきたトレーナーや指導者が管理能力を身に付け、運営をするという場所を増やしていきたいです。そうしてトレーナーの活躍の場をたくさん作っていければと考えています。活躍する人が増えれば、トレーナー自体の地位の向上にも繋がりますし、そういった人達が自分の施設をつくって運営するようになっていけばまたそこで人を育てることができて、いい循環を生み出すことができます。

-そもそもまだトレーナーという仕事がどういったものか知らない人も多いと思います。

まだ世間の人からするとトレーナー=マッサージをする人というイメージが強いようです。実際そういう方もいらっしゃいますが、それだけではないんですよね。そのイメージを変えたいです。いずれは国家資格にもなってほしいですが、まずは我々が社会的地位や認知度の向上に貢献していきたいですね。

関連記事