フローラン・ダバディは、なぜテニスの世界に飛び込んだのか?
誰もがローラン・ギャロスの赤土に魅了される
フランスでは自転車が国技です。サッカーとラグビーも大変人気にもなったけれど、南西の方がラグビーの国であり、中部、パリ、北部はサッカーです。地理的に分かれているかなという気がします。自転車に関してはツール・ド・フランスの開催時期である7月の3週間、“国が止まる”と言って良いほどの人気があります。
テニスに関しては主に全仏オープン「ローラン・ギャロス」が人気ですよね。フランスが誇るスポーツの大イベントですよ。サッカーで言うと、毎年ユーロを開催しているみたいなものでしょうか。国営テレビ局(日本で言うNHK)が大会期間中の朝11時から夜の19時まで毎日、2週間連日生放送をしてきました。今は半分になりました。朝の11時から15時までケーブルテレビで放映され、15時以降は国営テレビに移ります。
ユーロが開催されるのは20年に1度ぐらい。ローラン・ギャロスは毎年ありますからね。フランス人はローラン・ギャロスの赤土に誇りを持っています。世界中のどの赤土よりも美しいからです。赤土の色みを出すために研究が重ねられており、様々なレンガのブレンディングをするのですが、その作り方は誰にも明かしていないんです。
ローラン・ギャロスの1番の宝はこのレッドクレーです。国宝ですよ(笑)。選手もあの美しさに魅了されるはずです。スライディングも“すーっ”と行けるのでね、僕はよく雪に例えるのです。外国人が日本の長野やニセコに来ると雪の綺麗さに感動するんですよ。それと同じ感覚です。ローラン・ギャロスのレッドクレーは雪のようにきれい。それが最大のブランド力かなと思いますね。
ダバディ氏が見た日本テニス界
日本のテニス人気は錦織選手のおかげでだいぶ変わったと思うんですけど、文化面ではまだまだかなと痛感します。錦織選手を見てプレーしたい!と思ってもコートが少ないとか、あるにしても人工芝のコートが多いのです。人工芝のコートは年配の方に優しいし、雨が多い日本列島ではすぐ乾くので経営者にとっても便利ですが、そればかりですと本当の若手は育たないのです。諸刃の剣と思いますね。
レッドクレーと天然芝も増やしていかなければいけないと思いますし、人工芝より人工クレーが絶対にいいのです。あとは中体連さんとの話し合いも絶対に必要ですね。学校では軟式がメインとなってしまっている時期があるのですが、第二の錦織は育ちません。
この2つが、僕が思うテニスが普及しない理由ですね。人工芝のコートが多いし、『テニスって面白いね!』と思った子供が中学に行ったら軟式しかできないのです。そうなったらそこの3年間で情熱が失われてしまうかもしれませんし、技術的にもキャッチアップできません。他のスポーツに行ってしまう。今は日本テニス協会が一生懸命動いて中体連の皆様に話を進めていらっしゃるみたいですけど、この連動がしっかりしないと難しいですよね。あとは東京五輪で日本の選手がメダルを取るかどうかは重要です。そうすると、上記の二つの構造改革に拍車がかかる、そう思います。
僕はこの2月~3月にかけて行われた「全仏オープン・ジュニア ワイルドカード選手権大会 in partnership with LONGINES 日本予選」に関わって2年目で、今は事務局もやっています。その中で、フランスの文化であるローラン・ギャロスとレッドクレーを日本で広めていきたいと思っています。それの楽しさを伝え、フランス人と日本人が一緒に何かプロジェクトを作っていき、その結果として何が起こるかも見てみたいです。
僕自身20年も日本にいて同胞のフランス人と仕事をしたことがなかったから、少しフランス人と一緒に仕事をしてみたいな、と思ったんですよ(笑)。フランステニス連盟もクレーコートを日本で広めたい、ローラン・ギャロスのネームバリューを高めたいという思いがあるので、それを手伝っていければなと思っています。
ジュニア世代からクレーを価値あるものに
まだこの「全仏オープン・ジュニア ワイルドカード選手権大会 in partnership with LONGINES 日本予選」が始まって日は浅いですし、今回が成功したとして次の年に何ができるか、ということが重要ですよね。フランスも世界中のマーケットを結果で見ると思うんです。そういう意味では錦織くんがローラン・ギャロスでどれだけ頑張って結果を出せるのか、それ以外で活躍する選手が出てくるのか、というのはすごく重要ですよね。
また、東京五輪でテニスコートを増やすことができるのか(人工芝以外の人工クレーコートも作れるのか)というところを見て、フランステニス連盟は日本がさらなる投資に値するのかという判断を下すと思います。
滝川クリステルさんがローラン・ギャロスのアンバサダー(日本親善大使)になっていますが、頼もしい限りです。ただ、サッカーみたくどこかで大事な選手が抜けた時にチームが崩壊する可能性はありますよね。ですから、気は抜けないです。フランステニス連盟の会長が今年で変わったのですが、どれだけ海外に投資をしてこのような大会を大事にしてくれるか、ということは常に考えなければいけないですね。
日本でも、ジュニア世代でクレーの育成を大事にしてほしいですね。例えばフランスに行きたいとかセルビアに行きたいとか、スペインに行きたいとか、そう思う子が増えれば良いなと心から願います。この「全仏オープン・ジュニア ワイルドカード選手権大会 in partnership with LONGINES 日本予選」を通じて、幼い頃からレッドクレーでプレーする選手が増え、将来的に彼ら彼女らがローラン・ギャロスで輝くのです。こういうサイクルを作りたいなと思います。
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