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井本直歩子が難民支援で感じた、スポーツのチカラ。競泳選手からユニセフへ

井本直歩子(いもと・なおこ)氏。1996年アトランタ五輪では競泳日本代表として出場するなど、数々の実績を残したスイマーです。現役引退後はインストラクターやスポーツライターを経て、紛争・自然災害下の発展途上国における教育支援の道を歩んでいます。

現在は、ギリシャで難民の子どもたちの教育に従事。2019年12月には、これまでの功績が認められ「HEROs AWARD」を受賞しました。

競泳の第一線で活躍していた彼女は、なぜ現役中から途上国支援に関心を抱いたのでしょうか?

憧れの人物はマザー・テレサ。変わった子どもでした。

途上国支援に興味を持ったのは、競泳選手として国際大会に出場したことがきっかけでした。

私は中学2年生から国際大会に毎年出ていましたが、自分の試合がない日はチームメイトを応援しながら何気なくレースを見続けていました。そこに途上国の選手たちも出場していたので、「こういう国があるんだな」と国旗を覚えたり、どこにある国なのか調べたり。

タイムが遅い選手を見ると、「環境が整っていないからでは」と考えを巡らせていたり。ある国を指導していたコーチからは、練習するためのプールが使えなかったという話を聞きました。選手村では、お菓子を沢山食べている選手たちを見て、「いつもは食べ物がないのかな」「レースに備える栄養の知識がないのかな」と考えたり。

そんな選手に触れるたび、自分は恵まれていることをひしひしと感じました。大会に出るたびに水着やジャージ、靴、スーツケースなどの試供品をいただいていました。大会後にはお土産を買うので、スーツケースに入りきらなくて、せっかく頂いたものを置いていったことも。「なぜ、国によってこんな違いがあるのか」と感じることが増え、貧困問題に興味を持つようになったんです。

日本人選手は、アメリカやオーストラリアなど強豪国の選手と試合後にジャージを交換することが多かったです。私は、そういった国の選手に加え、パプア・ニューギニアやマカオなど強豪とはいえない国の選手とも交換しました。周りの選手に「いいでしょ」と自慢げに言っていましたね(笑)。

競泳メディアに憧れの人を聞かれると、「マザー・テレサ」と答えていました。本当に変わっていたと思います。

スポーツ選手は、子どもに夢を見せられる。

紛争を知ったのは、1994年、私が高校3年時に発生したルワンダ大虐殺の影響が大きかったです。

毎日、新聞をチェックしていました。残虐極まりない行為が大規模で行なわれていて、信じられない気持ちでいっぱいで。自分が平和な日本で新聞を読んでいる間にも、世界のどこかで殺戮が起こっている。

同じ頃、旧ユーゴスラビアの紛争も起きていて、競泳の大先輩である長崎宏子さんから、当時のボスニア・ヘルツェゴヴィナに絡んだ活動のお話を聞きました。

中学で英語を習い始めてからは、国際大会で海外のコーチと話をする機会もありました。高校3年時には、大学の願書に「ルワンダの紛争に興味を持ち、将来は紛争の仲裁をしたい」と書いていて。慶應義塾大の面接でも、そのことを話しましたね。

慶大在学中に、子どもの頃からの夢だったオリンピックに出場できました。残念ながら800メートルリレーは4位で、あと一歩でメダル逃しました。個人種目も納得のいく成績ではなかったため、現役続行を決めて、米・サザンメソジスト大学に留学しました。

サザンメソジスト大卒業後、シドニー五輪の選考会があり、選考に漏れましたが、出し切ったと思いが強く、悔いはありませんでしたね。

帰国して慶大を卒業してからは、イギリスのマンチェスター大学大学院に留学。大学院を卒業後は国際協力機構(JICA)のインターンとしてガーナに赴任し、JICA企画調査員というポストを頂いてシエラレオネ、ケニア、ルワンダを回りました。

シエラレオネにいた時、国内の内戦を描いた「ブラッド・ダイヤモンド」という映画がちょうど公開されて。「ホテル・ルワンダ」などもそうでしたが、このような作品をきっかけに国際事情がもっと知られれば良いなと思います。

映画だけでなく、スポーツにも大きな力があります。子どもはスポーツをやりたくてしかたないので、教育プログラムにも必ずスポーツを入れています。学校の休み時間を多くして、心のケアの一環としてスポーツを楽しんでもらう。今までそういった機会を奪われてきた子どもたちですから。

2019年8月には長谷部誠さん(サッカー元日本代表)が、私たちが教育プログラムを展開しているギリシャ難民キャンプに来て下さいました。プロの選手とサッカーができて、子どもたちは大はしゃぎ。私も競泳を教え、そこから国際大会に出るようになった子がいます。スポーツ選手は、子どもたちに夢を見せることができるんです。

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