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ラグビー『カンタベリーオブニュージーランド_日本代表チーム2019ジャージ(前編)』

4年前の南アフリカ戦でのジャイアントキリングをはるかに上まわる、感動と興奮を日本中に届けてくれたラグビーワールドカップ。そして躍動した日本チームのジャージは雄々しく、誇り高く輝いていた。この最新の桜のジャージには世界で勝つために、とことん選手に寄り添うことで生まれたこだわりが込められている。

このジャージを手がけたのはカンタベリーオブニュージーランド。1904年に創業したラグビーに源流をもつ老舗ブランドだ。1924年にはオールブラックスのジャージを手がけ、1997年以来、日本代表チームのオフィシャルサプライヤーとなっている。ニュージーランドの国鳥であるキウイをかたどった「CCC」のロゴはおなじみだ。

日本代表ジャージの開発総責任者であるカンタベリーオブニュージーランドジャパンの石塚正行さんの目標は、世界で勝つという崇高なものであったが、同時にラグビーならではの精神性にも行く着くことになった。

それぞれのポジションで求められる機能を追求して、2015大会ではフォワード、バックスでシルエットの異なる2種類のジャージを準備したが、今回はフォワード用をフロントロウとセカンドロウ・バックロウ用でふたつに分け、バックス用と合わせて3種類を用意した。さらに個々の機能性を高めるため、ベースになる素材もフォワードとバックスで分けるという画期的なチャレンジにも取り組んでいる。

だがそのコンセプトの背景を石塚さんはこう説明する。

「ポジションに応じたジャージによって、勝利するために、選手が最高のパフォーマンスを発揮できるようにしたい。ですがもっとさかのぼれば、ラグビーの精神やルールを記したラグビー憲章に書かれている、“ラグビーには様々な種類のスキルや身体的要件が求められるが、そのことが、あらゆる体形、体格、そして、能力を持つ人に参加する機会を与えている。”という考え方が反映されていると思っています。そのためにはどんなジャージが求められるのか、ジャージにもラグビーならではの精神性が込められていますね」

まず2015年の前回大会ジャージをベンチマークにして、基本機能である耐久性、軽量性、運動性、快適性を向上させることを目標に掲げた。選手たちへの度重なるモニタリング、ときには富山にある研究施設まで、3Dスキャンをするために選手に足を運んでもらったという。

先に記した4つの機能性はテクニカルなスポーツウエアであれば欠かせないファクターだ。しかしラグビーは、あの大男たちがコンタクトするスポーツ。とりわけ耐久性のウェイトが高い。「これだけ耐久性が求められるウエアは…、柔道くらいですかね」と石塚さんは笑う。だが道着にはしっかりとした質感があるが、現代のラグビージャージは、昔とは違って薄く繊細である。

耐久性を高めようとすれば、生地は厚く、重くなる。だがそれは当然、軽量化の妨げとなる。また快適性の大きな要素となる、汗冷えや汗によるベタつきを抑えてドライな着心地を保つ速乾性も、生地は薄いことが前提とされる。つまりまったく相反する特性を満たさなくてはならないというのが大きなタスクとなった。そこでそれらを両立させるためにジャージを3種類製作して、素材や製法もそれぞれ変えることを考えたという。

たとえば激しいコンタクトがあるフォワードのフロントロウ用(上の画像左)は強いプレッシャーに負けない耐久性や、接触したとき体を守ってくれるプロテクターのような感覚を重視した。そのため経編みの新たな素材を採用して、クルマのシートやスニーカーに用いられるようなメッシュ風のスポンジのような素材を参考に開発を進めた。これにより軽量でありながら耐久性を高め、カサのある質感が体を守るようなホールド感を生んだ。

さらにポジション柄、上半身が発達した体型に合わせたシルエットにも工夫を加えた。これまでは素材をカットして、ダーツを入れることで立体的なフォルムを作り上げてきたが、今回はダーツではなく胸部の容量をカバーする、プラスティック加工のような3Dプリンターを用いた立体成型を採用。これによって裂けることなく、ダーツの縫い目も気にならないジャージができあがった。ただ本来は硬い素材を加工する成型法なので、伸縮性のある布で行うのは容易ではなかったという。

同様にセカンドロウ・バックロウ用(上の画像中央)は、フロントロウとは異なった耐久性、軽量性、ホールド感のベストバランス、体重と身長双方が求められるポジションにふさわしいシルエットが求められた。またバックス用(上の画像右)はフィールドを縦横に走りぬけるための軽量性や伸縮性を重視。そのためにフォワードとは違う、丸編みの新たな素材を使用した。

「和歌山と福井の生地メーカーに通い、編み機の前で直に職人さんと意見を交わしました。約2年間、50種類にものぼる素材をテストしたでしょうか。まさにオールジャパンの技術力で生まれた最強のジャージです」と石塚さんは語る。

そして結果は現れた。JIS基準やISO基準、さらに独自にラグビー用に設定した基準に基づく検査の数値は、フォワード用、バックス用のジャージとも、耐久性、軽量性、運動性、快適性すべてにおいて、2015年ジャージを上まわった。

こうして生まれたジャージには、より具体的にプレーをサポートするための工夫、さらに日本チームのスピリッツを具現化したデザインも用意された。次回はそれらを紹介する。

※後編はコチラ!

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