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【新時代サッカー育成対談】幸野健一×カレン・ロバート|「元Jリーガー経営者はなぜグラウンドを作るのか?」|後編

UPDATE 2021/10/09

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掲載協力・WHITE BOARD SPORTS


■登壇者
幸野健一|プレミアリーグU-11実行委員長/FC市川GUNNERS代表/サッカーコンサルタント
・カレン・ロバート|房総ローヴァーズ木更津FC代表

■ファシリテーター
北健一郎|サッカーライター/ホワイトボードスポーツ編集長


サッカー人口を増やすためにグラウンドの数を増やす

──みなさんもグラウンドを作る際には、ぜひ参考にしてください。参加されている方のなかには、保護者の方も多いと思います。実際に子どもが、どういった環境でプレーしているかもすごく重要だと聞きます。

カレン グラウンドは広い方が良いですね。フットサルコートの大きさで、多いときには30人で練習することがあります。小学校低学年ならば仕方ない部分もあります。技術的な練習が多い中学生も、狭い場所でプレーしているので、そこは日本全体の課題だと思っています。

日本の選手は、海外の選手と比べるとキックの技術は高くない。それはボールを蹴る機会やシュートを打つ機会があまりにも少ないからです。足元は長けていますが、そこも海外の基準で見るとそこまで技術があるわけではない。キック力、ダイナミックさ、競り合い、テクニックなど、総合的に長けてないと、海外で通用する選手は生まれてこないと感じますね。

幸野 全く同じ意見で、日本ではサッカースクールと呼ばれていますが、そのほとんどがフットサルスクール。そもそもプレーしているグラウンドの多くがフットサル場です。そういうスクールの子が、私のスクールに来ると視野が極端に狭い。10mほどしか見えていないので、逆サイドにボールをけることができない。

普段から小さなスケールでやっていると足元の技術は美味いですが、大きなスケールになったときにプレーができない。長いボールを蹴ることができません。日本だと、フットサル場でサッカーをやっている子どもたちが多いと思います。私は、広いピッチでしっかりと“サッカー”というものを教えたいと思っています。できれば、サッカーは広い場所でやらせてあげたいですね。

──さっきボビさんが「広いグラウンドのほうがいいですよ」と言っていたのは、すごくざっくりしているなと思いましたが、これほど深い意味があったんですね。

幸野 ボビの補足したから(笑)。

カレン ありがとうございます(笑)。その話に通ずるのですが、最近はJリーグや日本代表でプレースキッカーが減っていると思います。昔はプレースキッカーといえば、中村俊輔さんなどがいました。でも今はそういう選手がいなくて、今のサッカー環境がそうさせているのかなと感じます。

実際の相互関係は分かりませんが、やっぱり正式なグラウンドサイズでシュート練習やフリーキックの練習をする機会を増やしてあげたいなと思っています。昔は、中学校の部活でやっていましたが、今はクラブでプレーする子どもたちが多い。街のクラブだと、フットサルコートでいろいろな学年の選手が入り混じって練習しています。中学生以上は、中学生以上でやらせる。そのためにグラウンドを広くしていきたいですね。

──東京に住んでいると、サッカーが思いっきりできるようなグラウンドや公園は多くありません。大きい公園でもボール遊び禁止がほとんど。サッカーをやりたいならスクールに通うしかないですが、ケンさんがおっしゃるように、小さなフットサルコートでプレーします。小さいコートのプレーはいい面がありつつも、ロングボールを蹴る機会はなく、それがキック力の低下に繋がる。これは難しい問題ですね。

幸野 実際にどれくらいグラウンドが足りていないか千葉県を例にすると、グラウンドがある市川市は人口が47万人。照明が付いているフルコートのピッチは私のところだけで、照明がないグランドがもう1つあるだけです。47万人に対してグラウンドは2つだけ。隣の船橋市も人口60万人に対して2個なので、合わせて100万人に4個しかない。これは本当に少ない。

しかし海外だと、市川市とほぼ同じ48万人のルクセンブルグは100個以上のグラウンドがあります。ヨーロッパでは、これが普通です。そこに追いつくのは無理だとしても、日本のサッカーが強くなるためには競技者人口比率っていう数字をあげなければいけない。

FIFAランキングベスト10の国は競技者人口比率が6%以上あります。日本は3.8%しかない。そして日本は、この50年間でベスト10入りをしたことがありません。でも日本が目指しているのはベスト10。そのためには、全てのカテゴリーのサッカー選手人口を倍にしないと足りない。

そこのボトルネックは何かといえば、ただでさえ足りないグラウンドです。競技人口を増やすためには、グラウンドの数も倍にしなければいけない。

例えば「今サッカーやりたいね。じゃあサッカースタジアムを借りよう」となっても、一般の方がすぐに借りられるスタジアムはありません。特に首都圏では、サッカーをしたくてもできない。だからこそグラウンドを作ることが、喫緊の課題です。新設のグラウンドができれば一番いいですが、既存のグラウンドの有効利用化でもいい。

私はグラウンドマニアなので、車で走っていると日曜日なのに昼間に使われていないグラウンドを見つけて、なかに入ってみます。色々と調べてみると、効率が悪いグラウンドが結構あります。

──死んでいるグラウンド?

幸野 そうです。東京都でも小学校に照明がついていない区があります。そこを改善し、昼間は子どもたちが使って、夜は大人が使う。グラウンドを有効活用することが大事で、あらゆる手段をくしして、利用できるグラウンドが増えると、サッカー人口の増加にも繋がるはずです。

──なるほど。ボビさんも同じような思いがあって、日本ではあまり浸透していない“”グラウンドを作ることに挑戦しようと思ったのですか?

カレン いや、僕はそこまで大きなスケールではありませんでした。全ては千葉県への恩返しから始まっています。育ててくれた千葉県のためにやっていきたい。まずは自分が手の届く範囲の、千葉県のサッカー環境をよくするために、グラウンドを作っています。

──最近も新しいプロジェクトを発表されましたよね?

カレン フットサルコート2面と、繋げて広く使うことが可能なフットサルコート3面を印旛郡栄町に作っています。僕は、都市部や人が多い地域にグラウンドを作るよりも、マンションや家を建てた方が経済的だと思っています。一方で、人が減っている地域にはチャンスがある。

人が減って、街自体も困っていますし、市としても何かしなければいけないと思っています。そこにこういうグラウンドを作ることで、人がくるようになります。街や市の活性化につながりますと説得できる。市外や県外から人がくるようになったという例を作ることができれば、サッカーを知らない行政の方や企業の方を説得しやすくなります。

そういった良い事例をこの千葉県で作って、千葉県から発信していけたらなと思って、リスクを背負ってやっています。

サッカー×福祉の新しいビジネスモデル

──さらに福祉×サッカーで、高齢者の方の住宅横にフットサル場を作る計画が進んでいます。ただ、高齢者の方はあんまりフットサルをプレーしないと思うのですが。

カレン ここは「観る」ですね。子どもたちがサッカーを楽しんで喜んでいる姿を高齢者の方に見てもらう。

福祉施設の課題は、病院のような施設が多い。スポンサーさんはそういうイメージを変えたい考えがあって、「ここに住みたい」と思ってもらえる場所を作りたいと。実際に施設内は食堂や部屋も綺麗です。大きな窓の外を見ると、人工芝の綺麗なグラウンドがある。そういう形を作っています。まだ完成はしていないですが、いい例になると確信しています。

──高齢者施設と保育園が一緒になってるってケースが増えているみたいですね。

カレン 超高齢化社会になってますし、今後10年は高齢者の方々が経済のメイン。彼らに楽しんでもらえ流ように、孫が遊びにきやすい環境を作った方がいいと思ってます。イギリスでも、老人ホームが併設されているグラウンドグランドがあります。週末になれば息子や娘が来て、一緒に試合を見て帰る。そういった事例を聞いているので、日本でも同じような環境を作っていけたらなと思っています。

──ケンさん、ボビさんがTwitterで「幅広い世代の人たちが交流できる施設にしていきマウス」っていう…。なんか、こう…(笑)。

幸野 ボビはチャラいけど、やっていることはすごいよ(笑)。福祉とサッカーについては私もずっと考えていました。私の場合は、巨大なスーパーとサッカー場、福祉施設、幼稚園などを組み合わせるものを考えています。一足先にボビがやっているのを見ると、私も刺激を受けますね。

自治体としても、サッカー場を作るだけじゃなくて、そこに高齢者施設をセットにすることで社会的な意義を感じやすくなる。経済的に成り立つのであれば非常に素晴らしいことです。これがうまくいけば、日本中の事例になるっていう楽しみもありますね。

例えばサッカー場にクラブハウスがあると、子どもたちだけでなく年配の人たちも来るようになる。今の子どもたちは、他のおじいちゃんやおばあちゃんに接触する機会があまりない。海外では、多くの世代が交流する場所としてサッカー場やクラブハウスが存在しています。そこでビールを飲みながら、子どもたちの試合を観戦する。

地域の人たちが集まれる場所は、高齢化社会となった今の日本で一番必要なもの。そのハブとなる施設が必要で、その答えがサッカー場、サッカークラブ、クラブハウスだと思います。そういう機能を提供できれば非常に価値があると思うし、自治体や市民の皆さんの理解を得られることになると思います。しっかりと組み立てて提供できれば、日本中にこの価値を広めることになっていいなと思いますね。

──すごいイノベーションだと思います。先ほど、ケンさんとボビさんは、サッカー場はサッカーしかできないため、お金を稼ぐには非効率的だとお話しされていました。しかしサッカー場で、世代の違いを繋ぐなど人々の活力を与える場所に再定義する。きっとケンさんとボビさんは、そうしているのかなと思います。これってカンブリア宮殿とか、FOOT×BRAINとかは、絶対に取材した方がいいですね。

カレン まだ出たことないですし、テレビは苦手です(笑)。

幸野 私は3月13日のFOOT×BRAIN出て、ボビの宣伝しといたよ。

カレン 本当ですか!

幸野 いや、テレビの中では言ってないけど。

カレン いや、言ってくださいよ!

幸野 だってテーマが違ったから(笑)。でも我々がやってることは、結構大変なこと。日本サッカーの足りない部分は、いろいろあるけれど、まずは施設だと思う。施設さえあれば色んなことができる。

場所がなければ本当に大変で、このコロナで自前のグラウンドがないところはさらに大変。私のグラウンドは、困っているクラブに貸しています。だからこそ、僕らが一生懸命に作っていることを多くの人に知って欲しい。もっとグラウンドの方にリソースを注いで欲しい。

育成とか色んなメソットもいいけど、それはグラウンドがあるからこそできること。もっと僕らのやっていることを知って欲しいですね。

トーナメント文化を壊してリーグ戦の文化へ

──もう一つのイベントで、ケンさんが実行委員長、責任者を務めているプレミアリーグU-11に、ボビさんのチームも参加されています。このリーグ戦をやる上でもグラウンドというのは非常に大事になってきますね?

幸野 そうですね。プレミアリーグU-11が何かというのを知らない方もいるので説明します。

元々日本の小学生年代はトーナメント文化でした。全日本少年サッカー大会を筆頭に、毎週のように何とか招待、何とか大会という様々な大会を渡り歩いていました。しかし、そういう育て方は行き当たりばったりです。一方で世界の主流は年間を通したリーグ戦。

欧州も南米も年間30試合ほどのリーグ戦をやっています。例え負けても、すぐ次の週にまた試合があるという落ち着いた環境でサッカーに取り組めることが、一番のメリットです。150年もの間、彼らがサッカーの歴史の中で試行錯誤してたどり着いた答えで、日本もリーグ戦主体に変えるべきです。

しかし日本のトーナメントは、全国高校選手権をはじめインターハイなどあらゆるカテゴリーにあります。それをリーグ戦に変えるように、日本サッカー協会が全て管理できればいいですが、そこまで手が回らないのが実情。だから私たちが立ち上がって、6年前に作ったのがプレミアリーグU-11です。

現在は33の都道府県で3000試合を行っていて、7000人の選手がプレーする日本最大のリーグ戦になっています。千葉県は3部まであって、ボビのチームにも参加してもらって、今は3部を戦っています。

リーグ戦は6年目に入り、多くの子どもたちが年間を通した試合を楽しんでいます。皆さんにも共感していただいているからこそ、33都道府県に拡大しているのかなと思います。今年の4月から東北の山形県、秋田県、岩手県が参加してくれることが決定し、東北6県全部が参加してくれます。4月からは東北大会を東北全県で開催することが決まって、3月27日、28日は宮城県の尾長町で開かれることになっています。

──プレミアリーグU-11の順位表を見ているのですが、1部のジェフ、レイソルなど、強豪のチームがたくさんを参加されています。そのなかでボビさんのチームは今は3部Bですね。

カレン 去年、ジュニアのチームををやっと作れました。小学4年生から始めています。

幸野 だからいま小学4年生しかいないんだよね?

カレン そうですね。

──プレミアリーグU-11に参加し、運営にも関わっていると思いますが、いかがでしょうか?

カレン 元々、小学4年生の大会は少なくて、僕のチームは今年度に関しては、この大会しかありませんでした。強いグループに参加して、勝つことは難しい。でも子どもたちはいい経験になっていますし、ルールもかなり特徴的です。日本のルールとは違って、オフサイドルールや3ピリオド制、必ず選手を交代させなければいけないなど、育成年代に大事な部分を全部盛り込んでくれているルールです。子どもたちは実になっていると思います。

──リーグ戦をやる上で、グラウンドは結構ネックになるんですか?

カレン そうですね。コロナの影響で、試合消化が難しかったのです。僕らはグラウンドを所有していたので、「グラウンド空いてるので、試合できませんか」とお願いしても、そもそも試合自体がダメ。コロナの陽性者が出てしまったこともあり、延期が多かったですね。ただ、グラウンドを所有しているチームだったので、それでも試合を消化することはできました。

──ほとんどのクラブチームは、学校や行政が所有しているバターンが多いですね。緊急事態宣言が出ると、活動できなくなるなど大きな影響を受けてしまいます。

幸野 だからこのコロナが落ち着かないと、自分たちのグラウンドが使えも、他のチームとの対外試合ができない。だからこのコロナが落ち着くことが一番で、早く落ちくことを願っています。

──本当そうですね。ありがとうございます。

幸野 やっぱりわれわれは、グラウンドをしっかり作って、地に足つけながらやってるやり方。そうじゃないやり方のクラブも出てきていて、まずはハードを作ってみたり。いろいろなやり方が出てきている。でも私とボビは似ていて、そういう人たちってあまりいない。今はSNS戦略だったり、みんな派手にやっていてすごい。

カレン そうですね(笑)。

幸野 そういうのに負けないように、われわれも頑張ってやっていかなきゃいけないんだよ。

カレン 本当にそうですよ。東京のクラブに負けないようにやっていかないと。

幸野 でも天皇杯は、うちの方が上に行ったから。

カレン それは、もう、関係無いっす(笑)。

幸野 はっはっは(笑)。まあ、お互い手を取りながら東京に負けないようにやっていかないと。頑張ろう。

カレン 頑張りましょう。


幸野健一(こうの・けんいち)
プレミアリーグU-11実行委員長/FC市川GUNNERS代表/サッカーコンサルタント

著書
パッション 新世界を生き抜く子どもの育て方

1961年9月25日、東京都生まれ。中央大学卒。サッカー・コンサルタント。7歳よりサッカーを始め、17歳のときに単身イングランドへ渡りプレミアリーグのチームの下部組織等でプレー。 以後、指導者として日本のサッカーが世界に追いつくために、世界43カ国の育成機関やスタジアムを回り、世界中に多くのサッカー関係者の人脈をもつ。現役プレーヤーとしても、50年にわたり年間50試合、通算2500試合以上プレーし続けている。育成を中心にサッカーに関わる課題解決をはかるサッカーコンサルタントとしても活動し、2015年に日本最大の私設リーグ「プレミアリーグU-11」を創設。現在は33都道府県で開催し、400チーム、7000人の小学校5年生選手が年間を通し てプレー。自身は実行委員長として、日本中にリーグ戦文化が根付く活動をライフワークとしている。また、2013年に自前の人工芝フルピッチのサッカー場を持つFC市川GUNNERSを設立し、代表を務めている。

北健一郎(きた・けんいちろう)

WHITE BOARD編集長/Smart Sports News編集長/フットサル全力応援メディアSAL編集長/アベマFリーグLIVE編集長

1982年7月6日生まれ。北海道出身。2005年よりサッカー・フットサルを中心としたライター・編集者として幅広く活動する。 これまでに著者・構成として関わった書籍は50冊以上、累計発行部数は50万部を超える。 代表作は「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」など。FIFAワールドカップは2010年、2014年、2018年と3大会連続取材中。 テレビ番組やラジオ番組などにコメンテーターとして出演するほか、イベントの司会・MCも数多くこなす。 2018年からはスポーツのWEBメディアやオンラインサービスを軸にしており、WHITE BOARD、Smart Sports News、フットサル全力応援メディアSAL、アベマFリーグLIVEで編集長・プロデューサーを務める。 2021年4月、株式会社ウニベルサーレを創業。通称「キタケン」。

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