【ハンドボール】東俊介 SHUNSUKE AZUMA Vol.3「“パラレルワーカー”という生き方」
ハンドボールで日本一に9度輝き、日本代表ではキャプテンを務めた東俊介氏。引退後は複数のスポーツ関係企業で仕事をする“パラレルワーカー”として活動する。
野球やサッカーのような大きな市場にはなっていないマイナー競技の世界で戦ってきたからこそ見える、これからの日本のスポーツ界に必要なものとは。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。
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パラレルワーカーという働き方
——ハンドボールが東さんの軸としてあると思いますが、パラレルワーカーと言われるように本当にいろいろなことやられているわけですよね。そうすると「ハンドボールに集中してないんじゃないか」とかそういう見られ方をされることもあると思いますが、東さんがパラレルワーカーという働き方をされている理由はなんでしょうか?
面白そうなことをとりあえずやってみたり、必要とされているところの手伝いをするというのが基本的な姿勢ですね。必要とされなくなれば別に離れてもいいというスタンスでやっています。僕の中で最終ゴールは「ハンドボールをメジャーにする人になる」と決めているので、そのためにもいろんなことを知っておいたほうがいいと思っています。あとはいろいろなところで仲間を増やすことも大事です。世間を知れば知るほど、多様なコンテンツが溢れている世の中で「ハンドボールを応援してください」というのは難しいことに気がついて。それよりもたくさんの仲間をつくって「僕の夢を応援してください」という方が実現性が高いかなと思っているんです。
——いろいろなことに関わることで応援してもらえるような人や企業を増やすことをやっているわけですね。
この先サービスや商品はどんどんコモディティ化していって、品質や価格に差はなくなっていくと思うんです。何を買うかよりも誰から買うか。誰と一緒にいたいかというところの選ばれる人になっていかなきゃいけないと強く感じています。
——“東俊介”を応援したいという人が結果的にハンドボールをバックアップしていく。それは東さんのやりたいことと合致していくというわけですね。
それだけいろいろなことをやっていると関わってくる人はいっぱいいるので、この人とこの人繋いだら面白いなとか。“村”と“村”という言い方をするんですけど、離れていれば離れているほど価値って上がるんですよ。僕もアスリートをやっていたのにビジネスのことをやると珍しい人間になるじゃないですか。例えば北海道は蟹が当たり前にありますけど、沖縄に行くと珍しいから価格も上がって相対的な価値も上がる。そんなことが世の中にはいっぱいあるような気がしています。「スポーツは素晴らしい」と言いますけど、それはスポーツの中の人だけが言っているんじゃないか、村の外には伝わっていないからスポーツにお金も人も集まってないんじゃないですかと思うんです。
——ハンドボールから遠いところに関わることで東さん自身の価値が上がって応援される人になり、相対的にハンドボールの価値も高めながらスポーツの良さを伝えていくと。
最近よく話すのが「ハンドボールの畑を掘っても何も埋まっていなかった」と。日本代表のキャプテンをやるくらい掘ってみたけど、何も埋まっていなかった。でも同じようにITの畑を掘ってみたらザクザクと出てくるわけです。「ではどっちの畑を掘りにいきますか?」となるわけですけど、掘る力をつけておけばどこに行っても掘れるというのは実感としてあります。
——掘る力をつけておくというのは?
何かできないことをできるようにするというのはアスリートの優れている能力だと思うんです。つまり目標にコミットする力はある。スポーツ教室とかで「サッカーをうまくします」「野球をうまくします」というのは世間で成功している親には通用しないんです。「それで食べていけるの?」「いつまでもサッカーや野球をしているんじゃない」となるわけで、だからそれは将来ビジネスにも役に立つというこのシフトチェンジが必要なんですよね。
スポーツ人材は企業のニーズがある
——東さんは長く企業スポーツを経験されてきましたが、これからの企業スポーツについてはどう感じていますか?
これからは企業スポーツのほうがもしかしたらプロスポーツよりも可能性があるんじゃないかと思っています。例えば採用ですね。これから少子高齢化が進んで人手不足は深刻になっていきます。そんな中でもスポーツを一生懸命やってきた人材を採りたい。そうなったとき、スポーツチームを持っていることは強みになりますよね。そして採用してからもスポーツだけをやらせるのではなくて、1日24時間ある中で8時間はトレーニングとコンディショニングに費やして、8時間を睡眠に充てるとしてもまだ8時間あります。そこでしっかりと企業の人間として仕事をすることで、人としてしっかりと上積みができるわけです。
——プロと比べてその8時間の使い方において、企業スポーツのほうが可能性はあると。
競技に集中するということを免罪符にしてムダな時間をつかっている部分があるのではないかと。若い選手にその8時間の上積みが必要な理由を説明してもわからないのであれば、強制的に働かなければならない環境がある企業スポーツというのは素晴らしい環境なのではないかと思うんです。ただ、企業スポーツ側にも問題はあります。上司や同僚が良かれと思って「競技をやっている間は競技に集中して、仕事なんてしなくて休んでいい」と言ったりするわけですよね。でもそれは全然その人のためにならないわけです。それだったらプロになった方がいい。その空いた8時間で普及活動やメディアに出ることで価値をあげた方がまだ有意義ですよね。
——企業にスポーツをやってきた人材のニーズがあるというのは、例えば理不尽にも耐えてきた経験が将来的に営業として雇うときにストレッチをかけても耐えられたりとか、そういう側面があるんでしょうか?
すぐ辞めますよ。ストレス耐性はその競技に対してストレス耐性があるだけの場合が多いと思います。好きな野球では辛いことでも耐えられるけど、仕事で辛いことは頑張れないパターンは多いです。そのギャップを整理することが必要で、自分はスポーツを続けて何を得てきたのか。例えばバットを振るスピードとか、ボールを投げるスピードなどの技術を身につけてきたのではなく、目標を達成する能力とか、逆算する力とか、周囲への思いやりや相手へのコミュニケーション能力とか。そういうことをちゃんと整理することがすごく大事ですね。
——一方でスポーツをやってきて成功している人も多いですよね。
一番の成功パターンは野球やラグビー、サッカーなどチームスポーツでトップを目指す経験をしてきた人たちが引退という強制的な終了を経て社会で別の活躍をしていくパターンですね。
——そこを深追いしすぎて挫折してしまう人もいるわけですよね。
多いですね。でもちゃんと転換することが大事だと思っています。挫折したということもときに武器になりうるので。よく僕は言い換えをするんですけど「〇〇だったから」というと言い訳になりますけど、「〇〇だったけど」というとそれを逆転させることができます。「貧乏だから」ではなく、「貧乏だけど」とか。「運動神経が悪いから」ではなく、「運動神経が悪いけど」とか。僕はそういう言い換えを現役の頃からずっとやってきました。
——ひと言を言い換えるだけで発想が逆転されるわけですね。
「野球しかやってなかったから」じゃなくて、「野球しかやってこなかったかも知れないけれど、こういうことを経験したから僕にはできる」とか。最初はできないところから始まっていて、できないことをできるようにするのが僕は得意だと。できないことをできるようにするのが練習で、ずっとチャレンジしてトライアンドエラーを繰り返してきたのがアスリートですから。僕も40歳でこれまでとは全く異なる業種のベンチャー企業に入社して、最初は全然ついていけませんでしたけれど、「あれに比べたら」が支えになりましたから。「今はできないけど、努力を続ければいつかはできるようになるはず。その時までやり続ければいいんだ」ということを経験しているのは大きな強みです。「アイツにできるのに俺にできないわけがない。同じ人間なのに」っていうメンタルを持つことがすごく大事かなと思いますね。精一杯努力したとしても成功は約束されていませんが、成功に向かって努力することで成長は絶対にできると思います。
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