ライダーカップ出場は叶わずも… 絶賛された「グッドルーザー」にもらい泣き【舩越園子コラム】
先週はPGAツアーの試合が無いオープンウィークだったが、だからといって、米ゴルフ界が静寂に包まれていたというわけではない。
今月末からイタリアで開催される欧米対抗戦「ライダーカップ」(9月29日~10月1日)の米国チームメンバーの人選を巡って、侃々諤々(かんかんがくがく)の論議が巻き起こり、騒々しい日々となった。
そして、チーム入りを逃したある選手の実に潔いグッドルーザーぶりが、ゴルフファンの涙を誘い、その出来事が論議に拍車をかける展開になった。
12人で構成される米国チームのメンバーは、まずポイントランキングの上位6人が自動的に決まり、その後にキャプテン推薦による6人が選ばれるという2段階方式。
最初にチーム入りが決まったトップ6は、スコッティ・シェフラー、ウィンダム・クラーク、ブライアン・ハーマン、パトリック・キャントレー、マックス・ホーマ、ザンダー・シャウフェレという顔ぶれだった。
当初は、そのトップ6に今年の「全米プロ」覇者のブルックス・ケプカが入ると見られていたが、最後の最後にケプカはランク7位へ押し出された。米国キャプテンのザック・ジョンソンが、果たしてLIVゴルフ所属のケプカを推薦で指名するかどうかに大きな注目が集まっていた。
蓋を開けてみれば、ジョンソンはケプカを選び、アンチ・LIVゴルフ派やアンチ・サウジアラビア派の人々からは「米国の栄誉とプライドが損なわれる」といった批判の声が上がった。キャプテンがLIVゴルフ選手を選んだら、そうした批判が出ることは誰もが想像していたと言っていい。
だが、ケプカ以外の5人の人選に関しても強い批判が噴出したことは、少々想定外だった。
ジョンソンから指名された5人は、ジョーダン・スピース(ランク8位)、コリン・モリカワ(ランク10位)、サム・バーンズ(ランク12位)、リッキー・ファウラー(ランク13位)、そしてジャスティン・トーマス(ランク15位)。いずれも人気が高く、経験も豊富な選手ばかりだ。
しかし、今季絶好調のキーガン・ブラッドリー(ランク11位)を選ばず、今季絶不調でランク15位のトーマスを選んだことが、正しい選択と言えるのかどうかが大いに取り沙汰された。
ジョンソンいわく、「トップ6に初出場者が多い分、キャプテン推薦ではライダーカップ経験を何より重視した」とのこと。絶不調にもかかわらず、あえてトーマスを選んだ理由は「JTのライダーカップにかける想いは誰よりも熱い。彼はライダーカップで戦うために生まれてきたような選手で、彼を米国チームに入れないことは私には考えられない」。
ジョンソンのそんな選択を「えこひいき」「ボーイズクラブ(仲良しクラブ)」と批判する声がファンやメディアから巻き起こった。
実際、キャプテンから指名されたケプカ以外の5人は全員、ジョンソンと日ごろから親しく交流している。一方、ジョンソンから指名してもらえなかったブラッドリーは、ジョンソンらの“ボーイズクラブ”とは、常日頃、行動をともにしてはいなかった。
もちろん、それだけが理由でジョンソンがトーマスを選び、ブラッドリーを選ばなかったわけではないだろうと私は思う。だが、「メンバーどうしの化学反応も考慮した」と言ったジョンソンの言葉には、選手どうしの親しさや相性も選考基準となったことを示唆していた。
そんな中、選ばれなかったブラッドリーが失意の胸の内をSNSで発信。彼はライダーカップに初出場した2012年大会の際、チームメンバー一人ひとりに配られたネーム入りの専用スーツケースの写真を添えて、こうつづっていた。
「これは2012年ライダーカップの最終日以降、一度も開いていない僕のスーツケースだ。ライダーカップで勝つまではこれを開かないと、あのとき僕は自分に誓った。あの大会で僕のゴルフに対する姿勢は大きく変わり、ライダーカップは突如として、最も重要なものになった。米国チーム入りするために必死に努力を重ねてきた自分を、僕は誇りに思っている。しかし、その努力は実を結ばなかった。でも、そうなってしまった今、僕はチームの後方支援に回るべきときを迎えたのだと思う。チームメンバーたちの戦いをしっかり眺め、彼らのために最大限の応援をしたい。そうすることで、彼らを背後から引っ張りたい」
傷心と落胆の中、胸中を正直に吐露し、そして心を切り替えて潔く応援に回ると誓ったブラッドリーは、チーム入りという戦いには敗れたものの、「素晴らしいスポーツマンシップを示したグッドルーザーだ」と賞賛の嵐が巻き起こった。
もらい泣きした人も少なくなかったのではないだろうか。私も、その一人だった。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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