W・クラークを勝利へ導いたアドバイス【舩越園子コラム】

ウィンダム・クラークのグリーン上を激変させたアドバイスとは?(撮影:GettyImages)

PGAツアーが誇る今季2つ目のシグネチャー・イベント「AT&Tペブルビーチ・プロアマ」の最終ラウンドは、悪天候のため一度は月曜日に延期された。しかし開催地カリフォルニア州モンテレー半島一帯の天気予報は月曜日も火曜日も「激しい荒天」のため、PGAツアーは最終ラウンドを中止して、同大会を54ホールに短縮することを決めた。

現地時間(パシフィック・タイム)日曜日の夕方に大会短縮を決めたことは、PGAツアーとしては異例のスピード決断だった。それだけ出されていた天気予報が大荒れだということなのだろう。最終日に大挽回を狙っていた選手たちにとっては残念な結末となったが、先が見えない待機時間や不規則進行を早々に避けることができたという意味では、PGAツアーによる早期決断に感謝している選手や関係者は少なくないはずである。

大会が54ホールに短縮されたことで、3日目を終えて2位に1打差で単独首位に立っていたウインダム・クラークが、そのまま優勝者となった。クラークは30歳の米国人選手。2017年にプロ転向し、下部ツアーなどを経て2019年からPGAツアーで戦い始めた。

なかなか勝利が挙げられなかったが、昨年5月に「ウエルスファーゴ選手権」で、ついに悲願の初優勝を挙げると、続く6月には「全米オープン」を制覇し、メジャー・チャンピオンとなって歓喜の涙を流した。

だが、そこから先はパットが絶不調に陥り、苦悩する日々になった。困り果てたクラークは、パット専門コーチとして知られるフィル・ケニョンの門を叩いたが、多数の選手のパッティング指導を請け負っているケニョンはあまりにも多忙。すぐにクラークを指導する時間が取れず、代わりに信頼を置いている相棒コーチのマイク・カンスキーを今週のペブルビーチへ送り込んだ。クラーク自身は、さまざまな種類のパターを9本も持参してペブルビーチに乗り込み、カンスキーの指導を受けた。

練習グリーンでカンスキーはクラークが使用していたパット練習器具をすべて取り払い、セットアップもストロークもすべて自分の感性重視で行なうようアドバイスした。
さらには、パターをやや短く握ることでコントロール性を高め、クロスハンドで握ることで、これまでのパッティングとはまったく異なる感覚をクラークに持たせた。

「今までの自分のパッティングとは、まったく別モノというぐらい、すべてが異なる。それが僕の苦手意識を払拭する役割を果たしてくれた」

新たなスタイルを実践し始めたクラークのパットは、まるで突然変異したかのように不調から絶好調へと一変した。3日目には、18番でイーグルパットを決められなかったことでミラクルスコアの「59」こそ逃したが、「60」をマークしてリーダーボードの最上段へ。それが、今季初優勝とシグネチャー・イベント初優勝、そして通算3勝目につながった。

「パット・イズ・マネー」と言われるように、今大会におけるクラークの直接的な勝因はパットの向上だったと言うことができる。だが、彼のゴルフ全体が一気に向上した理由は、実を言えば、もう1つあった。昨年末からジュリー・エリオンという女性メンタルコーチに師事し、メンタルトレーニングを受け始めた。

「彼女からは、パットに対しては何一つゴールを設定しないことを今週のゴールに据えるようにとアドバイスされていた。それが何より僕のメンタル面の助けになった」

これまでのクラークは「パットは上向くだろうか」、「僕のパットは大丈夫だろうか」と、いつもパットのことばかりを考え、意識し過ぎていたという。しかし、その意識こそが集中力の邪魔になっていることを、クラークはメンタルコーチから指摘され、ハッとしたのだそうだ。

とりわけ、ペブルビーチのグリーンは傾斜が強く、ポアナが悪戯をする難グリーンなのだから、「パットは誰もが苦しんで当たり前だと最初から思うこと」。その一言がクラークの心を救い、勝利へ導いたという話は、われわれ一般ゴルファーにとっても大いなる励ましになりそうである。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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