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天国の母のために「スーパー・ストロングな心」で悲願の初優勝、W・クラーク【舩越園子コラム】

母さん、勝ったよ!(撮影:GettyImages)

PGAツアーの今季9つ目の「格上げ大会」となったウェルズ・ファーゴ選手権の最終日は、ともに米国人のウインダム・クラークとザンダー・シャウフェレが勝利を競い合う展開になった。

2人は同い年の29歳。かつてはクラークがオレゴン大学、シャウフェレがサンディエゴ州立大学のゴルフ部に所属し、カレッジゴルフで腕を競い合った仲だった。

だが、一足早くプロ転向したシャウフェレは、すでに通算7勝を挙げ、世界ランキング5位。一方のクラークは2017年のプロ転向以来、いまなお未勝利で世界ランキングは80位。その差を見れば、最終日はシャウフェレの逆転勝利も予想されていた。

しかし、蓋を開けてみれば、クラークがシャウフェレを4打差で抑え込む圧勝で、悲願の初優勝を飾った。

この5年間、どうしても勝てなかったクラークだが、今年の春ごろから徐々に調子を上げながら今大会に臨んだ。

「メンタル強化のためのトレーニングを積んできた。これまではスコアにこだわりすぎて、生きるか死ぬかと思いながらゴルフをしていたけど、そういうギリギリの考え方を改めたら、逆にゴルフが良くなってきた」

オレゴン大学ゴルフ時代のコーチは、かつて試合における乗用カート使用を巡ってPGAツアーと法廷で争ったケーシー・マーチンだった。そして、マーチンは現在もスイングコーチとしてクラークを支えている。

そしてオレゴン大学ゴルフ部で副コーチを務めていたジョン・エリスも、クラークのキャディを務め、メンタルコーチも兼ねている。

大学時代のコーチと副コーチがクラークを支え続けている理由は、もちろん「クラークの才能に惚れ込んだから」だそうだが、実を言えば、そこにはもう1つ別の理由もある。

10年前、クラークが大学在学中だった19歳のとき、彼の最愛の母が乳がんでこの世を去った。とても美しい女性だったそうだが、55歳の若さで亡くなり、残された息子は悲しみのどん底に突き落とされた。そんなクラークを大学ゴルフ部のコーチと副コーチが懸命に励まし、以来、3人はチームとなり、一丸となって、ともに歩み続けてきた。

「母は決断が早く、心を決めたら信じて突っ走る性格だった。母はいつも天国から僕を見守り、励ましてくれている。そんな母のために、早く優勝し、その賞金で乳がん撲滅のための財団を設立したい」

その想いが強すぎたのか、なかなか初優勝を挙げられず、「泣きたい、クラブを折りたいと何度思ったことか。実際、クラブを折ったことは幾度もあった」。

このままでは勝てない。勝てない理由は自分のメンタル面にある。そう気づいたクラークは、メンタルトレーニングを受け、「我慢強くプレーすることを、ようやく覚えた」。

今大会最終日をシャウフェレに2打差の単独首位で迎えたクラークは、いきなりボギーを喫し、あっという間にシャウフェレに並ばれた。だが、心を乱されることなく耐え、8番のバーディで再び単独首位に立ち、10番からの4つのバーディでリードを広げていった。

72ホール目。クラークのティショットは右に飛び出し、フェアウェイバンカーにつかまった。だが、すでに差は5打もあり、無理せずレイアップしてボギー・フィニッシュ。それでも4打差の圧勝で、夢にまで見た初勝利と、初めてのオーガスタ・ナショナルへの切符も掴み取った。

「勝てなかったこの5年間は長かった。でも、待ったかいがあった。今日の僕のメンタル面はスーパー・ストロングだった。よく耐えたと思う。今は亡き母は、この場にはいないけど、きっと僕を見ていてくれたはずだ」

そう、母親を失った悲しみに耐え、勝てなかった5年間の苦労にも耐え、この日をスーパー・ストロングな心で戦い抜いた息子の姿を見て、天国の母親も喜んでいたことだろう。

これまでクラークが1試合で得た賞金の最高額は、今季のWMフェニックス・オープン10位による48万5000ドル(約6550万円)だったが、この「格上げ大会」での優勝賞金は360万ドル(約4億8670万円)。

いろんな意味で「待ったかいがあった」。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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