「オール・アバウト・距離感」石川遼のアプローチ論が面白い
前週行われた「JAPAN PLAYERS CHAMPIONSHIP by サトウ食品」で今季初優勝、ツアー通算19勝目を挙げた石川遼のウェッジやアプローチに対する考え方が面白い。
「全米オープン」でテストしていたキャロウェイの未発表ウェッジ『OPUS』を、帰国してすぐのタイミングで投入しての優勝。4日間通してのパーオン率は75%だったが、ショートゲームが冴えてパーキープ率は全体4位の94.4%だった。通常、ウェッジこだわるプロであれば、ソールを細かく削ったり振り心地を調整したりするが、なぜ石川はこんなに早いタイミングで投入できたのか。
全米オープンに臨むにあたり、石川のクラブを担当するキャロウェイの石井尚氏は、「どっちかはハマるだろうと思って、ソールの違う2本の58度を持っていきました」という。狙い通りそのうち1本を気に入り「すごいフェースに乗る。スピンが入る」と好感触を得た。
それまで使っていた『JAWS RAW』はソールのトゥ側2つのウェイトポートにタングステンを装着して、重心をフェース中央に持ってきていた。今度の『OPUS』はそのウェイトポートがなくなり、しかもネックが長い。ヘッドが高重心化したことがスピン量の増加につながっていると考えられる。全米オープンでの即投入は見送られたが、予選落ちした3日目にもコースでウェッジの練習を行い、「その時に(翌週の)サトウ食品で使うことを決めたのではないか」と石井氏は予想する。
石川の好みを知り尽くしている石井氏だからこそ、新しい58度のウェッジに特に何も手を加えることなく、試合で使いこなすことができたのだが、以前、石川はウェッジに対してこんなことを言っている。「もしかしたら(ソールを削って)調整すれば良くなるのかもしれないですけど、これを打てないというのを打てるようにしたときに、もともと得意としていた打ち方ができなくなっちゃうと元も子もない。それが一番怖い」。
石川が今年特にこだわっているのは58度のランニングアプローチ。「52度の払い打ちと高さは同じでも、スピンは1.5倍くらいかかっている。スピン量が入ることによって1バウンド目を奥に突っ込めます。フックの傾斜がきつくても、52度で転がすよりも切れ始めが遅くなるので、すごく直線的に狙えるのが利点です」。これが打てることが58度のウェッジを選ぶ1つの基準となる。
また、「1本物みたいなのをこだわって作ったときに2本目、3本目の再現性がね」とも石川は話す。ウェッジの溝が減れば、交換するタイミングが必ず訪れる。ウェッジのソールを削って育てても、次のウェッジに替えるタイミングで、ソールの地面への当たり方がまったく同じウェッジができるとも限らない。ウェッジにあれこれ手を加えないことも、すぐに投入できた理由だろう。
ちなみに、石川がウェッジを替えるタイミングは「んっ?って思ったら。自分でこの打ち方をして、この当たりをしたら、だいたいこう飛ぶというのがあるんですけど、それがズレてきたらですかね。年間だと2、3本です」と語る。
また、スピードの速いフルショットと、そうではない50ヤード以内のアプローチを完全に切り分けて考えているのも面白い。
「アプローチってやっぱりオール・アバウト・距離感だと思うんです。58度だろうが何だろうが、自分の思ったところに落とせて、自分が思った距離が出せればいい。それがロングゲームになるとクラブが長くてスピードも速いので、感覚ばかりではない。真っすぐ遠くに高い確率で飛ばすには、正解があると思っているんです。ただショートゲームは、どんな打ち方をしても寄るか寄らないかが一番大事なところ。アプローチと長いショットの違いはそこかな」
2020年からスイング改造に取り組み、ショットが思うように飛ばない期間が続いても、賞金シードを失わなかったのは、普遍のアプローチ論があったから。19年以来遠ざかっている年間複数回優勝もそう遠くはなさそうだ。
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日本では石川遼、河本結、伴真太郎の3人しか使っていない、ツアーだけに支給されているボールがある。関連記事【石川遼&河本結が使うツアーにしかないキャロウェイ『第3のボール』を発見! 市販品との違いは?】では、『クロムツアー』のロゴのヨコに『・』(ドット)が刻印されているボールの正体について、石川遼と河本結に詳しく聞いている。
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