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「悔しくて眠れなかった」初日『82』からカムバック 兼本貴司が大会最少の“67”でリベンジ

「67」で急浮上! 兼本貴司が大まくりで予選通過を決めた。(撮影:ALBA)

<全米シニアオープン 2日目◇30日◇セントリーワールド(米ウィスコンシン州)◇7218ヤード・パー71>

シニア最高峰の戦いは2日目が終了した。深いラフと難解なグリーンに、百戦錬磨の名手たちが大いに苦しめられた。この日は「マスターズ」を2度制しているベルンハルト・ランガー(ドイツ)が「68」をマークして首位に立ったが、そのランガーや並み居る強豪を上回ったのが、初出場の兼本貴司だ。6バーディ・2ボギーの「67」は今大会のベストスコア。128位タイから38位タイにジャンプアップを果たし、決勝ラウンドにコマを進めた。

木曜の夜は「実を言うと悔しくて眠れなかった」と明かす。昨年の国内シニアツアー賞金ランキング上位の資格で出場を果たした5月の「全米プロシニア」でも「まったく歯が立たなかった」と予選落ち。同資格で出場している今大会でも「なんとかしたい」と思った初日に「82」を叩き、落ち込んだ。兼本に限らず、プロゴルファーにとって“80”という数字はめったに出るものではない。「『ゴルフをやめようか』なんてことも思った」というほど、悔しさがこみ上げた。

ところがゴルフは何が起こるか分からない。10番からスタートしたこの日は7メートル、2メートルを沈めて連続バーディ発進を決めた。「ダメ元だなと切り替えて、いけるところはいこう」と攻める姿勢で臨み、スタートダッシュに成功。この時点で予想されていた予選カットラインに浮上した。

きのうまでは「怖さがあった」と難コースを前に萎縮していたが、持ち前の豪打を信じて勝負に出た。12番をバーディ逃しのパーとすると、13番では4メートル、14番では3打目を1メートル、15番では9番アイアンで4メートルにつけて3連続バーディ奪取。6ホールで5つ戻してみせた。

「うわー、予選通過(圏内)に来ちゃった」と“驚き”の展開。それでも「あまり自分に期待していなかったので」と意識が変わることはなかった。前半最終ホールの18番ではティショットを右の深いラフに打ち込んだ。「そこから7番アイアンでなんとかかき出して、ピンまで45ヤード。でも次をハーフトップして、大きいぞと思った」。3打目が奥の傾斜で戻りピンそばへ。「これすごいぞ、きょうはと思って(笑)」。すべてがうまくいったフロントナイン。この頃には、リーダーボードの中盤に名前が浮上していた。

そんななかでも「そこからはあまり見ていなかった」と置かれた位置は確認しなかった。とにかく目の前のことに最善を尽くし続けた。折り返し直後の1番ではこの日初ボギーも、続く498ヤードのパー4では15メートルの傾斜が入り組むラインを一発で沈めた。「きょうはついている」と思った。その後はボギーを1つ喫するが、10メートルのパーパットをねじ込むなど耐えに耐えてトータル7オーバーと、逆襲に成功する。

「5バーディの前半もそうですけど、後半を評価したい」。予選通過圏内に入ってからのしぶといゴルフが、うれしかった。「前半5アンダーで、後半42、3だったら笑われるんじゃないかと、それをヒヤヒヤしながら」と心配もあったが、そのなかで1オーバーにまとめた後半の9ホールは、「ゴルフの醍醐味かな。ドキドキ、ブルブル震えながら、なんとか寄せまくってパーを拾っていく」。しびれる展開でのパフォーマンスには達成感があふれた。

「ボクはそういうゴルフ。いいときと悪いときの差が激しいんです」。大叩きもあれば、ビッグスコアも出すのが兼本のスタイル。世界一の大会で初日と2日目の差が“15打”とあれば、主催の全米ゴルフ協会(USGA)も話を聞かないわけにはいかない。「ベリーハッピー。グッドラウンド!」と笑顔で一日を振り返る。『競技生活で、最高のラウンド?』の質問には即答。「USシニアオープンでこういうスコアで回れるのは、人生で一番かなと思う」。それほど価値のある18ホールをすがすがすがしく“ハッピー”と表現する。

米国2度目の旅で感じた屈辱からの歓喜。「興奮していて疲れはまだない」とラウンド直後は目もギラギラと光る。「寝られないかもしれないですね(笑)」と、今夜はひとまず幸せな気分に浸る。「今週はもうこれでいいですよ(笑)」と冗談まじりに話すその先には、未知の海外メジャー決勝ラウンドが待っている。次は何が起きるのか。期待せずにはいられない。(文・高桑均)

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