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史上最大の下克上 山内日菜子が絶望から這い上がる“奇跡の初優勝”

ついに悲願成就。大声援に支えられた山内日菜子が初優勝を挙げた。(撮影:福田文平)

<アクサレディスゴルフトーナメント in MIYAZAKI 最終日◇26日◇UMKカントリークラブ(宮崎県)◇6565ヤード・パー72>

1打リードで迎えた最終18番ホール。「(比嘉)真美子さんが打つまではプレーオフを覚悟していた。自分がパターを打つときは何も考えなくて、割と早く打ちました」。そんな心境で放った30センチのパーパットを決めて優勝が決まると、山内日菜子は両手を挙げた後、すぐに手で顔を覆った。「状況が状況だったので…。(これまでは)どの試合に出られるのかとか、リランキングのこととか、いろいろ考えないといけなかったので…。ほっとした気持ちが大きくて、泣きっぱなしでしたね」。こみ上がってくる涙が止まらない、そんな初優勝になった。

娘の歓喜の瞬間を見届けた母・由美さんは、「宮崎で、みなさんの前で優勝できるなんて奇跡のようで信じられない」と、やはり涙ながらに振り返ったが、その言葉通り“奇跡”のような一日がプロ8年目の26歳に訪れた。

小学3年生から何度も回ってきた地元コースで初優勝。さらに、試合に出場するためには主催者推薦に頼るしかない崖っぷちの選手が、自身の今季初戦でその逆風を吹き飛ばす勝利をつかんだことにまず驚かされる。

試合展開もそうだ。逆境をものともせず、這い上がっての粘り勝ちだった。首位と1打差の2位タイからスタートしながら、雨のなか2、3番で連続ボギーを叩いてしまった。ただショットが荒れ、バタバタしたプレーが続くも、「コースを知っているし、ここからもバーディは獲れると思っていた。差が開いて、やるしかないと思えたら逆に落ち着くことができました」と焦りはなかった。実際に6番パー4では、右ラフから残り10ヤードのアプローチを直接決めて初バーディ。すると後半は、勝利を手繰り寄せるビッグプレーが続いた。

10番で1つ伸ばして迎えた14番パー4。残り140ヤードから8番アイアンで放ったセカンドショットはグリーン右手前のカラーに止まる。残りは10ヤード。この3打目を58度のウェッジで放り込んで、この日2つ目のチップインバーディでトップに並んだ。

16番パー3で単独首位に浮上する5メートルのバーディパットを沈めたが、一転、17番パー4の2打目では右のバンカーに落ち、斜面で左足は芝、右足は砂という態勢からのショットを要求された。ただ本人は冷静。「なんとなくうまくいくんじゃないかなと思って、簡単に打ちました。100点ですね」。これをピンと同じ面に乗せると、2パットのパーでしのぎ一気に優勝に近づいた。

今季のQTランクは181位。それも自らのミスが引き起こしたことだった。昨年11月のファーストQT第1、2ラウンドで、練習用のクラブをカートに積んでいたことがクラブ超過とみなされ、8打罰が科された。ファイナル進出を逃し、苦境に立たされることになる。

「終わったな」。時間が経っても、その時のことを振り返る時は、涙をこらえることができない。このランクではレギュラーツアーはもちろん、下部のステップ・アップ・ツアーへの出場すらままならない。絶望にも近い感情を抱きながら今シーズンに臨んだ。

ただ、それが心境の変化ももたらした。「今年は今までと全然違う。もうやるしかない状態。これまでステップは全部出ることができる位置だったから、考えが甘くなっていた。やるしかないと思ってメンタルは強くなりました」。レギュラーツアーに定着こそできていなかったが、これまでは下部ツアーという“職場”があった。それが不透明になったことが、かえって自らを奮い立たせた。『私はもっと上に行くことができる』。これがオフの練習に取り組んでいた時の心境だ。

2002年にQTが始まって以降、山内は最もQTランクが低いレギュラーツアー優勝者になった。この1勝で、一部の大会を除く今季残り試合と翌年の出場権、さらにこちらも宮崎県で行われる今年の最終戦「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」に出られる権利を手にした。数々の苦難を一掃する勝利だっただけに、何度もほほを濡らすことになったのだ。「リコーに出られるのが一番うれしいですね。毎年、その時期はQTを受けていたので。今年はQTを受けずに済みますね」。地元で成し遂げたツアー最大の“下剋上”が、山内のツアー生活を激変させることになった。

「父も母も一番近くで応援してくれていたので、優勝を見せたかった。地元でできて少しは恩返しできました。今までいろんなゴルフ場で声をかけていただいたり、ゴルフ場の方たちがすごく優しくしてくれて、感謝の気持ちでいっぱいです」。家族や地元ファン、これまで支えてくれた人たちにメッセージを伝える時も、やはりあふれる涙は止まらない。

勝つと負けるとでは天と地の差がある大一番を制した。さまざまな感情が交錯する、絶対に忘れることができない日になった。(文・間宮輝憲)

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