「プレーオフをせずに優勝したかった」岩崎亜久竜が最終18番で見せた攻めのスライス
<日本オープン 最終日◇15日◇茨木カンツリー倶楽部 西コース(大阪府)◇7315ヤード・パー70>
トップを走っていた岩崎亜久竜(いわさき・あぐり)は17番でプレー中に、16番の大歓声を聞いた。石川遼がバーディを獲って背後に迫ったことを感じ取った。最終18番パー5では右のラフからスライスをかけて2オンに成功。バーディフィニッシュで石川の追撃をかわし、史上7人目となる「日本オープン」でのツアー初優勝を成し遂げた。
「最初は実感がなかったんですけど、たくさんの方からおめでとうのメッセージをいただいた。人生で一番幸せです」と喜びを語った。
最終日は首位と3打差のトータル3アンダーからスタート。上位勢が伸び悩む中、15番までに4つ伸ばして首位に立った。岩崎が18番のティイングエリアに立ったときには、1つ後ろの組で回る2位の石川とは1打差。確実にバーディを獲って逃げ切るためには2オンが必須で、そのためにはティショットでフェアウェイに置かなければならない。
しかし、無情にも岩崎のドライバーショットは「ファー!」と右の林の中へ。絶対絶命のピンチを迎えたが、テレビ塔があるため救済で10ヤード左にドロップすることができた。岩崎に刻むつもりは一切なかった。「確実にバーディを獲って、プレーオフをせずに優勝したかった。遼さんを応援する人が多くて(プレーオフになったら)アウェーで不利。バーディを狙っていきました」。
グリーン左には池が広がるロケーション。目の前の松の木を避けて放った4番アイアンでの一打は、池の方に飛んだ後にスライスがかかって見事2オンに成功した。後ろのティから見ていた石川は「あそこから乗ったのはスーパーショット。簡単なショットではないですし、亜久竜を称えるしかないと思います」と脱帽した。
一方の岩崎には成功する自信があった。「ラフでけっこう浮いている状況で、普通に4番アイアンで打てる。風も左から来ていて条件がそろっていた。低いフェードで風に乗せて右のバンカーはOKと思っていたので、20ヤード以上曲げるつもりでした。林にはいくことが多いので、イメージは湧いていました。そこまでギャンブルではなかったです」。
長めのイーグルパットは難なく30センチに寄せて、バーディ。差は2打に開き、石川が追いつくにはイーグルしかない。石川は2オンに失敗し、3打目のアプローチが入らなかった時点で、岩崎の優勝が決まった。
昨シーズンは優勝こそなかったものの、2位に3回入るなど、賞金ランキング3位で終えた。今年はその3位以内の資格で欧州ツアーに参戦したが、15試合で予選通過はわずか3回。ベストフィニッシュは60位タイで、ポイントランキングでは261位に沈んだ。「毎週違う国で試合があるので、気候も芝もコンディションも違う。最初のほうはできると思ったんですけど、途中から自信もなくなっていった」。
今季は欧州で出場できる試合がなくなり、前週の「ACNチャンピオンシップ」から日本ツアーに専念することを決めた。
昨年の日本での好調が嘘のようにボロボロになった欧州ツアー転戦。それでも「ピンポジが厳しくても、(欧州の選手は)ギリギリを攻めてくる。ミスしたときでもリカバリー能力がすごい」と気づきもあった。これまでショットの練習に大半を割いていたが、「半分以上はアプローチとパターです」と練習内容は変わっていった。
日本に帰ってきたとき、「ショットがだいぶバラついて、プレーンも上体の軸もブレていた」が、今週は松山英樹のコーチも務める黒宮幹仁氏が会場に来て修正に努めた。そのかいもあって、「本当にガラッと変わって、去年のようにコントロールできました」と万全の状態で今大会を迎えていた。
悲願のツアー初優勝を達成して、来シーズンは日本ツアーを主戦場として戦う予定。ツアーは最終戦の「ゴルフ日本シリーズJTカップ」を含めて5試合残っている。この優勝で賞金ランキングは109位から13位にジャンプアップした。「少しでも賞金ランキングで上位に入れるように頑張りたいです」。ずっとサングラスをかけてポーカーフェイスでプレーしていた25歳は、最後にさわやかな笑顔を見せた。(文・下村耕平)
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